スーパーエース・西田有志 がむしゃらバレーボールLIFE(20) 第19回:西田が「順位を見ない」理由>> バレーボール日本男子代表の若きエース、西田有志(ジェイテクトSTINGS)。これまでのバレー人生と現在の活動について追う人気連載の第…

スーパーエース・西田有志 
がむしゃらバレーボールLIFE(20) 第19回:西田が「順位を見ない」理由>>

 バレーボール日本男子代表の若きエース、西田有志(ジェイテクトSTINGS)。これまでのバレー人生と現在の活動について追う人気連載の第20回は、内定新人としてチームに加入した、ユース時代のチームメイトである宮浦健人のことや、今だからこそ感じるバレーの「楽しさ」などについて聞いた。

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人気、実力ともに日本トップレベルの選手になった西田

 およそ2カ月前、西田有志は"波乱"の21回目の誕生日を迎えた。

 1月30日にホームゲームを制し、勝利者インタビューでファンに感謝を伝えたジェイテクトSTINGSのセッター・久保山尚が、マイクを2本持ってコートの隅でストレッチをしていた西田に近づき、その1本を手渡した。西田は少し驚いた様子だったが、すぐさま立ち上がって、久保山と共に『ハッピバースデー』を歌い始めた。

 昨年10月、主将である本間隆太の誕生日当日の試合でも、西田は『ハッピバースデー』を熱唱している。だが、まさか自分の誕生日も自らの歌で祝うという展開は、会場の誰もが予想していなかっただろう。「ハッピバースデー、ディア〇〇」と名前を入れる部分で、西田が「ディア、俺~」とアドリブをきかせると、チームメイト、会場のファンからも笑いが起こった。

 プレー時さながらの対応力を見せたが、よもや事前に段取りが決まっていたのだろうか。

「いや、久保山さんが勝利者インタビューの中で、僕のためにひとりで歌ってくれると思っていましたよ。でもマイクを渡してきたので、それを拒否するのも自分のキャラではないかな、とも思って『一緒に歌うしかない』と(笑)」

 そんな形で21歳のスタートを切った西田に、ひとつ年を重ねての目標を尋ねた。

「目標は、歳を重ねたことで急に変わるわけじゃないですから。特に昨年は東京五輪が延期になったので、目標のほうが遠ざかってしまった。今年も開催については読めない部分がありますが、とにかくそこに向けてモチベーションを維持していかないといけないですね」

 リーグが終盤戦に差しかかる中、チームには変化があった。2月20日の試合で、ユース代表でポジションを争った、内定選手の宮浦健人(早稲田大4年)がVリーグデビュー。世界大会を制したユース代表時代、オポジットとして活躍した宮浦と、控えだった西田。そこから年月を経て、同じチームに入ってきた1歳上の"ライバル"のプレーを西田はどのように見たのか。

「あれだけ間近で宮浦さんのプレーを見たのは久しぶりです。それこそユース以来4年ぶりかな? あらためてすごい選手だと思いますし、僕のモチベーションも高めてくれる。宮浦さんがVリーグで初めて点を取った時も、それが特別なことではなく、当たり前のことのように感じました。

 僕が高校から直接この世界に入ると決めたのも、『同じこと(大学進学)をしていたら宮浦さんに勝てない』と思っていたから。また一緒のチームでプレーできることは嬉しいです。宮浦さんはすでにいいパフォーマンスを見せていて、もっと上に行ける選手。切磋琢磨しながら互いを高めていきたいと思います」

 コートを離れた時も特別に意識するのかと聞くと、西田は「僕が"ライバル"として特別視していると思っている方もいるかもしれませんが、あくまでチームメイトですし、さっぱりしてますよ。プライベートなことも話します。ただ、ユース時代のことは話題にしないですけどね。僕にとって苦い思い出しかないので」と笑顔で答えた。

 そうしてチームには新しい選手も加わったが、リーグも佳境で選手たちは疲労が蓄積してくる頃。西田もいつものケアに加えて、風呂に入る時間を長めにするなど工夫をしているという。ただ、「僕は楽しいときは疲れを忘れられるんですが、今がまさにそうなので、大丈夫です」と話した。

 チームはファイナルステージ進出争いの真っ只中。その中で感じる「楽しさ」とは何なのか。

「チーム状況というよりも、バレーボールをやれること自体が楽しいんです。コロナ禍でさまざまな制限はありますが、プレーをさせてもらっていることに幸せを感じます。海外の試合を見る機会も多くなったんですけど、その選手たちからもプレーできる喜びを感じますし、パワーをもらっています」

 さらに西田のパワーの源がもうひとつ。直接受け取ることはできなくなったが、チームに届く手紙や差し入れなどに励まされているという。

「ファンからのメッセージは、できる限り目を通しています。直接受け取れないのは残念ですけど、体育館にもたくさん手紙などが届いているのを見て、本当に多くの方々に支えられていることを再確認しました。その恩は、プレーで返していきたいです」

 本人曰く、西田のファンは海外、男性の割合も高いという。筆者は長年バレーの取材を続けてきたが、日本の男子バレー選手には女性ファンが圧倒的に多くなる傾向にあるため、本当に珍しいケースだ。

「SNSなどでメッセージを送ってくれるのは、海外のファンのほうが多いかもしれませんね。(男性ファンが多いのは)自分のプレーが男らしすぎるというか、"いかつい"からじゃないですか(笑)。いずれにせよ、みなさんプレーの内容をしっかり見てくれていることが多いので嬉しいです」

 しかし西田は、「もっと女性からの人気もほしいですけど(笑)。ウェルカムです」と、ちらりと本音をのぞかせた。

 コロナ禍の不安、リーグの状況などを上回る、バレーをすることの楽しさ。感情を隠すことなく、発する言葉やプレーからも常に全力なことが伝わってくる西田の姿に、多くのファンが元気づけられるはずだ。

(第21回につづく)