「THE ANSWER」オンラインイベント登場、摂食障害と月経について経験を明かす 女性アスリートのコンディショニングについて考える、スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」のオンラインイベント「女性アスリートのカラダ…

「THE ANSWER」オンラインイベント登場、摂食障害と月経について経験を明かす

 女性アスリートのコンディショニングについて考える、スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」のオンラインイベント「女性アスリートのカラダの学校」が14日に行われ、レスリングのリオデジャネイロ五輪女子48キロ級金メダリスト・登坂絵莉さん(東新住建)とフィギュアスケートで五輪2大会出場した鈴木明子さんが登場。第2部では鈴木さんが現役時代に患った摂食障害の経験を中心に語った。

 このイベントは国際女性デーの8日から1週間、展開された「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」の一環として開催。「タブーなしで考える女性アスリートのニューノーマル」をテーマとし、アスリートの月経問題の発信、啓蒙活動を行っている元競泳五輪代表の伊藤華英さんをMCに、月経周期を考慮したパフォーマンスの研究をしている日体大・須永美歌子教授を講師に迎えた。1、2部でおよそ200人の応募が集まり、各1時間行われた。

 第2部に登場したのが、鈴木さん。冒頭では18歳で摂食障害に陥ったことに触れた。大学進学で初めて親元を離れ、体が女性らしく変わっていく時期。それでも「太ったら跳べなくなる」「太ったらダメな選手」と周囲に作られた価値観に縛られた。もともと完璧主義なところがあり、減量にこだわりすぎた結果、体重が大学1年夏には32キロに。体調を崩してスケートをすることすらできず、実家で静養することになった。

 改善のきっかけになったのは母の言葉だったという。「スケートは諦められない」「また必ず氷の上に戻る」をモチベーションに病気と向き合ってきた鈴木さん。しかし、たんぱく質は豆腐くらいしか取れなかった。周囲に心配され、肉も米も食べなければというプレッシャーもあったが、母は「いいじゃない、食べられるものがあるんだから。食べられるものを食べなさい」と言い、優しく寄り添ってくれた。

「『これしか食べられないんだ』と劣等感を持ち、『生きていて自分はなんてダメなんだ』と追い込んでいました。でも、母がそう受け止めてくれたことで、ようやく自分が許せるようになりました。アスリートは頑張っていないと自分はダメ、評価されないんだと思ってしまいますが、一番近くにいた親が病気も含めて丸ごと受け止めてくれたことが前に進もうというきっかけになりました」

 現在は自身の経験を発信するなど、摂食障害のサポート活動をしている鈴木さん。今、悩みに直面する当事者に向け「一人一人、そこに至るまでの背景が違うので、簡単にアドバイスは言えない」としながら「本人もそうだし、近くでサポートしている家族もどうしたらいいか、分からないことが大きいと思う。ただ、きっと頑張りすぎているから『頑張ろうとしなくていい』『絶対に焦らないでほしい』ということは伝えたい」と話した。

 後半は、月経とコンディショニングについて。鈴木さんはシーズン中になると、無月経になったという。8月の合宿の頃に生理が止まり、9月の試合から3月の世界選手権まで続く。4月になると生理が再開した。無月経による不調は感じていなかったものの、鈴木さんは「今、怖いと思うのが月経が止まっていることを問題ととらえず、『ああ、今年も私は頑張れているんだ』という気になっていたこと。本来なら病院に行くべきこと」と語った。

 イベントは須永教授がアスリートが無月経に陥る原因、月経がある選手と無月経の選手のパフォーマンスに生まれる差など、実際のデータなどを駆使しながら講義も展開。伊藤さんもアスリートの立場で議論に加わり、アスリートのコンディショニングについて意見を交わした。そして、最後に参加者から事前に届いていた質問に鈴木さんが回答。特に切実な声が届いていたのは、摂食障害にまつわるものだ。

「食べ物に罪悪感を消せなくて苦しんでいる」女子学生に寄り添った答え

「今、私は体重を増やすために競技を休んでいます。少しでも増えることに抵抗があるのか、日に日に食べられなくなり、休む前より食べられなくなっています。原因が分からず、体重も減って困っています。鈴木さんは食べることが怖い時、どうしていましたか?」

 鈴木さんは「食べなければいけないことは分かっているのに、食べられないもの」と心情を理解し、「もし、限られていても食べられるものがあるなら、それを自分で認めて無理せず、少しずつ摂取していくこと」とアドバイスした。その上で、アスリート目線で、こう付け加えた。

「競技に復帰したいなら体重を落とすことを目標にするのではなく、出したい記録やパフォーマンスを思い描いて、それに向けて体を作る意識を持つこと」「なぜこの競技をしたいのかもう一度考える。そのために何をすべきかを考えると、食べることだけの執着が消えていくのかなと思います」

 また「今、食べ物に罪悪感を消せなくて苦しんでいる」という女子学生の悩みに対しては「私自身も罪悪感がすごく大きかった」と振り返る。「食べ物には罪はないし、本来、栄養を与えてくれるもの。そこを全く理解せず、これは食べていいもの、ダメなものと決めてしまった」という。

「だから、カロリーが低ければいいとか、栄養を考えずに数字だけに執着しまっていた。食べ物は私の体を作ってくれているもの。そういう考え方に変えてみると、今はこれを食べたら体が喜ぶだろうな、トレーニングで疲れたら使った分のエネルギーを補わなきゃという風に意識が向く。栄養のメカニズムを理解することでも、罪悪感じゃない方向に(感情が)向かうのではないかと思います」

 1時間にわたり、自身の経験と意見を明かした鈴木さん。終了後に取材に応じ、イベントについて振り返った。

 現在、「THE ANSWER」の連載で自身の経験をもとにしたアスリートの健康問題を発信しているが「今スポーツを頑張っている女性と、それをサポートする方に生の声を届けることで、よりリアルに感じてもらえるのではないかと思って参加しました」と話し、「摂食障害も生理も、選手としてどうなりたいかの目標を見失うと対処法が見えてこない。自分の体にもっともっと興味を持っていくことが大切」と訴えた。

 質問では摂食障害についてリアルな悩みが届いた。「やっぱり(悩んでいる人は)多いんだなと感じた」と鈴木さん。「こんなに切実に悩みを抱えていても、どうしたらいいか分からない。それは私自身も感じたこと。私がこういう活動や発信をするのは、そういう経験をする選手を一人でも減らしたい想いから。でも、実際にはまだ悩んでいる選手がいるんだとリアルに感じることができました」と言う。

 そして、最後に「今、壁にぶつかっているかもしれないけど……」と言い、悩みを抱える女性アスリートに寄り添った。

「私の経験で何か悩みをひも解いていけるきっかけになってくれたら。そのさなかにいる時は客観的な視点が持てず、『きつい、つらい』ばかりに感情が向いて、一歩引いて自分を見ることができなくなってしまう。少し視点を変えて、どうして行くべきかの道しるべになれたらいいなと思います」(THE ANSWER編集部)