春のアマチュア野球開幕を告げる社会人野球の恒例イベント・JABA東京スポニチ大会で、Hondaのルーキー左腕が新人賞を…

 春のアマチュア野球開幕を告げる社会人野球の恒例イベント・JABA東京スポニチ大会で、Hondaのルーキー左腕が新人賞を受賞した。

 2試合に登板し、いずれも9イニングを完投して1失点。防御率1.00の大活躍で、Hondaの開田成幸監督は「期待どおりのピッチングをしてくれました」と称えた。

 ルーキー左腕の名前は片山皓心(ひろみ)という。

 この投手の投球を目にするたび、「人間はひとたび自信をつけたら、どこまでも伸びていくのだろうか」と思わずにはいられない。



スポニチ大会で新人賞を獲得したHondaの片山皓心

 昨年10月5日に配信された拙記事「進学校の120キロ左腕が華麗に成長しプロを目指す。可能性にフタをしない」には多方面から大きな反響が寄せられた。茨城の公立進学校・日立一高の控え投手だった片山が、熱意ある指導者たちに導かれるように桐蔭横浜大に進学し、才能を開花させる成長譚だった。

 記事が公開されたあとも、片山は猛烈な勢いで階段を上っている。

 大学4年秋のリーグ戦はエースとして6勝1敗、防御率1.39の圧倒的な成績で優勝に導いた。続く関東大学ナンバーワン(東京六大学連盟、東都大学連盟を除く)を決める横浜市長杯では、初戦から3試合連続完投勝利。3連投となった決勝戦(創価大戦)の最終回に自己最速の148キロを計測するなど、同期の渡部健人(西武ドラフト1位)の特大弾も霞むような活躍で大会MVPに輝いた。

 大会後、片山は大勢のメディアに囲まれ、恩師への感謝を語っている。

「高校時代の中山(顕)先生には、『根拠はあとづけでいい』と言われていたんです。根拠のない自信を持っていれば、あとになって根拠がついてくるからと。大学では監督さん(齊藤博久監督)がずっと我慢して待っていてくれて。結果が出なくても社会人や強い大学とのオープン戦に連れていってくれて、僕が上がってくるのを待ってくれました」

 片山は今春から埼玉県の企業チーム・Hondaに入社する。昨年の都市対抗野球大会で優勝した名門である。いくら急成長を見せている片山であっても、いきなり戦力になるには厳しい競争を勝ち抜かなければならない。

 ところが、3月9日に開幕したJABA東京スポニチ大会で、片山はHondaの2021年公式戦開幕試合の先発に抜擢されたのだ。

 昨年のエース格だった朝山広憲が「しばらく投げられない」(開田監督)とコンディション不良で離脱した影響や、若手を底上げしたいチーム事情もあった。だが、チャンスをつかむにはオープン戦から能力の高さをアピールしなければならない。

 片山は大学野球と社会人野球の違いをこう語っている。

「まず、バッターが簡単に空振りしないです。あとは大学より『打線』になっていると感じます。1番から9番まで人それぞれの明確な役割があって、常に気を張っていないといけない。大学時代のように打順によって見下ろして投げることもできないので、投げにくいですね」

 一段高いレベルに身を置いても、片山は持ち前のストレートを武器に首脳陣からの信頼を勝ち取った。

 スポニチ大会予選リーグ初戦の三菱自動車岡崎戦は初回にタイムリーヒットを浴びたものの、2回以降は快調に0を重ねていく。打線や守備の援護を受け、片山は9回を投げ抜き、被安打5、奪三振8、失点1の完投勝利を挙げた。

「ビギナーズラックです」と片山は謙遜したが、実力のない投手が完投できるほど社会人野球は甘い世界ではない。

 予選リーグを3戦全勝で突破したHondaは、準決勝で三菱自動車倉敷オーシャンズと対戦する。負けたら終わりの大事な一戦で先発起用されたのは、またしても片山だった。

「どんどん振ってくるチームなので、キャッチャーの藤野(隼大)さんと話して立ち上がりは真っすぐで押していきました。ゾーン甘めでもいいから、思い切り真ん中に投げるつもりで」

 ストレートに自信がなければできない攻め方だろう。この日の立ち上がりの球速は130キロ台後半がほとんど。だが、捕手の藤野のミットに収まると「ズドン!」と重低音が響く。片山のストレートは、ホームベース付近でも球威が死なないのだ。

 片山は4回に1点を失った以外はピンチらしいピンチもなく、9回を投げ抜いた。だが、予選リーグでJFE東日本や東京ガスを破って勢いに乗る倉敷オーシャンズは、一筋縄ではいかなかった。Honda自慢の強打線は倉敷オーシャンズ先発のベテラン右腕・矢部佑歩、リリーフした剛腕・廣畑敦也に完封される。

 試合後、会見場に現れた片山は報道陣から「大会通じて結果を残しましたが、自信になりましたか?」と質問を受けた。てっきり首肯すると思ったら、片山は「いえ」と否定して、こう続けた。

「初戦は勝てたので自信になりましたが、今日は負けたので自信にはなっていません」

 この言葉に、今の片山がまとう芯の強さを垣間見たような気がした。

 高校時代の片山は、いつも自信のない投手だった。柔らかな腕の振りなど非凡さも垣間見せており、日立一の中山顕監督は「おまえにはとんでもないポテンシャルが眠っているんだ」と片山を鼓舞し続けた。だが、片山は口では「プロになりたい」と言いつつも、本当の意味で自分自身を信じられていなかった。

「高校時代は中山先生に言わされたというか、ぼや~っとしてたんです」

 そう苦笑交じりに当時を振り返ったこともあった。

 今の片山は、自分の可能性を信じている。だからこそ、いくら好投しても勝利を得られなかった自分を責めているのだろう。片山の口からは反省の弁ばかりが続いた。

「変化球の精度だったり、立ち上がりの悪さだったり、課題はたくさんあるので。真っすぐは通用する手応えがありましたけど、まだ狙ったところで空振りが取れていません」

 Hondaに加入後は、巨人のリリーフ投手として活躍した木村龍治コーチの指導を受けている。ブルペンで投球練習する際、2球連続でボールが高めに抜けると木村コーチからこんな言葉をかけられたという。

「同じボールが抜けたら、次は抜けないよう何かを変えなさい」

 いい時はいい、悪い時は悪いと好不調の波がある投手は、社会人野球の世界では通用しない。「ダメな時に次にどうするか、ということを木村さんに教えてもらっています」と片山は言う。もちろん、その視線の先には現実味を帯びてきた最高峰の世界がある。

 最短で来年秋に解禁となるプロ入りへの思いを聞かれた片山は、こう答えている。

「プロに行きたい思いはありますけど、まだ(社会人野球の)1年目なので。チームとして必要とされる戦力になって、経験を積むためにとにかく試合に投げたいです。プロに行くなら即戦力として行きたいです」

 社会人野球の舞台を知り、社会人野球の厳しさを知った春。片山皓心はまたもや、大きく飛躍するための糧を得た。