ファンタジスタ×監督(2)(1)を読む>> 元ファンタジスタの監督として、ジネディーヌ・ジダン(48歳)は代表的な成功例…
ファンタジスタ×監督(2)
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元ファンタジスタの監督として、ジネディーヌ・ジダン(48歳)は代表的な成功例だろう。2016-17からレアル・マドリードを率いての欧州3連覇は金字塔と言える。卓抜とした勝負強さだ。
「ジダンは自分たち選手のことをわかってくれている。キャラクターやコンディション、あらゆる観点でね。だから、選手はその決断を信用している」
欧州3連覇の殊勲者であるFWカリム・ベンゼマは、ジダンの人心掌握術を絶賛している。ベンゼマ自身、ゴールが奪えずにメディアの集中的批判を浴びた時、ジダン監督の絶対的な信頼のもと、着実に結果を残してきた。チームに張り巡らされたジダンの求心力は、想像以上に強固だ。
ジダンが他の「ファンタジスタ×監督」と一線を画すことができた理由はどこにあるのか?

再びレアル・マドリードを率いているジネディーヌ・ジダン
ジダンは、説明不要のファンタジスタだろう。
そのプレーのひとつひとつが芸術作品だった。一瞬でチャンスを作り出すパスだけでなく、ボールコントロールは柔らかく、「マルセイユルーレット」のように独特の身のこなしで、強いインパクトを与えた。レアル時代の2001-02シーズン、チャンピオンズリーグ(CL)決勝レバークーゼン戦で欧州制覇を決めたボレーシュートの美しさは、永遠に語り継がれるはずだ。
2013-14シーズン、ジダンは本格的に指導者の道に入っている。レアル・マドリードでカルロ・アンチェロッティ監督のアシスタントコーチを担当。帝王学を学んだ時期と言えるか。2014-15シーズンからはカスティージャ(レアル・マドリードのセカンドチーム)の指揮を執ったが、ライセンスが条件を満たしていないなどで一時は問題となった。2015-16シーズンからは名実ともにカスティージャを率いたが、16年1月、トップチームが不振に陥り、急遽ラファエル・ベニテス監督の後任を引き受けている。
そこから監督としての栄光が幕を開けた。すぐさま選手たちを掌握し、ひとつに束ねる。世界最高のファンタジスタとしての肩書と実力は、一歩目を揺るぎないものにした。
「今でも誰よりもボールを扱うのはうまい!」
上ずった声で言う選手たちの称賛を、ジダンは静かに浴びた。当然、そのひと言は重みが違った。
戦術的に、新しい試みはしていない。しかし誰よりも、選手の能力や特色を正しく見極め、適材適所で使うことができた。そして、信頼関係は絶大だった。例えばスプリンターとしては衰えつつあるクリスティアーノ・ロナウドには、ゴールに専念することを納得させて、その勝負強さを最大限に引き出したのである。
「私は18年間、プロ選手として過ごし、ロッカールームがどのように機能しているのか、を心得ている」
ジダンは監督の信条を語っている。
「現役生活は、私のアドバンテージになっているだろう。選手というのは、"自分がこのチームで必要とされている"と感じると、それに感謝し、誇りを持てる。プレーが改善するのは言うまでもない。だから、私はリスペクトのある関係を求めているんだ」
ジダン監督の采配はシンプルだが、指導者の世界では物事を簡潔にすることこそ、何より難しい。様々な圧力があるからだ。
「我々にはすでに最高のGKがいる」
2017-18シーズン、フロレンティーノ・ペレス会長が新たにGKを獲得しようとした時、ジダンはそう言い放って拒否したことがあった。驚くべき胆力である。これを意気に感じたケイロル・ナバス(現パリ・サンジェルマン)がビッグセーブを連発。何より、所属する全員の選手に「ジダンは盾になってくれる。信用できるリーダー」と印象づけ、決勝では一丸となって最強を誇ったリバプールを撃破した。
いったん退いたジダン監督は2018-19シーズン途中に復帰する。そのレアル・マドリードは極めて実務的だ。リスクヘッジし、相手の弱点を突く。徹底的な勝利至上主義で、そこに自由奔放なファンタジー性はない。言い換えれば、ジダンはファンタジーを捨てることによって、監督として高みに達したのだ。
そのルーツは、生来の勝利者として過ごした現役時代にある。
ユベントスでは2度のセリエA優勝、インターコンチネンタルカップ(現行のクラブワールドカップ)優勝。レアル・マドリードではリーガ・エスパニョーラ優勝、CL優勝。そしてフランス代表ではワールドカップ、EURO優勝と、ファンタジスタとして栄光に浴した。勝利のロジックを自然と体に叩き込まれ、彼なりに見出した答えがあったのだろう。ファンタジーは、その数式において絶対ではなかった。
ジダンは自らの華麗なプレーの陰で、勤勉に働く選手の存在を強く感じていた。トップ下で自由なポジションが約束された時、その背後には常にサポートがあった。ディディエ・デシャン、エドガー・ダービッツ、エマニュエル・プティ、パトリック・ヴィエラ、そしてクロード・マケレレなど、相手の攻撃に立ちふさがり、強力なフィジカルを武器にボールを奪い取り、走り回れる"労働者"がいた。
真面目なジダンは、チームが勝利する理由を「彼ら」に探し当てたのだろう。だからこそ、自分の"影たち"によく似たカゼミーロのようなMFを重用する。送り出す選手の「献身」を極限まで引き出し、一発に活路を見出せる勝利パターンを築き上げた。
「もし苦しまなければならないなら、苦しむ。サッカーはそういうスポーツだ」
ジダンはしばしばそう言う。勝負に対し、腹を括っている。その姿勢はファンタジーという脆さを削ぎ落し、彼を名将にしたのだ。
(つづく)