ヴィッセル神戸アンドレス・イニエスタ インタビュー ヴィッセル神戸での3シーズン目となった昨年。2019年を上回るリーグ…
ヴィッセル神戸
アンドレス・イニエスタ インタビュー

ヴィッセル神戸での3シーズン目となった昨年。2019年を上回るリーグ戦26試合に出場したアンドレス・イニエスタは、シーズン終了後、そのパフォーマンスについて納得の表情を見せた。
「これまでで一番いいパフォーマンスを維持しながら、シーズンを進めることができた」
これまでも世界中のサッカーファンを唸らせるパフォーマンスを示してきたのと同様に、Jリーグでも異彩を放ち続けてきたイニエスタだが、彼の中では新たな環境に難しさを感じながらプレーしていた部分もあったのだろう。それは今シーズン、ヴィッセルが獲得に成功した新加入選手、U-20ブラジル代表のFWリンコンについて話が及んだ際に明らかになった。
――リンコンがヴィッセルで成功を収めるために、自身の経験を通してアドバイスできることはありますか?
そんな質問を投げるとイニエスタは、来日したばかりの頃に自身が受けた驚きを懐かしむように言葉を紡いだ。
「Jリーグはどのチームも守備面でのしつこさがあり、常に息をする間も与えてくれないプレッシングのなかで試合が展開されます。リンコンの持つクオリティが、日本のサッカーの難しさを上回り、活躍してくれることを祈っています」
そのイニエスタも昨シーズンは、日本のサッカーへの適応に手応えを感じながら、1年を通して安定したプレーを示し続けた。それを、より実感したのが11月に再開されたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)だ。
シーズン終盤に差し掛かった時期の開催だったにもかかわらず、イニエスタは目を見張るパフォーマンスを披露。初戦の広州恒大戦では1アシスト1ゴールでグループステージ突破の立役者になると、続くラウンド16の上海上港戦でも先制ゴールを挙げ、チームの勝利に貢献する。そんな彼に導かれるように、チームも戦いを進めるごとに自信を膨らませ、クラブが目指す"アジアナンバー1クラブ"に向けて力強く歩みを進めた。
「昨シーズンの僕たちにとって、ACLはとても特別な大会でした。リーグ戦がまったく納得のいかない結果となってしまったなかで、悲しい思いをさせてしまったファンのみなさんに、自分たちの力を証明する最後のチャンスでもありました。
だからこそ、チーム全員が特別な思いを胸にカタールに乗り込みました。そのなかで初戦の広州戦をいい内容で戦えたことも勢いになって、チームには試合を重ねるごとに『このタイトルをつかみ取れる』という確信めいた雰囲気が漂っていました。
また個人的にも、昨年はシーズンを通していいコンディションで過ごせていたこともあり、ACLでもいい感覚でプレーできていたし、最後までベストコンディションでチームの戦いを後押ししたいと考えていました」
だが、上海戦の後半、イニエスタは右太ももを痛めて途中交代。その時点でケガの状態は明らかにされず、彼は続く準々決勝の水原三星戦も控えメンバーに名を連ねたが、そのケガが深刻な状態にあることは、PK戦への突入を覚悟でピッチに立った延長後半、113分以降のプレーで明らかになった。そこに、本来の彼の輝きはなかった。
「チームの流れにブレーキをかけたくないと思い、水原戦もベンチからチームを見守ることを決めました。そして、延長後半からピッチに立ち、PK戦にもつれ込むと、最初のキッカーになることを志願しました。
正直、自分の体のことは自分が一番よくわかっているので、あの1本を蹴ることで、より大きな痛みを感じることも想像できましが、チームメイトが戦う姿を見て、『できる限りの力を尽くしてチームを助けたい』という気持ちを優先しました」
キャプテンとしてだけではなく、イチ選手として、自身が担う期待と責任を果たしたい一心だった。
「僕はヴィッセルへの加入を決めた時から、自分がこのチームで持つ"重さ"を感じてきました。ただのイチ選手であってはいけないという覚悟もありました。それを"アジアタイトル"という結果で示さなければいけない、とも思っていました。
もっとも、それによって長い離脱を強いられたことを思えば、自分の決断がよかったのかはわかりません。ただ、プロのアスリートは時に自分の存在がチームに与える影響を考慮して、そういった決断をしなければいけない瞬間が必ずあります。
だからこそ、自分の決断に後悔はありません。唯一、最後までピッチに立ってチームをサポートしたかった、という点においては悔いが残りましたが......」
結果的に水原戦を最後に、ACLの舞台からイニエスタの姿は消え、チームも準決勝・蔚山現代戦で敗れてベスト4で戦いを終える。
イニエスタもその足で母国・スペインに戻り、手術に踏み切った。右大腿直筋近位部腱断裂、全治4カ月の重傷だった。
「ACLで負ったケガは、僕のキャリアで復帰までの時間を最も要するケガになってしまいました。しかも、36歳でこのような大ケガを負ったことで正直、いろんなことを考えました。
特にケガをしてから手術を決断するまでの時間、そして実際に手術が行なわれるまでの時間は、精神的にも最も苦しみました。本当に手術をするべきなのか、手術がうまくいくのかという不安もあり、何度も自問自答を繰り返しました。それはある意味、僕自身のメンタリティ、サッカーへの思いを試されているような時間でした」
手術をするという決断へ背中を押したのは、冒頭に記した昨年のパフォーマンスへの手応えだ。そこで実感していた自信が、再び彼を"サッカー"に向かわせた。
「2018年に来日してから、昨シーズンは日本のサッカーへの適応や僕自身のコンディションを含め、最も手応えを感じられる1年でした。だからこそ、新シーズンも可能な限りのトップパフォーマンスで、ヴィッセルのためにできるだけ長い時間プレーしたいと思ったし、そのためにはより確実な治療をして、できる限りの早期復帰を目指そうという考えに至りました」
と同時に、そうした手応えは日本でプレーすることへの欲を膨らませるものにもなったと言う。順調にリハビリが進み、復帰まで約1カ月を切った今、改めて4シーズン目のJリーグでのチャレンジに思いを馳せる。
「今シーズン、結果を求めるにはチームとして、まずは『自分たちはできる』『リーグ戦のタイトルを争える能力とチーム力が備わっている』と信じることが重要だと思っています。昨年のACLで我々は、その姿を示すことができましたが、難しいのはそれを1年間続けることです。
実際、僕が在籍した過去3シーズンを振り返っても、1年を通した継続性はヴィッセルに欠けていたと感じています。もちろん、シーズン途中の監督交代やシステムの変更が多少なりとも影響したとは思います。ですが、たとえチームスタイルや戦い方の継続があっても、自分たちを信じて戦うことができなければ、1年を通しての結果を得ることはできません。
また、チーム全体として失点を減らす努力をしなければいけないのも明らかだと思います。現代サッカーには攻撃と守備のバランスが不可欠で、特に守備の安定がなければリーグ戦を勝ち抜くのは難しいと感じています。だからこそ、自分たちのスタイルである攻撃に視点を置きながら、守備力を高めることで攻守のバランスを図ることを追求するシーズンにしたい。
昨年の戦い、順位に目をやると、自分たちよりいいチームがたくさんあったように見えますが、僕はヴィッセルを、自分たちのサッカーを信じています。その"信じる力"は他者によって揺り動かされるものではなく、自分たち次第で備えられます。それをチームの中心に据えて、難しい目標ですが、リーグ優勝を目指したいと思います」
2月末には、自身のインスタグラムで術後初めて、軽快に走る姿をアップしたイニエスタ。「最近は"復帰"をより近くに感じられるようになった」という言葉を聞く限り、再び彼の姿をピッチで楽しめる日はそう遠くはないだろう。
その時のスタジアムはきっと、これまで以上に大きな驚きに包まれるに違いない。