矢野アキ子さんが河谷秀行さんと協力して2011年11月に立ち上げた花道プロジェクトは、バスケットボールの活動としてはまず2012年5月20日に『第1回桜木杯』という3on3大会を立ち上げた。参加費やオリジナルグッズ販売の収益を、アウトドアバ…

矢野アキ子さんが河谷秀行さんと協力して2011年11月に立ち上げた花道プロジェクトは、バスケットボールの活動としてはまず2012年5月20日に『第1回桜木杯』という3on3大会を立ち上げた。参加費やオリジナルグッズ販売の収益を、アウトドアバスケットボールコート建設に充てるために考え出された企画だった。その後さまざまな形でユニークな大会を運営しながら10年間活動を続け、現在に至っている矢野さんによる手記の最終回をお届けする。

 

花道プロジェクト初の大会には全国から15チーム、76人が参加した

 

 2011年8月半ばからは、コロッケ屋さんの出店と花道プロジェクト設立の2つを同時に進行させるという極度に多忙な2ヵ月間でしたが、花道の意義を明確にできるいい時間でもありました。
 コロッケ屋さんについては、私が作れるお店はせいぜい4~5人くらいのパートさんを雇うくらいの規模で、どうひっくり返っても町の雇用の一助を担うのは無理です。であるならば、バスケのアイデアで私がほかのところからお客さんを連れてくるから、皆さん頑張って儲けて人を雇ってください、と思っていました。
 ボランティアセンターでは支援をするのが当たり前。でも支援には適切な時期と内容があり、同じ支援でも物資提供と機会創出には大きな違いがあります。当時感じたのは、早く通常の経済活動が始められるように機会を作り出すことが大槌の場合には必要だということでした。
 2011年12月10日にコロッケ屋さんは大槌町内で震災以来やっと暖かい食べ物を買える最初のお店としてオープンし、連日あの寒さの中3時間の待ち時間ができるほどの行列ができました。その同じ日の夜、目の前の勤労体育館で練習をするバスケットボールチーム「JOINT」の皆さんと初対面をしました。
 その後、コロッケ屋さんは5年間営業活動を継続し、町の再開発によってお店を閉じることになりましたが、それは役目を終え、新しい大槌に生まれ変わるということであり、うれしい出来事としてとらえられたことを覚えています。
 出店に至るすべての準備はこちらで行い、設備も無償貸与し、運営をボランティアセンターがしてくれていました。サポートには毎月うかがっていましたが、営業成績は関知しておらず、どれくらいお役に立ったのか数字的なものは分かりません。ただ、町内で愛されるお店であったようにお聞きしております。
 桜木カップ(桜木杯の呼び名)の立ち上げに関しては、大会の認知度がまったくない中で参加チームを募集するというのが一番大変でした。最初の2年は募集期間内に枠が埋まらず、JOINTのみんなにも知り合いに声を掛けてもらってチーム集めをしていました。
 この問題を解決できたのは何と言っても参加してくださった方々の口コミのおかげだと思っています。リピーターさんが多いのと、一度出場された方がちがうチームを作って参加されるという形が非常に多いので、皆さんのお力によるところが大きいです。
 アウトドアコートを作る上では大槌町との協議がやはり大変でした。町の再整備に伴い交渉の窓口も多くなり、担当課が変わることで交渉内容の引継ぎなどへの対応もたびたび必要になりました。でも、やらなければと思ったことはすべてやってきたと思えているので、後悔などはまったくないです。
 何があっても10年間は絶対続ける、と決めて活動してきましたが、現在それほどの思いつめたような意気込みは薄くなってきております。これから後10年間活動を続けていくためには新しい人材も必要だと思いますが「大槌に人を呼び込むためのツールとしてのバスケ」であることや「この大槌までバスケをしに来てくれた方への感謝」というものを全員が共有していなくては難しくなる場面もあるかなと思ったりもします。
 そのためには大槌のメンバーがしっかりと一枚岩になることが重要なので、お任せできるものはどんどんお任せしようと思っています。
 これまでの大会に参加してくださったチーム、地元の方々にはただただ感謝のみです。大会に参加してくれた方にも会場へ足を運んでくださったギャラリーの方にも、応援してくれていた町内の方にも感謝しかありません。
 県外の人間を受け入れてくださったことにも感謝しております。
 それと、家族と会社のスタッフにも感謝を伝えなければいけません。

 大槌に遠征となると、1回につき平均10日間は家を空けることになり、同じように会社にも負担をかけてしまいます。初めてボランティアに行きたいと言ったときも、その後の9年間も、いつも気持ちよく送り出してくれた主人と娘たち、そして会社のスタッフによる福山からの後方支援がなければ、この活動は成り立っていません。ぜひそのことも知っていただけたら幸いです。

 

花道プロジェクトの大槌町役場旧庁舎跡地隣接区域バスケットボールコート建設費支援
クラウドファンディング申し込み↓↓↓
https://readyfor.jp/projects/hanamichi1031

 

問い合わせ: 花道プロジェクト
電話: 090-4651-1055(担当矢野)
公式サイト: http://hanamichi.info/

2019年11月開催の高宮杯には県外を含め16チーム、80人が参加し、キャンセル待ちも出たほど盛況だった

 

<後記>コート建設費支援のクラウドファンディング

 被災後の大槌町には、復興推進に関してさまざまな困難な課題があったことを伝え聞く。中でも、大きな揺れと津波により壊滅的なダメージを受けた大槌町役場の旧庁舎を、震災の記憶を伝えるモニュメントとして残すか、あるいは解体してまったく新たな場所として活性化させるかは、住民の賛否と感情がぶつかり合い一筋縄に解決できる問題ではなかったようだ。

 最終的に旧庁舎は2018年から解体作業が始まり、翌2019年3月に完全に解体が完了したのだが、震災伝承という課題にはこれからも取り組んでいかなければならない。花道プロジェクトが建設を進めているアウトドアバスケットボールコートはまさしく、東日本大震災の伝承活動に活用するために行われた旧町役場庁舎跡地の環境整備に伴う計画で、旧庁舎隣接地が建設予定地となっている。

 花道プロジェクトは設立当初、桜木町に桜並木を作ってそこを新しい観光名所にしたいという考えを推進するために、周辺に住む人々にその考えをしたためた手紙を配布した。手紙を配布する活動自体も、県外に住む矢野さんの立場で簡単にできることではないが、地元住民の一人である澤口勝美さんが橋渡しをしてくれたことで、時間をかけて桜木町の裏山に桜並木を作る計画を立てることができ、2013年4月7日に桜並木が現実のものになった。
 ボランティアとして地域のニーズを感じ取り、必要と思うことを積み重ねたから得られた信用のたまものだろう。バスケットボール面の運営でも、その信頼を土台として2012年から現在までの9年間に開催した桜木カップをはじめとする大会に、のべ2,700人もの愛好者を集めることに成功した。その収益で建設費も約280万円を用意することができている。
 しかし目標とする1,000万円には遠く及んでいない。新型コロナウイルスのパンデミックの影響により、計画した大会を一度も開催することができなかった昨年は、収益を生み出すことができなかった。
 そこでコート建設費の不足分を集めるために、花道プロジェクトは2月19日から90日間のクラウドファンディングを開始している。このファンドの支援者は、全員の名前が記念碑に刻まれるという。
 コートの使用料は取らない。誰もがスペースをシェアして楽しめるようハーフコートを2面作る意向だという。立地が良いため、周囲にボールが飛び出さないように囲いも必要になるようだ。ここでプレーする人はまさしくケイジャー(Cager=囲い網の中でバスケットボールをプレーする人を指す言葉)ということになる。
 自分の名前が刻まれたコートで1本ショットを成功させて、三陸のおいしい海の幸をいただく。そんな旅路も思い描けるクラウドファンディングの締め切りは2021年5月20日(木)、コートのオープン予定は10月1日(金)となっている。

 

花道プロジェクトの大槌町役場旧庁舎跡地隣接区域バスケットボールコート建設費支援
クラウドファンディング申し込み↓↓↓
https://readyfor.jp/projects/hanamichi1031

 

問い合わせ: 花道プロジェクト
電話: 090-4651-1055(担当矢野)
公式サイト: http://hanamichi.info/

 

写真・画像/花道プロジェクト

取材・編集/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)