オーストラリア・メルボルンで開催されている「全豪オープン」(1月16~29日/ハードコート)の男子シングルス準決勝で、ラファエル・ナダル(スペイン)は、ある時期“ベイビー・フェド(小さなフェデラー)”呼ばれたグリゴール・ディミトロフ(ブ…

 オーストラリア・メルボルンで開催されている「全豪オープン」(1月16~29日/ハードコート)の男子シングルス準決勝で、ラファエル・ナダル(スペイン)は、ある時期“ベイビー・フェド(小さなフェデラー)”呼ばれたグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)をかわし、永遠のライバルであるロジャー・フェデラー(スイス)との“クラシック・ファイナル”を復活させた。  4時間56分かかったこの準決勝は、6-3 5-7 7-6(5) 6-7(4) 6-4でタイブレーク2つを含む、フルセットの死闘となった。

 ナダルが決勝進出を決めたことで、男女シングルス決勝を戦う4人全員が30代ということになった。フェデラーが35歳、ナダルが30歳、そして女子シングルス決勝を戦うウイリアムズ姉妹(アメリカ)は、ビーナスが36歳でセレナが35歳だ。  土曜日に行われるウイリアムズ姉妹対決は、シュテフィ・グラフ(ドイツ)と同じグランドスラム優勝回数「22」からの更新を狙う妹セレナと、2008年のウィンブルドンでグランドスラム7度目のタイトルを獲得して以来の記録更新を目指す姉ビーナスの顔合わせだ。グランドスラム決勝での姉妹対決は2009年ウィンブルドン以来、9度目のことである。

 一方、ロジャー対ラファの決勝は日曜日に行われる。この対戦も、グランドスラム決勝だけを切り出せば、ナダルが勝った2011年全仏オープン以来、9度目のことであり、全豪だけでいえば2009年決勝以来、2度目となる。  この予想されていなかった2組の顔合わせは、すでにテニスを超えた興奮を生み出している。  「このライバル関係はテニス界の外で話題になっていると感じる。これは僕らのスポーツにとってよいことだ」。ナダルは、「17」のグランドスラム・タイトルを持つフェデラーとの9回目のグランドスラム決勝について、こう言った。  フェデラーとウイリアムズ姉妹は“復活劇満載だった”木曜日に、一足早く決勝進出を決めていた。  そしてナダルが、金曜日に始まって土曜日の深夜0時45分に終わった試合で、その30歳過ぎのグループに加わり、4人組を完成させた。

 過去8回対戦して1度しかナダルを倒したことがなく、グランドスラム大会での準決勝をプレーするのも2度目だったディミトロフは、彼の人生でもっとも重要な、そしてもっとも素晴らしい試合をプレーした。  ディミトロフは第5セットの第8ゲームで2つのブレークポイントを手にしたが、そこでグランドスラム・タイトルを「14」持つナダルの経験値が影響をおよぼした。ナダルはなんとかサービスをキープして、続くゲームでダウン・ザ・ラインのバックハンド・ウィナーを決めて、最初のブレークポイントを逃さずものにしたのである。  3度目のマッチポイントで勝利を決めたあと、ナダルは膝を落とし、それから数秒間はコートの上にうつぶせに倒れていた。そして起き上がってネットに歩み寄り、ディミトロフと抱き合った。  ナダルはふたたびコートの中央に出て行き、勝ち誇った表情で両腕を上げてから、今度はディミトロフのほうを指し、自分のオーケストラに向かって指揮者がやるようなジェスチャーで、観客に声援を促した。  「グリゴールは素晴らしいプレーをした。僕も素晴らしいプレーをした。だから(今日)、テニスの質は非常に高かった」とナダル。「僕にとって、年の最初のこのオーストラリアで、ふたたびグランドスラムの決勝に勝ち上がれるなんて、本当に驚きだ」。  フェデラーにプレースタイルが似ていること、楽々と打つ片手打ちバックハンドゆえに、“ベイビー・フェド”とあだ名されたディミトロフに対して、ナダルは彼のトレードマークだった“野獣のような強さ”と“不屈の精神”を示して見せた。それは160週をフェデラーに次ぐ2位で過ごしたあと、2008年から計141週、1位へといざなった力だった。  今月初めにブリスベンで優勝したディミトロフは、20本のサービスエースを放ち、ナダルのサービスを4度にわたってブレーク。79本のウィナーでナダルを叩きのめした。その正確な動きは見事というよりほかなかった。  競り合いながら最終セットが進む中、ナダル自身さえがディミトロフを倒せるか、完全には確信が持てていなかったという。

 「ある瞬間に僕は自分に言ったんだ----僕はベストを尽くしている。僕はすごくいいプレーをしている。もし負けたら、それはそれだ。グリゴールもまた勝利に値する」とナダルは言った。

 「僕らはふたりとも決勝に行くに値すると思う。素晴らしい戦いだった。最終的に勝ったのは僕だった。僕はラッキーだったと感じている」  当初、ここメルボルン・パークでフェデラーとナダルの9度目のグランドスラム決勝が実現する可能性は、極めて低いとみられていた。フェデラーは2012年のウィンブルドン以来、ナダルは2014年の全仏オープン以来、グランドスラムで優勝していない。  昨年のナダルは、全豪でショッキングな1回戦負け(対フェルナンド・ベルダスコ戦)が2016年のスタートとなり、アップダウンの多い一年を過ごした。5月の全仏オープン3回戦を前に、左手首の故障を理由に棄権して以降、2度長い休養をとっている。最後にとった数ヵ月のオフのあと、ナダルのランキングは9位となった。  ナダル自身が認めたことだが、「14」のグランドスラム・タイトルのうち9つを獲った、彼の庭である全仏オープンを棄権しなければならなくなったとき、彼はどん底にいたという。  「ホテルに帰っていく車の中で泣いたことを憶えている」とナダル。「あれは辛い瞬間だった」。  一方、左膝の故障のため6ヵ月のオフをとったフェデラーも、ランキングは17位へ下降した。彼は昨年の全豪とウィンブルドンで準決勝に進出したが、そのほかのグランドスラムではプレーしていない。  フェデラーはナダルに対する対戦成績で11勝23敗と負け越している。そしてグランドスラムの決勝でナダルと対戦した8対戦では、2対戦にしか勝っていない。  しかしフェデラーはナダルより、一日余計に休息をとることができており、反対にナダルは、5時間14分の戦いの末にベルダスコに競り勝った2009年全豪準決勝がそうだったように、今回も耐え抜かなければならない状況にいる。とはいえナダルはその年、それでも決勝でフェデラーに勝って、全豪で唯一のタイトルを獲得している。  ロジャー対ラファのリマッチの間に立ちはだかるためベストを尽くしたあと、ディミトロフは、負けることにも実りはある、と考えていた。  「ふたりの、この上なく偉大なテニスプレーヤーが決着をつけるためにぶつかり合うことになる。素晴らしい試合になるだろう」とディミトロフは言った。  そして、30歳以上のプレーヤーたちのための“週末のパーティ”に参加できなかったにも関わらず----オープン化以降の時代で、男女合わせて4人の決勝進出者の全員が30歳以上というのは史上初----ディミトロフは、また歴史が築かれるのを自らの目で見る予定でいるという。 「もちろん今や皆がその決勝を見るよ」とディミトロフ。「僕を含めてね」。(C)AP(テニスマガジン)