日本代表主将&HC経験を持つ鈴木貴人氏に影響を与えた北米のコーチング「楽しむっていうことを頭に置いておいてほしい。それは常に子どもたちに伝えていますね」 元アイスホッケー日本代表キャプテンにして、日本代表ヘッドコーチ歴も持つ鈴木貴人氏は現在…

日本代表主将&HC経験を持つ鈴木貴人氏に影響を与えた北米のコーチング

「楽しむっていうことを頭に置いておいてほしい。それは常に子どもたちに伝えていますね」

 元アイスホッケー日本代表キャプテンにして、日本代表ヘッドコーチ歴も持つ鈴木貴人氏は現在、強豪・東洋大学アイスホッケー部監督を務める傍ら、「ブリングアップ・アスレティック・ソサエティ(BUAS)」で小学生から高校生を対象にアイスホッケーアカデミーを開催している。

 2013年に37歳で引退するまでアジアリーグ通算576ポイントを記録。日本代表に15年連続選出され、世界選手権には14度出場したアイスホッケー界のレジェンドは、指導する大学生や高校生以下ジュニア世代の子どもたちに心に留めておいてほしい言葉を聞くと、冒頭のように答えた。

「楽しむ」とは、実に幅広い意味を持つ言葉だ。鈴木氏はこの言葉にどんな想いを込めたのか。

「楽しむっていうことは、ただ単にふざけることじゃない。スポーツにも生活にも、そこには絶対にルールがあります。そのルールを守りながら、自分の目標に向かってやるべきことをやる。みんな上手になりたい。どういう風にすれば上手くなるかっていうところで、僕は最後は『楽しむ』『好き』という気持ちが大事。そこが基本にないと成長はしにくいし、上達に繋がる大きなキーだと思っています。多分、嫌いでやっている子は少ないと思うんですよ。僕もアイスホッケーをやっていて、本当に楽しかったですから」

 好きで始めたはずなのに、いつの間にか練習に行くのが嫌になってしまった。こういう経験をする子どもは、アイスホッケーに限らず、どのスポーツでも多い。嫌になる原因は様々だが、鈴木氏は指導者の在り方にも一因があると考えている。それに気付いたのは大学3年生の時、カナダにアイスホッケー留学に行った時だった。

「カナダのコーチはすごく褒めてくれるなって思いました。基本はいいところを伸ばしてくれるコーチングで、しっかり言葉でも表現してくれていたのが、すごく印象的でした」

「いい部分はちゃんと取っておいて、足りない部分は伸ばしていこう」

 当時の日本スポーツ界は、根性論が全盛。ミスを怒られ、人前で怒鳴られることが当たり前だった世界から、太平洋を越えた先には、まったく違う世界が待っていた。「単純に上手いとか下手とかではなく、自分の長所をどう生かすか。すごく勇気に繋がりました」と振り返る。

「試合でいい結果が出なかったり、自分のプレーに納得がいかなかったりすることもある。でも、自分の長所を伝えてもらうことで、いい部分はちゃんと取っておいて、足りない部分は伸ばしていこうって考えられるようになりました。もちろん、怒られたり注意されたりすることもありますけど、その理由はちゃんと説明してくれましたね」

 コクド入社後の2002年にも1シーズン、米イーストコーストホッケーリーグのシャーロット・チェッカーズに所属。ここではさらに、チャンスは自分で掴みにいくものだと実感することになる。

「北米では、NHLを頂点に育成システムが出来上がっています。いい選手はどんどん上のレベルに行けるし、足りない選手は下で経験を積んで、成長して戻ってこいよ、という感じ。日本のように『何とかしてこの選手を引き上げよう』と必死に育成するんじゃなくて、選手の自主性に任せる部分が大きいんです。もちろん、何が足りないのかは伝えてくれますけど、やるかやらないかは選手次第という、ある意味、すごくドライな環境。自分でチャンスを取りにいかないと成長に繋がらない、自然とハングリーになる環境がありました」

 こういった経験は、コクド(後のSEIBUプリンスラビッツ)、日光アイスバックス、日本代表でキャプテンとしてチームをまとめる時はもちろん、指導者となった今、選手個々の成長を促す時、鈴木氏が実践するコーチングの「土台」となっている。

「いい点を見つけてあげよう、というのは心掛けています。それは小学生を教える時でも、大学生を教える時でも変わりませんね。自分もいい年齢まで現役をやらせていただきましたけど、やっぱりどの年齢でも褒められたら嬉しいですから(笑)。それは共通です。アカデミーの子どもと大学生では、言葉遣いは変えたりしますけど、基本的にいいところを褒めるのは変わりません」

 子どもたちがいつまでも「楽しい」という気持ちを持ち続けるために、そして「好き」を「嫌い」に変えないために、「褒めながら伸ばす」指導を実践していく。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)