ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 今週から関東では中山開催がスタート。その開幕を飾るのは伝統の重賞、GII中山記念(2月28日/中山・芝1800m)です。 近年はGIに昇格した大阪杯(阪神・芝2000m)や、ドバイ遠征前の…

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 今週から関東では中山開催がスタート。その開幕を飾るのは伝統の重賞、GII中山記念(2月28日/中山・芝1800m)です。

 近年はGIに昇格した大阪杯(阪神・芝2000m)や、ドバイ遠征前のステップレースとして注目されていますが、もともとGI馬やGI級の馬たちの始動戦として、毎年大きな関心を集めてきた一戦です。

 ただ、今年はGI馬が不在。どちらというと、年明けのGIII中山金杯(中山・芝2000m)の延長線上にあるような、GIII寄りのGIIといった雰囲気のレースになっています。

 そんなレースにあって、まず注目したいのは、ヒシイグアス(牡5歳)です。

 3歳の時は前哨戦となる重賞で振るわず、GI出走は叶いませんでしたが、4歳になってから自己条件を地道に勝ち上がっていき、今年初戦の中山金杯(1月5日)で重賞初勝利を飾りました。ここで結果を出せば、次はいよいよGI挑戦、ということになるでしょう。

 例年であれば、このタイミングでGI級の馬たちと戦うことになるのですが、今年は格上と言えるような馬がいません。ならば、目下の勢いと充実ぶりからして、主役を張れるのではないでしょうか。

 同馬を管理するのは、GIフェブラリーSをカフェファラオで制して上り調子にある堀宣行厩舎。ヒシイグアスについても、クラシックに向けて無理に間に合わせようとせず、馬の成長曲線に合わせて大事に育ててきたことで、古馬になってから3連勝という結果を残すあたりは、この厩舎らしいですね。

 鞍上の松山弘平騎手も、デアリングタクトとともに飛躍を遂げた2020年の勢いを、今年もキープしているように感じます。ヒシイグアスには、2走前の3勝クラス・ウエルカムS(東京・芝2000m)から騎乗。GIジャパンカップのために関東へ遠征してきたタイミングでのテン乗りでしたが、見事に勝利へと導きました。

 それが縁となって、中山金杯でもコンビを組んで連勝。そのまま中山記念でもコンビ継続となるのですから、人馬にとって、今の流れはいい形にあると思います。一気に4連勝を決めても不思議ではありません。

 続いてピックアップしたいのは、ウインイクシード(牡7歳)です。遅咲きの7歳馬ですが、過去の成績が示すとおり"中山巧者"で、今年のメンバーであれば、悲願の重賞制覇も十分に可能だと思います。

 中山記念といえば、同じ「ウイン」で同世代のウインブライトが連覇したレース。ウインブライトが引退したのに合わせて、ウインイクシードを中山記念に使ってきたのは、ひとつの戦略かもしれませんね。

 前走の中山金杯(3着)では戸崎圭太騎手が乗っていましたが、今週はサウジアラビア遠征後の隔離期間のため、レースには騎乗できません。そのため、今回は横山武史騎手に乗り替わり。ただこれは、以前の主戦に戻る格好なので、問題はないでしょう。

 横山武騎手も、昨年の関東リーディングに輝くなど、今の美浦では最も勢いのある若手のエース。先日もGIII共同通信杯をエフフォーリアで制していますから、期待が膨らみます。

 さて、ここまでヒシイグアス、ウインイクシードと東西の有望な若手ジョッキーが騎乗する馬にスポットを当ててきましたが、「ヒモ穴馬」には真逆の、ベテランジョッキーが手綱を取る1頭を取り上げたいと思います。

 現役最年長の大ベテラン・柴田善臣騎手が騎乗するサンアップルトン(牡5歳)です。



中山記念での大駆けが期待されるサンアップルトン

 今年でキャリア37年目、現在54歳の柴田騎手。30歳の松山騎手、22歳の横山武騎手とは、親子ほどの年の差があります。それでも、先週も日曜阪神のメイン、オープン特別の大和Sをリュウノユキナで快勝。年明けにケガから復帰したばかりですが、数多くのレースに騎乗して、こうして結果を出しているのですから、まだまだ騎乗技術に衰えは感じられません。

 サンアップルトンは1年以上コンビを組んでいるお手馬で、私も以前から注目していた1頭です。ヒシイグアスと同世代で、同馬もクラシックに縁がなく、3歳秋以降に条件戦を勝ち上がって4歳になってオープン入り。昨年は重賞戦線で戦ってきました。

 暮れにはGI有馬記念(中山・芝2500m)に登録しましたが、賞金不足で除外。先週もGIIIダイヤモンドS(東京・芝3400m)に登録しながら抽選で除外されて、中山記念にスライドという形で出走してきました。

 そういう意味では、まずは賞金を加算して、使いたいレースに使える立場になることが当面の目標と言えます。1800mという距離は、サンアップルトンにとってやや短い気がしますが、小回り向きの器用さでカバーしてもらいたいところです。

 ところで、このレースが現役最後の重賞騎乗となる蛯名正義騎手のことも少し触れておきたいと思います。

 ジョッキーとしては、私の7年ほど後輩になりますか。武豊騎手と同期だったことで、デビュー当時からその存在に刺激を受けて「負けられないぞ!」といった気持ちを抱いて、すごくがんばっていました。

 最初の重賞を勝つまでに意外と時間がかかった印象がありますが、バブルガムフェローでGI天皇賞・秋を勝ったあたりから軌道に乗って、以降は美浦のトップジョッキーとして活躍してきました。そうして刻んだ通算2539勝(2月26日現在)という成績は本当に立派だと思います。

 中山記念でコンビを組むのは、ゴーフォザサミット(牡6歳)。蛯名騎手にとって、最後のダービー騎乗馬ということになるんですね。さすがにこの馬で勝ったら出来すぎかと思いますが、奇跡的なドラマが生まれることがあるのが、2月末の引退絡みのレースです。

 どんな結果になるにせよ、蛯名騎手の最後の雄姿をしっかりと見届けたいと思います。