公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は「豪州のラグビージュニア向けガイドライン」 Jリーグやラグビートップリーグを…

公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は「豪州のラグビージュニア向けガイドライン」

 Jリーグやラグビートップリーグをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。通常は食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ界の食や栄養のトレンドなど、第一線で活躍する橋本氏ならではの情報を発信する。今回は「豪州のラグビージュニア向けガイドライン」について。

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 スポーツ栄養を専門とする、650人の栄養士で構成されたオーストラリアの団体「スポーツ・ダイエティシャンズ・オーストラリア」。科学的なエビデンスをベースに情報を発信するこの団体では、2001年、ラグビーを楽しむ5~11歳の子供たちを対象にした、スポーツ栄養のガイドラインを発行。ラグビーのコーチ、保護者、関係者に向けて情報を発信し、食育を行っています。

 ガイドラインには、何を食べる・飲むかは、子どもの体の成長、トレーニング、免疫機能、考える力にも影響を及ぼすこと。そしてジュニア世代でよい食習慣を身に付けることで、子どもたちは長くスポーツに携わることができ、ひいては家族全員の健康にも役立つと記しています。

 ガイドラインのなかでオーストラリアらしさを感じたのは、「栄養は活動的に、ハッピーに過ごすために必要」という表現です。日本の育成年代の現場では「強くなる」「大きくなる」「元気になる」という言葉をよく使いますが、あまり「ハッピーに」という表現は出てきません。勝つこと、強くなることも大事。しかし何よりも、スポーツをいきいきと楽しむことが大事なのだ、と考える姿勢が感じられます。

 ガイドラインにあるのは水分補給、試合に合わせた食事計画、冬に体を温めるためのリカバリーフード、サプリメントのほか、健康的な体重(減量/増量)、歯の健康やボディイメージ(自分の身体について心に抱くイメージ像)などについても書かれています。

 実は特定の競技のジュニア選手に向けた栄養のガイドラインがあることは、世界でもかなり珍しいことです。

 育成年代のご家族や指導者と接していて、常々感じるのは、あまりにも情報が散乱し、子どもたちをみている大人が振り回され、「何」を「いつ」「どのように」食べさせてあげればいいかが分からなくなっていることです。しかし、こういったガイドラインがあるだけで、子どもたちをどうサポートすればよいのかの基本が明確になります。それによって、保護者だけでなく、指導者、コーチも安心して、各家庭やチームで取り組むことができる。これがガイドラインのある素晴らしさです。

自分で考える“食”のチャレンジが心の強さ、自信にもつながる

 世界のトップチームや日本でプレーする外国人選手たちと接するなかで、彼らの食事に対する意識の高さに感心することが何度もありました。共通していたのは、自分たちに必要なものは何か? 何をいつ、どうして食べるのかを明確に理解している点です。

 そこで、オーストラリア、ニュージーランドで育成年代の指導経験がある、ラグビートップリーグで指揮を執るロビー・ディーンズ監督(パナソニック ワイルドナイツ)に以前、インタビューを行い、ジュニア世代の栄養を学ぶ機会について伺いました。

 ディーンズ監督によると、スポーツを推進する学校では教育の一環として、栄養について学ぶカリキュラムがあるとのこと。そこで、食品の栄養知識や、食べ方について、しっかり学ぶそうです。

 また、食生活や食習慣は、成人し、トップチームに入ってから変えようとしても難しく、「子どもの頃から知識を取り入れ、実践することが大切である」とのこと。なかでも印象に残ったのは、「子どもたちに大事なのは知識を与えることではなく、選手たち自身がどうするべきかを考えられるようになることだ」という言葉です。

 ディーンズ監督は日本食について、「脂質が少ない日本の食事を食べることは、アスリートとして間違いなくアドバンテージになる」といいます。海外の選手たちも(クセの強い)納豆にチャレンジするのは、それが自分たちにとってよいたんぱく源だと理解しているからだ、と。

 どの国に行っても、その国の食文化を受け入れ、体によいものは貪欲に取り入れる。これは世界を渡り歩くトップ選手たちの強さの一つです。そして、その素地は本人の性格や能力だけでなく、小さい頃から家庭や学校、チームのなかで、食事と栄養について自然と学べる環境であることも大いに関係していると感じます。

「頑丈なよい家を作るにはいい素材を使うことが必要であるのと同じで、色々なことにうまく対処できる体を作るには、材料である食物の質へのこだわりも重要」と、ディーンズ監督。

 自分で考え、食べられる選手はどの国へ行っても、その国の食文化に柔軟に対応しながら、自分にとってよいと思う食べ物に積極的にチャレンジします。それができることは、強い体を作るだけでなく、「いつどこであっても自分のプレーができる」という、心の強さや自信にもつながるのではないでしょうか。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。