1月上旬から新人合同自主トレがスタートし、各球団のルーキーズが日々、切磋琢磨している。即戦力投手など、注目の選手が多いと「当たりドラフト」の前評判が立ち、ファンの期待も大きくなる。だが、ある意味、これほど個性的な「当たりドラフト」となったこ…

1月上旬から新人合同自主トレがスタートし、各球団のルーキーズが日々、切磋琢磨している。即戦力投手など、注目の選手が多いと「当たりドラフト」の前評判が立ち、ファンの期待も大きくなる。だが、ある意味、これほど個性的な「当たりドラフト」となったことは珍しい。

■大卒だけの4人、入寮直後にそろって購入した小さな自転車

 1月上旬から新人合同自主トレがスタートし、各球団のルーキーズが日々、切磋琢磨している。即戦力投手など、注目の選手が多いと「当たりドラフト」の前評判が立ち、ファンの期待も大きくなる。だが、ある意味、これほど個性的な「当たりドラフト」となったことは珍しい。

 2011年、ロッテのドラフトの話である。

 最下位に沈んだこの年、指名した選手は4人。12球団最少の指名数だった。

 1位から順に東洋大・藤岡貴裕、近大・中後悠平、東洋大・鈴木大地、関西国際大・益田直也。

 内野手の鈴木を除き、残り3人は投手で、すべて大学生。即戦力として活躍が期待されていた4人が入寮当初、真っ先に向かったのは、ロッテ2軍寮近くにあるホームセンターだった。

 20インチのおそろいの自転車を購入。その小さな自転車で練習場に移動するなど、プロ野球選手でありながらほほえましい絆を見せた。休日には一緒に買い物や食事に出かけた。大卒だけの4人。自然と時を過ごす時間は増えた。担当のスカウトも「こんなに仲がいい代は、そう見たことない。その分、リラックスできるのはいいこと」と優しいまなざしを向けていた。

 そんな4人は開幕直後、「当たりドラフト」の評判にたがわぬ、期待通りの活躍を演じた。

■新人3人でお立ち台も…鮮烈デビュー飾ったルーキーイヤー

 最初に輝きを放ったのが、ドラフト2位の中後だった。双子兄弟で根っからの関西人の盛り上げ役は、開幕戦の敵地・楽天戦。1点リードの8回1死満塁から救援という、ルーキーの初登板としてはあまりに酷なシチュエーションだったが、2者連続三振の鮮烈デビュー。左のサイドから繰り出すスライダーが鋭すぎるあまり、空振りした右打者の足に当たるという場面は中後の持つ潜在能力の高さを示した。

 同じ開幕カードの楽天3戦目。ドラフト1位の藤岡が堂々のデビューで中後に続いた。先発して8回途中を4安打2失点。捕手の里崎が「球がうなって捕るので精いっぱい」とうなった最速150キロの直球で押し、プロ初登板初勝利を上げた。11年ドラフトで最多3球団が競合した「大学NO1左腕」の片りんを遺憾なく発揮。大学2年までリーグ戦4勝にとどまり、一度は両親に「野球、辞めようかな」と漏らしたこともあるが、プロの舞台で大器が花開いた。

 そして、開幕から安定して結果を残し続けていたのが、ドラフト4位の益田だった。実は左利きながら、箸の矯正のために右投げに変えたという右腕は、開幕3連戦すべてに救援で登板すると、以降は勝ちパターンの一角を形成し、藤岡、中後とともに躍動。その象徴的なシーンとなったのが、4月30日の本拠地・ソフトバンク戦。先発して好投した藤岡を中後、益田の救援でリードを守り、3人そろってお立ち台に上った。最高の瞬間だった。

 これを複雑な気持ちで見つめていたのが、ドラフト3位の鈴木だった。

 オープン戦途中に2軍落ち。まぶしいシーンを寮のテレビで見つめていた。だが、東洋大の名将・高橋昭雄監督が「長年、監督をやってきた中で一番のリーダー」と人間性を絶賛した遊撃手。春季キャンプでは朝一番に同期の部屋を回って起こしていったというしっかり者は、決して心が折れることはなかった。2軍で着実に結果を残し、6月に1軍初昇格をつかんだ。

 4人全員がシーズン序盤、あっという1軍に顔をそろえた。だが、プロの世界は新人たちが全員、活躍し続けられるほど甘くはなかった。

 夏場に差しかかり、疲れが見え始めた藤岡と中後は2軍落ち。結局、1年目は藤岡が6勝7敗、防御率3.36、中後が27登板で2勝0敗、5ホールド、防御率4.87に終わった。一方で結果を残したのが、益田。72登板で2勝2敗、1セーブ41ホールド、防御率1.67で新人王に輝いた。鈴木は1軍に定着し、2年目の飛躍への足がかりを築いた。

 あれから5年–。それぞれの立場は変わった。

■優勝、復活、異国での夢…今年28歳の4人が目指すものとは

 クローザーとして13年にセーブ王にも輝いたドラ4・益田はリーグ屈指のリリーバーとして君臨。ドラ3・鈴木は2度のベストナインを受賞、14年からキャプテンを託され、球団の柱となった。鈴木は我慢強く起用してくれた伊東監督への恩義を感じ、「感謝しきれない。心から胴上げしたい気持ちを持っている」と12年ぶりの優勝、7年ぶりの日本一へ向け、チームを押し上げていくことを目指している。

 対照的にドラ1・藤岡は先発では1年目から3年連続6勝どまり。ここ2年は中継ぎとして登板機会を増やしているが、先発への復帰を熱望。「(先発と中継ぎ)両方経験しているが、先発のほうが楽しいし、やりがいを感じる。正直やりたい」。デビュー当初の輝きを再び取り戻すため、まっさらなマウンドを目指している。

 最も数奇な道を歩んでいるのが、ドラ2の中後だ。15年オフに戦力外となり、一時はBCリーグ武蔵への入団が決まった。だが、テレビ番組で中後の投球を見たメジャースカウトの目に留まり、ダイヤモンドバックスとマイナー契約。昨季3Aでは13試合に登板して10回2/3を7安打無失点13奪三振3四球、防御率0.00。

「本当に考えられないですよ。メジャーに行っていたら、本当にとんでもない大どんでん返しでした。だから行きたかったんですよ」と昨季を振り返っていたが、今季はメジャーキャンプに招待選手として参加することが先日、決まった。夢のメジャーデビューを目指し、大きな一歩を踏み出すことになった。

 小さな自転車を購入したあの時、まだ22歳だった若者たちは今年28歳を迎える。入団当初、藤岡は同期の存在をこう語っていた。

「普段は仲良く、野球はライバルとして切磋琢磨しながら、これからも頑張っていきたい」

 さらなる高みを目指す者、復活を期す者、異国の地で夢をつかもうとしている者。4人の立ち位置は変わった。それでも、プロのひのき舞台で輝きたいという気持ちは変わらない。良き友であり、良きライバルである互いの存在を、力にし続けながら。