拓大紅陵・小枝守監督、法政大学・山中正竹監督、そしてシダックス・野村克也監督と数々の名将から直接指導を受けた杉本氏。会社…
拓大紅陵・小枝守監督、法政大学・山中正竹監督、そしてシダックス・野村克也監督と数々の名将から直接指導を受けた杉本氏。会社員となった今でも、その頃の教えが役に立っているという。(4)は今後のビジョンについて。
<(3)はこちらから>
--シダックス時代の野村さんの言葉が、今も脈々と杉本さんの中に息づいているということですか?
杉本忠(以下 杉本):もちろん残っています。よくよく考えると僕は、「人をサポートする立場に回ることが多いな」と。逆にいうと野村監督に出会っていなかったら、他の人をサポートするという考えに至ってなかったです。野村監督に出会うまでは「野球楽しいな」とか「自分の好きなようにプレイしたいな」としか考えてなかったですね(笑)。
それが、物を見る角度を少し変えると「人のサポートをして、その人が上手くいくと楽しいな」とか、今までとは違う感覚がありました。だからこそ今オリンピック組織委員会(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会:以下、組織委員会)の中で仕事をできているのかな…と思いますね。
今回の組織委員会もシダックスから出向という形で携わらせて頂いています。僕は会社から指示があれば迷うことなく出向し、行った現場を俯瞰してみて自分のできることを探します。
本来ならば会社から打診された時点で、家族と相談しなければいけないのですが「ちょっと単身赴任になるけど行ってくる!」と事後報告に近いという(笑)。家庭からするとあまり良くないと思いますけど(苦笑)
会社の中では大きなミスすることなく淡々とこなしていく、会社からすると「こいつに任せておけば大丈夫だろう」というふうに見ていただいているんじゃないかと勝手に思っています(笑)。

--現在はシダックスから組織委員会に出向という形で勤務されていますが、今後はどのようなことを?
杉本:オリンピックという大きなイベントを経験させて頂いているので、それをシダックスに還元したいですね。あと個人的には野球に関して携わっていきたい。素晴らしい先輩たちに教えてもらったことを子供たちに伝えたいです。
ピッチャーの理想像って大谷翔平選手のようにスピードもあり変化球のキレも良い、コントロールも素晴らしいという選手です。でも大谷選手レベルじゃなくても、「プロ野球で活躍できますよ、メジャーにも行けますよ」という選手は、実はたくさんいるんです。
たとえば、サイドスローやアンダースローに代表される変則ピッチャーは140km/hでなくても十分プロ野球で活躍できる選手も多くいます。
世の中の流れで、高校野球に投球制限というのが設けられます。プロなんかは「先発・中継ぎ・抑え」という役割がある。野手は脚のスペシャリストがいる。
「このピッチャー、スピードは130km/hだけど打ちにくいよね」とか「どうしてもタイミングがズレちゃうよね」という投手が、監督の立場からすると必要になっていると思うんですよ。監督目線で考えた時に変則ピッチャーって欲しい。でもそれを教える術がないんです。
例えば150km/hを投げる先発オーバースローのピッチャーでも、7.8回まで進むと打者もボールのスピードに目が慣れてきます。
そこに中継ぎで120km/h前後を投げるアンダースローのピッチャーが出てきたら、打者は間の取り方やバットの出し方等タイミングが崩され、内野ゴロになっちゃう可能性が高いんですよ。
そして最後、抑えピッチャーが160km/hを出したら、タイミングが合わず打者は打てないです。
定期的にシダックス野球部のOB界もあるので、現在も野球界に携わっている方と話をしています。OBの中には有名高校の監督をしている方も沢山います。そこで監督の考えを聞いたり意見交換をすると「変則ピッチャーは欲しい」と、みんな口にするんですよ。言い方が悪いですけど、そういった需要は確実にあると思います。
ただサイドスローやアンダースローになるピッチャーって「自分は上投げだと大成できないな」と思って変則ピッチャーになる選手が多い。そこで問題になるのが投球フォーム。みんな独学でやり始めるんです。そうすると面白いくらい同じ投球フォームになります。で、ボールもシュートボールしか投げられない。そこを教える技術というのが、経験値でしかないと思っています。

--杉本さんは、オーバースローから始まってサイドスロー、アンダースローに移行した経験もあるので教えることができますね。
杉本:吉井さんから「メンタルの作り方」を教わり、高橋さんから「フォーム」、そして野村さん「野球に対する考え方」をご教示いただきました。現在休みの日を利用して、少年野球のコーチをしていますが、僕はその方々から教わったことを伝えています。ただ、それを「時が来たら」キチンとした形で、日本野球の将来のために伝えたいですね。
プロ野球で各リーグ優勝チームが決まると、消化試合が始まります。その時、先発で若手ピッチャーが登場しますが、初マウンドで舞い上がってしまい、初回で5失点とかいうケースがあります。あれはメンタルコントロールが出来ていない証拠です。2軍では出来ているはずなのに1軍のマウンドだと本来の力が発揮できない。
本人も「緊張しちゃったな」と分かっていると思います。でも緊張する前に何をしたかが重要なんです。「キャッチャーと、どれだけ会話した?」「投げる前に、どれだけ準備期間を設けたの?」とか。
僕からすると「緊張するって分かっていたのに、なぜ緊張したの?」と。「試合で緊張する」というのが分かっていたら、普段から緊張しないように考えなければいけない。
緊張すると視野が狭くなって、体が思うように動かない。ストライクが入らず、ボールが先行してしまい、「フォアボールを出しちゃいけない」と考え、真ん中に球が集まりすぎて打たれる、というのが大体のパターンです。この話をピッチャーにすると、ほとんどのピッチャーが頷くと思います。みんな分かっているんですよ。
だったら普段から、そうならないように練習すれば良いだけの話なんです。僕はブルペンにいる時、緊張した時の気持ちを思い出します。「あの時、これだけ緊張したな」という気持ちを思い出してピッチングをします。
僕のやり方なので絶対に真似して欲しくないけど、僕はわざと過呼吸気味に呼吸をしました。緊張した時の心拍数に近いので。ブルペンに入った時は、その状態に自分を持っていく。すると常に緊張した時と近い状態を作ることができるので、緊張に慣れていきます。
それは吉井さんを近くで見て自分で感じたことです。吉井さんは常に声を出して気持ちを上げて緊張状態を作り出している。
--特別な状態を普段から作っておく、ということですよね。
杉本:そうです。野球をするまでの準備や物の考え方を整理すると、緊張することが無くなってきます。ベテランになると緊張することが少なくなる。で落ち着いて投球することができる。だから結果がついてくるんです。それが経験値なのかと思います。
子供たちに教える時にも「緊張したでしょ?その緊張した気持ちを忘れちゃダメだよ」と教えます。子供たちに難しいことを言っても分からないので「緊張した気持ちを思い出してブルペンで投げてみよう」と伝えますね。今は子供たちに野球を教えるのが生き甲斐になっているのかもしれませんね(笑)
僕は野球が大好きなんですよ。選手としてマウンドを離れてから、ますますその思いが強くなりました。自分を育ててもらった拓大紅陵高校も、2002年から学生食堂や選手寮の食事提供業務をシダックスが行うことになり、少しは恩返しできたような気がします。
これからも一社会人として会社で一生懸命仕事をして、野村監督をはじめ先輩たちから教えていただいたことを、僕なりの方法で子供たちに伝え、野球界に恩返ししたいと思います。
<おわり>
<プロフィール>
杉本忠:1975年生まれ千葉県出身。父と兄の影響で小学生から野球を始める。その後、拓大紅陵に進学。高校3年で甲子園に出場し準優勝。大学卒業後、ヨークベニマルで活躍。だが野球部廃部に伴い、シダックスに移籍。野村克也氏より指導を受ける。現在、袖ヶ浦シニア等でコーチとして後進の育成に携わる。
取材・文/大楽聡詞