バロンドール選定メディアとしても知られる『フランス・フットボール』誌が、2月9日号において「PSG秘密のカルテ」という…
バロンドール選定メディアとしても知られる『フランス・フットボール』誌が、2月9日号において「PSG秘密のカルテ」というタイトルでバルセロナのリオネル・メッシの特集記事を掲載。とくに、本拠地パルク・デ・プランスを背景にパリ・サンジェルマン(PSG)のユニフォームを着たメッシの合成写真を表紙にしたことは、フランスとスペイン両国で大きな波紋と憶測を呼んだ。
しかも、チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦(ラウンド16)でバルセロナがホームにPSGを迎える、大一番の1週間前というタイミングである。権威ある専門誌が、まるでゴシップ紙のような"仕掛け"を表紙に施したこと自体が異例と言えるが、少なくともその反響はいい意味でも悪い意味でも予想以上だった。

メッシがPSGに移籍することはあるのだろうか
「フランス・フットボール誌がそのような表紙をデザインしていることと、我々PSGは何も関係ない。混同してはいけない」
会見の場でそうコメントしたのは、1月からPSGを率いるマウリシオ・ポチェッティーノ監督だった。自身の就任前から話題となっていたこのテーマの憶測報道に、心底辟易しているというのが新指揮官の本音といったところだろう。
バルセロナvs.PSG、その因縁まみれの直接対決......。
『フランス・フットボール』誌の報道に限らず、近年における両クラブの対決はピッチ内外を問わず、数多くのエピソードを歴史の1ページとして積み重ねてきた。そして今回の対決では、バルサの至宝メッシのPSG移籍の噂が、ピッチ外最大のトピックになったというわけだ。
振り返れば、カタール人のナセル・アル・ケライフィが会長に就任して以来、PSGにとってのバルセロナは常に乗り越えなくてはいけない"宿敵"であり続けてきた。なぜなら、PSGがカタール資本になってから挑戦した過去8シーズンのCLで、実に3度も煮え湯を飲まされた相手がバルセロナだからだ。
まず、アル・ケライフィ会長のCL初挑戦となった2012−2013シーズンは、カルロ・アンチェロッティ監督の下、準々決勝で対戦して2試合連続ドロー。敗戦はなかったが、アウェーゴールの差で涙を呑んだ。
2度目の対戦は、その2年後。ローラン・ブラン監督時代に2試合続けて完敗してしまい、クラブとしての大きな差を見せつけられた。
そして「3度目の正直」と意気込んで挑んだのは、ラウンド16で対戦したウナイ・エメリ監督時代の2016−2017シーズン。ところが、第1戦をホームのパルク・デ・プランスで4−0と完勝しながら、第2戦ではCL史上に残る1−6のスコアで大逆転負けを喫するという、信じがたい結末が待ち受けていた。
バルセロナの人々の間で今もなお語り継がれる名勝負「カンプ・ノウの奇跡」は、PSGにとっては「カンプ・ノウの大惨事」として"黒歴史"になっているのだ。
とりわけ、これまで多額のマネーをクラブに投資しながら、すべての敗北を目の当たりにしてきたアル・ケライフィ会長が負った傷は想像以上に深かった。
そして、「打倒バルセロナ」を誓うプライド高き会長の執念が、その年の夏の移籍マーケットにおける"暴挙"を引き起こすことになる。すなわち、「カンプ・ノウの奇跡」の立役者であるネイマールと、レアル・マドリード行きも噂されていたモナコの神童キリアン・エムバペをダブルで強奪した、あの歴史的ディールである。
ネイマール獲得に投じた資金は、サッカー史上最高額となる移籍金2億2200万ユーロ(約290億円)。さらにエムバペの獲得については、UEFAのファイナンシャル・フェアプレーを回避するために買い取り義務付きの1年ローンとし、翌年の夏に移籍金1億8000万ユーロ(約235億6000万円)を支払うという、グレーかつ強引な取引を成立させたのだった。
ふたり分を合わせると、実に520億円以上の投資である。
ところが、肝心のネイマール本人がその後の両クラブ間におけるトラブルの種となったことは、まさに皮肉としかいいようがない。
2019年夏、かねてからバルセロナ復帰希望が噂されていたネイマールがクラブのフロントに直談判。これに対して怒り心頭のアル・ケライフィ会長およびカタール首長は、ネイマールの移籍金額を2億2200万ユーロ以上に設定し、結局、資金不足のバルセロナが獲得をあきらめるという結末を迎えたのである。
そういう意味でも、その経緯を知ったPSGサポーターから総スカンとなったネイマールにとっては、昨シーズンのCLは彼らからの信頼を回復するための重要な舞台だった。
実際、加入してから初めてCL決勝トーナメントでプレーしたネイマールの活躍がなければ、PSGが初のファイナルに駒を進めることはなかっただろう。そしてPSGサポーターも、念願の決勝進出に導いてくれたネイマールを受け入れるようになっていった。
そして、ネイマール問題が落ち着いた矢先の昨夏、今度はバルセロナでメッシの退団騒動が発生する。結局、サッカー界を揺るがしたこの騒動は残留というかたちで収束を見たが、その後、混乱の元凶とされたジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長の退陣が決定。3月に延期された会長選挙までは暫定政権による異例のクラブ運営となっている。
そんななか、昨年12月3日のCLグループステージでPSGがマンチェスター・ユナイテッドに勝利した直後、再び両クラブ間に爆弾を投下したのがネイマールだった。
「僕が求めるのは、もう一度、彼(メッシ)とともにプレーすることだ。彼がピッチで再び楽しめるようにね。来年、僕たちはそうしなくてはいけない」
退団騒動以降、その表情からプレーする喜びが失われかけていたメッシに向けたネイマールのひと言が導火線となり、またしても両クラブ間の軋轢が再燃する。しかもそれを承知していたのか、UEFAが12月14日に行なったCLラウンド16の組み合わせ抽選で、両クラブの直接対決が決定。それが、火に油を注ぐことになった。
『フランス・フットボール』誌では、冒頭のメッシ特集号よりも3週間前に、PSGのレオナルドSD(スポーツディレクター)のロングインタビューを掲載した。そのなかでレオナルドSDは、メッシ獲得の可能性について次のように語っている。
「メッシのような偉大な選手は、常に我々のリストにある。しかしこれについては、話をしたり、夢を見たりするべき時ではない。
たしかにピッチ上では、1970年代のブラジル代表が5人の攻撃的選手(ペレ、トスタン、リベリーノ、ジェルソン、ジャイルジーニョ)を同時にプレーさせていたことを知っているし、銀河系時代のレアル・マドリードが机上では美しかったものの、何も手にできなかったことも知っている。だからメッシがパリに来た場合、それがうまくいくのかはわからない。
ただ、我々はそのための大きなテーブルに座っている。いや、実際に席にはついていないが、席の予約はしている。それに、次の移籍ウィンドウについて、まだはっきりした考えを持っていない」
彼の言葉が真実だとすれば、メッシ獲得は憶測の域を出ておらず、現実的とは言えないのが現状だ。それに、バルセロナの次期会長になる人物こそがメッシの未来を決める最大のキーマンであることは明白であり、今後は公(おおやけ)になっている多額の負債による財政難、メッシの契約内容流出といった問題を収束させることが、メッシ残留のカギとなるだろう。
いずれにしても、数々の因縁が渦巻くバルセロナとPSGの対決・第1戦は、2月16日にその幕が切って落とされる。CLでは1994−1995シーズンの準々決勝で、一度だけPSGがバルサを撃破したことがあるが、はたしてアル・ケライフィ会長にとって4度目となる今回のバルサとの対戦では、いかなる結果が待ち受けるのか。
またしてもPSGが敗北を喫することになれば、再び今夏の移籍マーケットが大きな注目を浴びることになりそうだ。