デニス・イストミン(ウズベキスタン)が「全豪オープン」(1月16~29日/オーストラリア・メルボルン/ハードコート)の男子シングルス2回戦でノバク・ジョコビッチ(セルビア)に対して番狂わせを演じたあとコートから去る際に、イストミンの母は…

 デニス・イストミン(ウズベキスタン)が「全豪オープン」(1月16~29日/オーストラリア・メルボルン/ハードコート)の男子シングルス2回戦でノバク・ジョコビッチ(セルビア)に対して番狂わせを演じたあとコートから去る際に、イストミンの母は彼に「いい仕事だったわ」とだけ言った。

 彼女がおそらくほとんどの母親よりも冷静さを保ち、控えめだったことには理由がある。彼女はまた、彼のコーチでもあったのだ。

 男子テニスのツアーでは間違いなく珍しい“協定”を結んでいるふたりだが、蛍光グリーンの眼鏡をかけ、ユーモアのセンスを持ったひょうきんなイストミンにとってはそれがうまく機能している。彼はほかの方法でやるつもりはないと言う。

 「家族がチームの一員だというのは素晴らしいことだよ。母が僕をコーチしてくれているというのはラッキーだと思う」とイストミン。それから微笑んで、こう付け足した。

 「ほかのいいことは、エクストラのコーチ代を払わなくて済むことだね。すべて母に渡せばいいから」

 クラウディヤ・イストミナは息子がやってのけたジョコビッチに対する7-6(8) 5-7 2-6 7-6(5) 6-4という驚くべき勝利のあと、給料が値上げとなるのかもしれない。イストミンは過去のトップ10プレーヤーとの対戦で1勝33敗だっただけでなく(唯一の勝利は2012年インディアンウェルズの対ダビド・フェレール戦)、また、敗戦が続いて失望を誘った一年のあとに世界ランキングを117位まで落としていたのだ。

 実際、ランキングが低すぎたために30歳のイストミンは全豪本戦のワイルドカード(主催者推薦枠)を獲得することのできる特別なアジアのトーナメントで勝たなければならなかったのである。

 6度全豪を制したジョコビッチに対して自分が番狂わせを演じると大会前に誰かにそれを言われていたとしたら、どう考えていたかと聞かれたとき、イストミンは現実的だった。

 「『君、頭がおかしいのか?』とでも返していただろうね」とイストミンは笑いながら言った。「僕が肉体的にも精神的にもノバクに対して5セットをもちこたえるなんて、考えられないことだった」

 しかし、イストミンは少なくともジョコビッチと競り合えるという信念は持っていた。グランドスラム大会で12度優勝したジョコビッチは、昨年のウィンブルドン3回戦でサム・クエリー(アメリカ)に敗れている。このことが彼のようなトッププレーヤーでさえ、ときには弱さをさらすことがあるのだという事実を示して見せたのだ。

 「たぶん今日、ジョコビッチは彼のベストの状態ではなかったのかもしれない」とイストミン。「でも、すべてのプレーヤーのレベルは伸びつつある。だから、もし皆が全力で戦っていれば、ロジャー(フェデラー)やほかのトッププレーヤーにとってだって、トップ20や30の選手に対して勝つのは決して容易なことじゃない。それに多くの若いプレーヤーも台頭しつつある」。

 イストミンは14歳のときにウズベキスタンで深刻な交通事故に遭ったあと、テニスを断念することを強いられかけた。彼は3ヵ月病院に入院し、医師は彼がエリートレベルでプレーできるまでに回復できるか疑っていたのだという。

 しかしその半年後、イストミンはふたたびラケットを手に取った----彼のコーチであり母であるクラウディヤの励ましのおかげで。

 「僕らは以来ずっと、いっしょに頑張ってきた。僕らはいい関係を持っており、お互いを非常によく理解し合っている」とイストミンは言う。「彼女はいつも僕を、僕の力を信じ続けてくれているんだ」。(C)AP(テニスマガジン)