eスポーツを健全に楽しむために必要なこととは? 近年eスポーツが一層盛り上がりを見せ、ゲーム市場全体も右肩上がりに成長している。今後ますます競技人口の増加が予想されるが、気になる面もある。ゲームへの依存の問題だ。厚生労働省研究班の2017年…



eスポーツを健全に楽しむために必要なこととは?

 近年eスポーツが一層盛り上がりを見せ、ゲーム市場全体も右肩上がりに成長している。今後ますます競技人口の増加が予想されるが、気になる面もある。ゲームへの依存の問題だ。厚生労働省研究班の2017年度の調査によると、ネット依存の疑いのある中高生は93万人に上った。これは7人に1人の割合で、このうちゲームへの依存が最も多いと言われている。またWHO(世界保健機関)は2019年にギャンプルなどと並ぶ依存症として「ゲーム障害」を認定している。

 このように報告されている中で、eスポーツは手放しで推奨すべきものなのだろうか――。その判断をするにはあまりにも情報が少なすぎる。そこで現状の課題と予想される未来を専門家などの意見を含めて考えてみたい。まずはゲーム障害について、依存症の予防医学を専門とする岡山大学の神田秀幸教授に話を聞いた。

「ゲーム障害と診断されるのは、1つ目が『時間や頻度にきりがない』こと、2つ目が『日常よりもゲームを優先する』こと、3つ目が『問題が起きても続ける』ことで、たとえば家族とけんかになっても続けてしまうなどです。そして4つ目が『ゲームにより個人や家庭、学業などに重大な支障が起こる』ことです。成績が下がるとか学校に行かなくなるとかですね。この4点が12カ月以上続くことです」

 ではゲーム障害にならないためにプレー時間に制限を設ければいいのでは、と考えがちだが、まだそこまで研究されていないのが実情だ。ただ、神田氏がチームドクターを務める岡山県のeスポーツ強豪校、共生高校での活動内容に一つのヒントがある。

「活動時間は通常の部活動と同じです。(共生高校でプレーしている)リーグ・オブ・レジェンドは1試合が平均すると20分くらいで、終わった後に録画した映像をレビューします。この時に部員同士で考えさせる時間を設けたりしますので、その時間が時には1時間くらいになることがあります。健康の面から言うととてもいい時間配分だと思います」

 ただひたすらプレーし続けるのではなく、フィードバックの時間を設け、じっくりと分析し、次の試合に備える。これはeスポーツに限らず、リアルスポーツでも同じことが言える。逆に言えば、試合後に修正・改善がなされなければ効率よく上達することはできない。さらに神田氏はゲーム障害にならないために特に重要なことを教えてくれた。

「生活のサイクルがとても大切です。eスポーツやゲームをやる場合、海外と対戦したりするため、深夜帯に行なう人が多くいます。そうすると、昼夜逆転の生活サイクルになりがちです。長期休みの前には必ず保護者に対して、昼夜逆転にならないようにと伝えています。そのためには朝昼晩、三食きっちり食事を摂るようにして、夜は寝る。そして適度に運動をする。まずは子供がゲーム障害になりにくい生活環境を大人が作っていくことが大切です」

 生活のサイクルを整え、プレーする時には連続で行なわず、定期的に休みを入れたり、分析する時間を取る。それがゲーム障害予防の一つの解と言えるだろう。

 このゲーム障害のようにeスポーツにはネガティブな意見が根強くあるが、ゲームによって養える能力もあると言われている。横浜商科大学で「eスポーツを使った認知スキルのトレーニング」を研究する永野智久准教授はこう語る。

「eスポーツは競技として扱われるタイトルが多種多様なうえに、毎年ゲームのレギュレーションが変わったりします。それに乗っていかないと淘汰されていくので、レギュレーションにしっかり対応していく適応能力が養われます」

 これまでもゲームは数多くリリースされ、人気のゲームは早ければ1年に1回、シリーズの新作が発売される。さらに最近のゲームは、インターネットを介して頻繁にアップデートが行なわれる。機能が追加されたり、操作性が向上したりと、プレーヤーはその都度、頭を切り替えなくてはいけない。トップシーンで活躍しているプレーヤーたちにとっては、レギュレーションにいかに素早く適応するかが一つのカギを握る。つまり常に上位で活躍できているプレーヤーは、高い適応能力を有していると言っても過言ではない。

 また「ゲームをやると目が悪くなる」とよく言われるが、永野氏はeスポーツと目の関係について興味深い発言をした。

「eスポーツをやることで、視力以外の視機能が上がるというのは間違いありません。いわゆるリアルのスポーツ選手でいう、反応速度、状況の変化をいかに素早く察知できるかという能力が上がります」

 より詳しく説明すると、ファーストパーソン・シューティングゲーム(FPS)と言われる、操作するキャラクターの視点で行なうシューティングゲームをプレーすることによって、視機能の一つで濃淡の変化を見分ける能力、コントラスト感度が向上することがわかっている。これにより、より素早く効率的に状況を把握することができるようになり、その効果がゲームをしなくなった後も数カ月持続するという。さらに永野氏はeスポーツがリアルスポーツに与える好影響についても期待を寄せる。

「レーシングゲームの『グランツーリスモ』は実際のレースと親和性が高く、事実ゲーム出身のレーサーも出てきています。またウイイレ(『ウイニングイレブン』)や『FIFA』のようなサッカーゲームは、目的をしっかりと持って活用すれば、普段ピッチ上で行なっているコーチングと同じようなことがeスポーツでもできます。今はゲーム上でも11人のチームを組んでプレーできますので、認知・判断、チームのコミュニケーション、戦術・戦略的なところもオンラインでトレーニングできるでしょう。またプレーヤーのビューにカメラモードを変換することができるようになれば、より実際のプレーにいい影響を与えると期待されます」

 永野氏は「eスポーツをやることによってリアルスポーツの上達を阻害するようなネガティブな要素は逆に見当たらない」と断言する。eスポーツがリアルスポーツの現場で活用される未来がすぐそこまで近づいているのかもしれない。