400mでは清水咲子(左)とワンツーフィニッシュを飾った大橋悠依(中央)  大橋悠依(イトマン東進)が笑顔を取り戻した。2月4日からのジャパンオープンで200m個人メドレーと400m個人メドレーに出場し、ともに東京五輪派遣標準…



400mでは清水咲子(左)とワンツーフィニッシュを飾った大橋悠依(中央)

 大橋悠依(イトマン東進)が笑顔を取り戻した。2月4日からのジャパンオープンで200m個人メドレーと400m個人メドレーに出場し、ともに東京五輪派遣標準記録IIを突破して優勝を飾った。あまり大会がなかったため2020年の世界ランキングは基準にできないが、2019年の世界ランキングを見れば200mが2位400mは3位と、日本女子選手の中では最もメダルに近い存在だと言えるだろう。

 大橋は昨年10月中旬にハンガリーのブダペストで開催された国際競泳リーグ(ISL)に日本チームの一員として出場していた。10日間で17レースを泳ぎ、200m個人メドレーと400m個人メドレーで9勝していたが、帰国後はその疲れが出たのか、日本選手権は体調不良で棄権。その後もチーム練習に参加できず、年末にやっと合流していたが、年明けまで調整に苦しんでいた。

 そんな大橋は、大会2日目の400m個人メドレーでスタートのバタフライを慎重に入ると、得意の背泳ぎで一気に2位以下を突き放して制した。しかし、納得はしていなかった。

「2週間前(北島康介杯)よりタイムを1秒ほど上げて優勝できたのはよかったですが、タイム自体はギリギリ合格ライン。このタイムでは世界と戦うことはできないので、これからは自己ベスト(4分30秒82)を上回っていけるようにしなければいけない」

 そう話して多くの課題を挙げた一方、翌日の200m個人メドレーでは2種目目の優勝を果たし「やりたいことの8割くらいはできた」と明るい表情を見せた。

「長い距離の練習が全然積めていないので、400mに関しては4分30秒というタイムに対しての筋力の負荷が、まだ5割か6割くらいしかできてないと思います。でも、今日の200mは種目ごとの切り替えが結構うまくできて、最後の50mもギアを変えて頑張ることができました。400mの練習をもっと積んでいけば、200mもおのずと上がってくると思うので、200mに関しては安心できると思います」

 前向きに話す大橋だが、実は400mを辞めたいと思ったことがあるという。4種類の泳法を100mずつ泳ぐ400m個人メドレーは、肉体的にも精神的にもやはりきつい種目なのだ。

 2019年世界選手権では、メダル確実と思われていた200mで、調子を合わせられず6位という結果だったうえに、泳法違反で失格。そこで気持ちが一気に落ちてしまった。6日後の400mではなんとか銅メダルを獲得したものの、この種目で日本人選手が自分1人しかいない孤独感が暗い気持ちに追い討ちをかけた。レース前の招集所では、「こんなきつい種目はもう泳ぐことができない」と思い詰めていたという。

 それでも辛抱強く400m個人メドレーと向き合う中で、大橋の救いになったのが、3歳年上の清水咲子だった。ISL後に大橋と同じ平井伯昌コーチの指導を受けるためにチームに合流したことだった。清水は、リオデジャネイロ五輪400m個人メドレーに出場し8位入賞の頼もしい存在だ。 

「400m個人メドレーは1回うまく泳げないレースをしてしまうと、その感覚が残ってしまい、次のレースで引きずってしまう感じがあるんです。でも、咲子さんはレースの前にいつも『一緒に頑張ろう!』と声をかけて気持ちを奮い立たせてくれる人で、招集所に彼女がいるとすごく明るくなるんです。

 (昨年の)12月に私が平井チームの合宿に行けなかった時も、LINEでいつも『調子はどう?』と連絡をくれたり、どういう練習をしているかも教えてくれました。それに年末に私がチームに戻った時も、すごく入りやすいように接してくれたのでスムーズに復帰することができました」

 同じ種目でライバルでもあるふたりだが、互いに一方の調子が悪い時には「頑張ろう」と声をかけて高め合える関係。さらに練習中でも互いの得意種目が違うため、それぞれの視点で泳ぎのアドバイスをし合っているという。大橋は「咲子さんがいなかったら400m個人メドレーをやめていたかもしれない」とまで言う。

 平井コーチは、そんな大橋についてこう話す。

「練習不足ということもあって北島康介杯の時はすごく疲れていましたが、彼女はISLや世界選手権でもそうだったように、疲労さえ抜けば結果を出せる選手。だから、そこはうまくコントロールできると思います。昨年に比べてスピードも出てきているので、これからしっかり練習に取り組んでいけば、結果も出るのではないかと思います」

 今年のジャパンオープンは東京五輪の代表選考大会のひとつであり、今年4月の日本選手権を新型コロナの影響で欠場した選手は、ここでの記録も選手選考の条件に組み込まれることになっている。今回、大橋はその予備条件をクリアして2冠を達成。ここから、新たな意欲を持って笑顔で再スタートを切った。