カナダのファンを沸かせるツーウェイ組のエリート 渡邊雄太(トロント・ラプターズ)に対する称賛が止まらない。ニック・ナース…

 

カナダのファンを沸かせる“ツーウェイ組”のエリート

 

 渡邊雄太(トロント・ラプターズ)に対する称賛が止まらない。ニック・ナースHCの試合後のコメントは常に継続的な起用をにおわせる内容であり、毎試合後のチーム公式ポッドキャストでは、いつの間にか渡邊関連の議論に2割程度の時間を割くエピソードが見られるようになってきた。カナダのファンは渡邊に相当入れ込んでいる様子で「Watana’bae’」という言葉が登場したことは既報のとおりだ。私が取材をさせてもらった相手の女性にはその後、別の日本メディアからもアプローチがあったという。つまり、渡邊人気の逆輸入現象だ。
 でも、なぜ? 昨シーズンまでのメンフィス・グリズリーズでは「冷や飯を食わされていた」と言ったら言い過ぎかもしれないが、今と同じような機会はついぞ得られなかったのに…。ラプターズ入りはエグジビット10(Exhibit 10)という契約形態で、リーグ規定の最低年俸を得られる1年間のノンギャランティー契約から始まった。つまり「キャンプ後は分からないよ」である。今シーズン「僕はNBAプレーヤーです」と言える立場に身を置けるかどうかの保証はなかったのだ。しかし今、仮にニック・ナースHCが渡邊を起用しなくなったら納得する者はどこにもいないだろう。
 なぜ急に使ってもらえるようになったのか? なぜ機会が来たときに期待に応えられているのか? なのにどうしてフル契約にとんとん拍子でいかないのか? 自分なりの分析を楽しんでみた。

 まずチェックしてみたのがツーウェイ契約の部分だ。NBAで最大50試合まで帯同できるがそれ以外はGリーグチームで活動するという“二刀流”契約である。
 現地2月1日の日程を終えた時点でNBA公式サイトのスタッツ一覧のページを“流し見”していくと、このツーウェイ契約プレーヤーのデータは43人分見つかった。しかし中にはほとんど出場機会のないケースもあるので、5試合以上の出場(この時点で消化試合数が最も少ないグリズリーズの3分の1)に絞ってみると、人数は38に減少した。彼らの平均出場時間は約7.7分だった。
 この数字をもとに、5試合以上の出場があり出場時間が上記平均値の約半分に相当する平均4分以上あるプレーヤー26人に絞って、渡邊の立ち位置を探ってみる。
 ちなみにNBA全体では474人分のスタッツが並んでおり、ツーウェイはその9.1%程度。なのでごく大まかな捉え方としては、「最高峰リーグでプレーする100人中の91番目から95番目あたり」の競争を捉えられるように思うがどうだろう。

 

☆ツーウェイ契約主要26人中の渡邊の順位
試合数 2位タイ/14試合 1位アミア・コフェイ(ロサンジェルス・クリッパーズ) 15試合
出場時間 8位/12.7分 1位=ゲイブ・ビンセント(マイアミ・ヒート) 20.8分
平均得点 9位/3.9得点 1位=ギャリソン・マシューズ(ワシントン・ウィザーズ) 8.9得点
FG成功数 12位/1.2本 1位=ゲイブ・ビンセント(マイアミ・ヒート) 3.0本
FG成功率 14位/37.8% 1位=モーゼス・ブラウン(オクラホマシティー・サンダー) 70.0%
3P成功数 5位/0.9本 1位=ギャリソン・マシューズ(ワシントン・ウィザーズ) 1.7本
3P成功率 3位/48.0% 1位=メイソン・ジョーンズ(ヒューストン・ロケッツ) 57.7%
FT成功数 13位タイ/0.6本 1位=ギャリソン・マシューズ(ワシントン・ウィザーズ) 2.4本
FT成功率 1位タイ/100%
オフェンシブ・リバウンド 4位/0.9本 1位=ポール・リード(フィラデルフィア・セブンティ・シクサーズ) 1.4本
ディフェンシブ・リバウンド 2位/2.5本 1位=ファン・トスカーノ=アンダーソン(ゴールデンステイと・ウォリアーズ) 2.9本
総リバウンド 2位/3.4本 1位=レジー・ペリー(ブルックリン・ネッツ) 3.6本
アシスト 22位/0.4本 1位=ジョーダン・マクラフリン(ミネソタ・ティンバーウルブズ) 4.1本
ターンオーバー 12位タイ(少ない順)/0.5本 1位=カイル・ガイ(サクラメント・キングス) 0.0本
スティール 4位タイ0.5本 1位=ギャリソン・マシューズ(ワシントン・ウィザーズ) 1.4本
ブロック 2位/0.8本 1位=ポール・リード(フィラデルフィア・セブンティシクサーズ) 0.8本
ファウル 8位/1.1個
ファンタジーポイント 5位/12.0 1位=ギャリソン・マシューズ(ワシントン・ウィザーズ) 17.0
± 6位/0.3 1位=ポール・リード(フィラデルフィア・セブンティシクサーズ) 3.4

 ここで名前が挙がってくるのは出来のいいツーウェイ契約プレーヤーと見て間違いないだろう。先日ウィザーズがブルックリン・ネッツに149-146で勝った試合で、試合終了間際8秒間の8-0のランで、インバウンドパスをスティールしてラッセル・ウエストブルックの逆転スリーをアシストしたマシューズの名が何度も出てくるのを見ると、納得してしまう。
 しかしマシューズに負けず渡邊の数字もいい。特にスリーとフリースロー、リバウンド、スティール、ブロックといった項目はいわゆる“3&D”タイプとして評価を高めたい渡邊にとって、ねらい通りの結果と思われる。
 渡邊はツーウェイ契約プレーヤーの塊の中でエリートだと証明したのだ。前述の「リーグの下から10%」の中で、自身の特徴を強く出しながら数字を残している。コーチやフロントの最優先事項が主力のケアだとしても、では8番目、9番目、10番目のプレーヤーをどうするかとなった時に、このタレントプールを必ずチェックすることになる。それはチームとして1シーズン戦い続けるには絶対に欠かせない要素だ。
 そのプールの中で渡邊はすぐに目に飛び込む結果を積み上げた。だから使いたくなるのだ。

 

グリズリーズ在籍時は思うような機会を得られなかったが、ラプターズでは状況が大きく変わってきている(写真/石塚康隆)

 

ラプターズの弱点“インサイド・プリゼンス”を補う存在感

 

 次に目をやったのは、ラプターズのチームスタッツだ。今シーズンのラプターズはいわゆる“インサイド・プリゼンス”がいないことを懸念材料に挙げられていた。かつて頼りにしていたマルク・ガソール(現ロサンジェルス・レイカーズ)もサージ・イバカ(現ロサンジェルス・クリッパーズ)もいないペイントのディフェンスは迫力に欠けるのだ。
 リバウンドはリーグの30チーム中の下から5番目の平均43.0本、ブロックは下から6番目の5.8本という数字だ。開幕前の懸念は現実のものとなっている。
 渡邊が買われる要因がここにもあることがわかる。体を張り、走り、飛び、決して“ボールホグ”のようにはならないアンセルフィッシュなプレーぶりがチームに必要なのだ。
 渡邊のリバウンドは、全員の数字を36分間出場したと仮定した補正値である「Per 36 Minutes」のデータで見てみると、リバウンドはチーム3位の9.7本だった(つまり平均36分出場すれば毎試合9.7リバウンドを期待できる)。ブロックはと言うと現存ロスターの中では2位となる2.2本である(ウィザーズに移籍したアレックス・レンの2.8本も含めると3位)。
 チーム事情としてラプターズが是が非でも強化したいポイントにドンズバでニーズを満たす要素を、大いなるハッスルぶりとともに渡邊は提供している。加えてもう一つ加えるなら、3Pショット成功率(48.0%)も現存ロスターの中で上から4番目とよい位置にいる(これもアレックス・レンの50.0%を含めると5位になる)。


ショットチャートの美しさに見る落ち着きとIQ

 

 リーグ全体のツーウェイ契約プールでエリートな数字をたたき出していること、チームニーズにドンズバで応えていることの2つが、渡邊がこれだけ使われるようになった理由だと思う。…が、なぜそれができるのかを最後に無理やりこじつけてみたい。

 

アメリカ現地2月1日までのデータによる渡邊のショットチャート(NBA公式サイトより)


 そのヒントはショットチャートにある。こちらの図はNBA公式サイトで保存した渡邊のショットチャートなのだが、明らかに渡邊が3Pショットとペイントアタックにフォーカスしていることが推察できる。ここまでの全試合で、渡邊はそれ以外のショットを1度しか放っていないのだ。
 これは渡邊がラプターズのゲームプランを沈着冷静に遂行しているだろうことを示している。自分のやるべきことが理解できているからこそ、徹底できるのだろう。集中が途切れてついつい流れでミドルレンジから放ってしまうようなことがほとんどないのだ。状況判断とコートIQがいかんなく発揮されている。
 今後の活躍を占うには、渡邊のショットチャートを日々追いかけて、ブレの兆候がないかをチェックしてみるといいかもしれない。今の傾向がさらに顕著になるようなら、当然「×」も今より目立たなくなるだろう。そうなればツーウェイ契約を脱してフルの複数年契約が自然と転がり込んでくるはずだ。

 

(月刊バスケットボール)