愛知国体フィギュアスケート成年女子フリーを滑る三原舞依  1月30日、名古屋。フェンスの外側に立った三原舞依(20歳、シスメックス)は両手を握りしめ、胸元に上げ、懸命に祈っていた。兵庫県代表の同志で、同門の盟友である坂本花織が…



愛知国体フィギュアスケート成年女子フリーを滑る三原舞依

 1月30日、名古屋。フェンスの外側に立った三原舞依(20歳、シスメックス)は両手を握りしめ、胸元に上げ、懸命に祈っていた。兵庫県代表の同志で、同門の盟友である坂本花織が滑り始めるところだったが、人はそこまで切実に健気に他人を応援できるものか。最後のジャンプ、目の前の3回転ループでは「はい!」と跳び上がるタイミングで声をかけていた。見事に着氷すると、自らぴょんと跳び上がり、小躍りで喜ぶ。

「(中野園子)コーチがいつもそうなので、思わず掛け声が出ちゃって。(坂本)花織ちゃんよりも、ガッツポーズしてたかも!」

 三原は1位になった坂本を祝福し、その瞬間を朗らかな表情で振り返った。人柄がにじみ出ていた。その人間性がスケーティングも形作るのだろう。

 愛知国体・フィギュアスケート成年女子。兵庫代表の三原はショートプログラム(SP)で5位と振るわず、フリースケーティングに挑んでいた。全日本選手権を戦い切ったことで、体の動きは重く映った。坂本の「一緒に兵庫代表で」という"説得"で出場を決めたが、難病から復帰したシーズンを戦ってきた消耗のツケを払っていた。

「正直に言うと、全日本から調整は順調ではなくて。納得できるまでの練習はできていませんでした」

 三原は隠さずに言った。

「(冒頭の)3回転3回転のコンビネーションも、それでこけたり、回転不足を取られたりするよりは、3回転2回転で加点をもらったほうがいいかな、と。一瞬の判断で切り替えました。全日本の時よりも(スケーティングに)強さはなくて、うまく切り替えて滑れたのはよかったと思いますけど」

 63.24点とジャンプの加点がつかず、苦しんでいた。


SP演技の三原。演技後、

「調整が順調ではなかった」と話した

 しかし劣勢であっても、全てを出し切れる「渾身」に、三原の真骨頂はあるだろう。

 フリーは使用曲「フェアリー・オブ・ザ・フォレスト&ギャラクシー」の律動に、妖精が目覚める。冒頭に3回転ルッツ+2回転トーループ+2回転ループを成功し、高い出来栄え点(GOE)も叩き出す。ダブルアクセル、3回転フリップ、3回転サルコウも着氷。伝家の宝刀のようなスピンは低く鋭く美しく、レベル4がついた。ダブルアクセル+3回転トーループの大技は後者が「q」という4分の1回転不足も、3回転ルッツ+2回転トーループ、3回転ループとことごとく降りた。

「(三原)舞依ちゃんには無理させちゃったかな、と思っていて」

 そう語る坂本は、自身の演技が控えていていたにもかかわらず、裏から三原の演技を見守っていた。

「精一杯、という演技で。舞依ちゃんらしく滑っているなって。本当によかったです。いつもは自分の演技の直前に、他の人の演技を見ることはないんですが。見ながら、元気をもらえたかなと思います」

 三原はステップもレベル4を獲得。終盤、さまざまな音が重なり合う中、スパイラルは物語のハイライトのようで、人を引き込む力を持っていた。舞台を演出する力は、傑出したものだ。

 フリーは131.18点で3位に入り、総合では194.42点で、僅差で4位だった。圧巻の演技を見せて1位に輝いた坂本と、兵庫の優勝に貢献した。

「優勝を(兵庫に)持って帰れるのはよかったです。花織ちゃんのおかげですけど。絶対やってくれると信じていましたが、私の順位がギリギリだったので、『ごめん』って、祈るような気持ちでした」

 三原は体を小さくし、遠慮がちに言った。言うまでもないが、ふたりで勝ち取った勲章だ。

「舞依ちゃんは、見たまんま真面目で。コツコツとやっているし、どんな日でも自分の気持ちに負けない練習をしていて。自分の刺激になっています」

 坂本は笑顔を作り、実感を込めて言った。

 三原は朗らかでひたむきで、周りを輝かせるような人柄なのだろう。人への敬意が、見えない行動に出る。それが、彼女が周りに好かれる理由になっていて、それを自ら肌で感じ取って感謝できるからこそ、正念場で渾身を見せられるのかもしれない。

「来シーズンに向けては、しっかりと練習を積むことと、積めるだけの体力をつけることですね。(復帰後は)だいぶ体力は戻ってきたんですが、疲れが取れにくい体になっているので。動かして体を作って、出だしから押していけるような力強いスケーティングを見せたいです」

 三原はそう言って自分と向き合っていた。

 2020ー21シーズンを通し、その歩みは着実だった。そして2021ー22シーズンは、北京五輪も待つ。熾烈な競争に名乗りを上げるまで、力は戻ってきた。勝負のプログラムは、SPは変更が決定的だが、フリーは「どこを切り取っても好き。まだ完璧ではない」と継続もあるという。