サッカースターの技術・戦術解剖第43回 ペドリ<イニエスタのクローン> バルセロナの18歳、ペドリ(ペドロ・ゴンサレス・…
サッカースターの技術・戦術解剖
第43回 ペドリ
<イニエスタのクローン>
バルセロナの18歳、ペドリ(ペドロ・ゴンサレス・ロペス)は「イニエスタのクローン」と呼ばれているらしい。プレーぶりを説明するのに、これ以上の言い方はないだろう。

イニエスタのようなプレーをするバルサの18歳、ペドリに注目が集まっている
相手と相手の中間ポジションに入り込んでパスを受け、相手を動かすことで生じる穴を的確に突いていく。ポジショニングのうまさ、ファーストタッチの柔らかさ、パスを出すタイミングなど、アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)と確かによく似ている。
いかにもバルセロナのカンテラ育ち(カンテラーノ)といった雰囲気なのだが、ペドリがバルサの育成チームにいたことはない。カナリア諸島の出身で、地元のユースチームを経てラス・パルマスのユースからトップと契約したのが16歳、次のシーズン(2020-21)にバルセロナに移籍した。
その経歴を知らなければ、バルサの育成出身にしか思えない。それぐらいバルサのスタイルにフィットしている。どうも父親がバルサのファンだったらしく、ペドリも子どものころからイニエスタに憧れてテレビでプレーをよく見ていたそうだ。もちろん、それだけで「イニエスタのクローン」になれるはずはなく、才能に恵まれていたのは間違いない。
ヨハン・クライフ監督が「ドリームチーム」で黄金時代を築いてから、バルサスタイルはスペインに多大な影響を与えた。プレースタイルは徐々に浸透し、すべてのクラブが同じスタイルではないにしろ、バルサのやり方は部分的には取り入れられていった。ラス・パルマスも例外ではなかったはずだ。バルサと同じものを目指していなくても、スペインでバルサのスタイルを知らない人はいない。
ペドリは体格も小柄で、特別なフィジカル能力に恵まれているタイプではない。ペドリがテレビでバルサを吸収できたなら、日本の少年たちにも同じことができるのではないかと思った。バルサスタイルを身に着けバルサでプレーするために、カンテラに所属しなくても大丈夫だというのがペドリで証明されたのだ。
<バルサスタイル特化の弊害>
バルセロナのカンテラが注目されたのは、ジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)の存在が大きい。それ以前にもクライフのチームメートだったカルレス・レシャックや、ドリームチームの中核だったギジェルモ・アモール、アルベルト・フェレールなどがいるが、グアルディオラはバルサスタイルの象徴とも言える選手だった。
グアルディオラのあとはシャビ・エルナンデス(現アル・サッド監督)、そしてイニエスタ、リオネル・メッシと次々に逸材を輩出した。体格は普通か小柄、しかしパスワークのテクニックがすばらしく、バルサのパスゲームはカンテラーノたちの活躍が支えていた。
シャビ、イニエスタ、メッシのあとも、バルサ的な才能を持つ選手は現れている。ただし、トップチームに定着した例はむしろ少ない。カンテラ時代は最高傑作と言われたボージャン・クルキッチ(モントリオール・インパクト)も、大成したとは言い難い。天才の誉れ高かったチアゴ・アルカンタラは、バイエルン、リバプールとバルサの外で活躍した。
カルレス・アレニャは久保建英と共にヘタフェでプレーしている。昨季バルサでブレイクしたリキ・プッチもロナルド・クーマン監督に代わった今季はあまり出番を与えられていない。
あまりにもバルサスタイルに特化しすぎているからだろう。もちろんバルサのカンテラを経てプロになった能力があるので、ほかで通用しないわけではない。移籍して大活躍している選手は多い。
ただ、インテリオール(インサイドハーフ)に関しては難しい。バルサスタイルのエキスが最も濃いポジションなので、それだけほかのスタイルにはフィットしにくい。最近は他チームでもバルサ的な選手を使える環境ができてきているが、依然としてバルサに最適化すればするほど「つぶしがきかない」傾向はある。
<カギを握る4-3-3>
バルセロナ内部でさえ、カンテラーノが適応できないケースがある。監督がクライフやグアルディオラなら起用されても、ルイス・エンリケ(現スペイン代表監督)やクーマンなら使わないということは起こりうる。同じバルサの監督でもバルサスタイルには濃淡があるので、あまりにコテコテすぎるとはじかれてしまう場合もあるわけだ。
キケ・セティエン前監督に目をかけられたプッチは、クーマン監督になると干された状態になっていた。クーマンは4-2-3-1システムで開幕していて、2ボランチには守備面で信頼できる選手を使っていた。セルヒオ・ブスケツ、フレンキー・デ・ヨングのコンビがファーストチョイス。トップ下はメッシやアントワーヌ・グリーズマンなので、インテリオールのタイプは居場所がなかった。
しかし、ここにきて4-3-3にシフトして、インテリオールをふたり使うようになった。バルサのオリジナルに近くなったので、インテリオールとしてペドリが台頭し、プッチもようやくチャンスを与えられるようになっている。
このまま4-3-3でいくかどうかはわからないが、若いペドリ、プッチ、デ・ヨングがイニエスタ、シャビ、ブスケツの後継者に成長していくのは、バルサファンの夢かもしれない。