セリエAの前半19試合が終了した。現在の順位は、首位ミラン(勝ち点43)、2位インテル(41)、3位ローマ(37)、そ…

 セリエAの前半19試合が終了した。現在の順位は、首位ミラン(勝ち点43)、2位インテル(41)、3位ローマ(37)、それに勝ち点36のユベントス(ただし1試合少ない)とアタランタが続く。開幕前には予想もしなかった状況だ。

 一番のサプライズはミランだろう。ステファノ・ピオリ監督(とズラタン・イブラヒモビッチ)のチームは、すばらしい歩みを見せている。ここ何年もの間陥っていた二流チームの空気を一掃し、ライバルたちの前に出た。

 この「ミランの奇跡」の立役者は、イブラヒモビッチだと言われがちだ。もちろんそれもあるのだが、真の功労者は監督のピオリだろう。もともとは昨季かぎりの契約だったが、若手を中心にチームを作ったうえで、経験豊かで並外れたカリスマ性を持つイブラヒモビッチに、非常にうまい形でリーダーシップを与えた。これはピオリの手腕である。

 イブラヒモビッチはケガとコロナ感染で欠場も少なくなかった。それでも12ゴールをマークし、若い選手たちに勝者のメンタリティを叩き込んだ。今のミランにはなくてはならない男だ。おまけにこれからの後半戦、イブラヒモビッチは、マリオ・マンジュキッチとともに戦う。ユベントスが軽率にも手放してしまったマンジュキッチは、カタールでの短い経験の後に、また本当の戦いの場に戻って来た。ICコンビ(イブラヒモビッチとマンジュキッチ。名前の最後の文字がIⅭなのでこう呼ばれている)の活躍をミラニスタは心待ちにしている。



15得点で得点ランキング首位に立つクリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)photo by AFP/AFLO

 シーズン2つ目のサプライズは、首位から7ポイント差で4位となっているユベントスだ。ナポリとのホーム戦が1試合足りない(第3節でナポリにコロナ陽性者が出たため。いったんはユベントスの不戦勝となったが、その後、延期となった)とはいえ、9連覇中のユベントスにとってはあってはならない順位である。

 監督がマウリツィオ・サッリからアンドレア・ピルロに代わり、チームは過渡期にあるとわかっていても、これはショッキングな出来事だ。"マエストロ"ピルロはこれが監督として初めてのシーズンである。ピッチで自分がプレーするのと、ベンチで指揮をするのとでは勝手が違うのだろう。

 ピルロはボールポゼッションを重視し、名将たちのいいとこ取りをしたような「ピルロのサッカー」の完成を目指している。そのためシーズン序盤は、毎試合ごとに選手やポジションを入れ替えるなど、手探りで進んだため、格下相手に引き分けることが多かった。

 クリスティアーノ・ロナウドは15ゴールを決めて現在得点ランキングのトップに立つが、これまでに比べるとどこか凄みが薄れている気がする。左で孤立し、チームのプレーにからまないことがしばしば見受けられた。そして何より失望されたのはパウロ・ディバラだ。ケガやコロナ感染があったとはいえ、ここまでたったの2ゴールしか決めていない。ディバラが昨季の天才的なプレーを再び取り戻し、ロナウドがかつての最強戦士に戻ることが、今後のユベントスの巻き返しには欠かせないだろう。

 ロナウド、ディバラらFWはケガ人やコロナという言い訳がきくが、中盤はもっとテコ入れする必要があるだろう。ここまで一番いい結果を出しているのは若きアメリカ人のウェストン・マッケニーで、一番不調なのはミラレム・ピャニッチとの交換でバルセロナから来たアルトゥールだ。ブラジル代表のアルトゥールはスピードがなく、動きも悪く、持てる力をなかなか出せずにいる。ピルロは今後、中盤のパフォーマンスを上げるためにかなりの努力をしなければならないはずだ。

 ちなみに最終順位でミランがユベントスを上回ったのは、ミランが優勝した2010-11シーズンが最後である。

 前半戦、それ以外のチームで触れておきたいのは、かのフィリッポ・インザーギが率いるベネベントだ。昨シーズンはセリエBで2位以下を勝ち点で20近く離す圧倒的な強さを見せて昇格を決めた。その際、賢明にも大きな変革をしなかった。スターはいないが情熱と闘志ならば人一倍のチームでセリエAに臨んでいる。

 現役時代同様、ピッポ(インザーギの愛称)はとてつもなく攻撃的なサッカーを仕掛けてくる。時に守備が危機にさらされることもあるが、それでも毎試合10本以上のシュートを生み出す力はたいしたものだ。今後の課題は、これらのシュートを正確にゴールに叩き込めるエキスパートの獲得だろう。ここまでで獲得した22ポイントという数字は、リーグ後半戦、落ち着いてプレーができることを約束している。

 ネガティブな意味でサプライズなのは、下位のチームだ。降格圏には、これまでイタリアのサッカーの歴史を作って来たチームの名前が見られる。パルマ、カリアリ、トリノ、ジェノアだ。特にトリノとカリアリにとって、このシーズン前半は苦しいものだった。

 トリノはここまでたった14ポイント、ホームでの勝利は一度もない。彼らはつい先日監督の首をすげ替えたが、本当に必要なのはメンタリティの一新だろう。選手たちの顔ぶれを見る限り、この順位に甘んじるチームではない。

 同じ下位でもカリアリは少し状況が異なる。彼らは今シーズン、いいスタートを切った。一時期はヨーロッパリーグ出場権も期待できるのではというところにまでいっていた。しかしその夢は、まさかの6連敗で破れてしまった。

 このチームも、持っているカードは悪くない。ディエゴ・ゴディン、ラジャ・ナインゴラン、ジョアン・ペドロ、ナイタン・ナンデス......。だが、監督のエウゼビオ・ディ・フランチェスコはこの状況から抜け出すのに苦労をしている。

 そこでカリアリの会長は通常とは異なる手段に出た。監督を解任する代わりに、信頼の証として契約を1年延長したのだ。つまりトリノとは真逆の方法だ。監督をクビにしたトリノと信頼を与えたカリアリ。どちらの方法が功を奏すのか、外野としては興味深いところだ。