かみじょうたけし×いけだてつや「高校野球対談」(前編) コロナ禍に揺れた2020年。高校野球は春夏の甲子園大会が中止となり、開催された大会も多くは無観客試合になった。不自由な思いをする高校野球ファンも多かったなか、「高校…
かみじょうたけし×いけだてつや「高校野球対談」(前編)
コロナ禍に揺れた2020年。高校野球は春夏の甲子園大会が中止となり、開催された大会も多くは無観客試合になった。不自由な思いをする高校野球ファンも多かったなか、「高校野球芸人」として活躍中のかみじょうたけし(松竹芸能)といけだてつや(人力舎)はどのように非常時を過ごしていたのだろうか。東西の高校野球芸人のリモート対談をお届けする。
昨年夏、無観客で開催された甲子園高校野球交流試合
── 2020年は観戦も制限され、高校野球ファンとしては過ごしにくい年だったと思いますが、いかがでしたか?
かみじょう そうですね。センバツ代替大会の甲子園高校野球交流試合が8月にあったけど、春夏の甲子園は中止になりましたからね。でも、ファンというより現役球児のつらい心情を思うと、いまだにかける言葉がないというか。もう泣きそうなんですけど......(言葉に詰まる)。
いけだ かみじょうさん、まだ始まったばかりですよ! でも、気持ちは痛いほどわかります。多くの高校3年生の球児にとってはこの1年だけの話ではなくて、子どもの頃から野球を続けてきて、集大成の年だったわけですからね。球児の親にしても朝早く起きて弁当をつくったり、ユニホームを洗ったりとサポートしてきたのに、最後の独自大会では試合を見られない県もあって。
── 毎年、お二人は甲子園を現地で見ることが多かったそうですが、2020年はどう過ごしていましたか?
いけだ 本当なら春のセンバツが開幕していたはずの日に、甲子園球場に行ってみたんです。もしかして、僕がメディアにだまされているだけで大会は開催されているんじゃないか......と一縷の望みをかけて。そうしたら、現地でかみじょうさんとお会いしました(笑)。
かみじょう そうやったね。俺も本当に大会がないのか確かめずにはいられなかった。甲子園駅を降りたら、知らない人から「やっぱりかみじょうさんも来ましたか」と話しかけられて。その人はわざわざ三重から来たって言っていた。ほかにも何人か甲子園周辺に来ていたね。いけちゃんは、テレビの取材を受けていたもんな(笑)。
いけだ 「誰もいない甲子園」という映像を撮りたかったようなんですけど、人がいてあてが外れたみたいです。取材には「東京から来ました」と答えました(笑)。
昨年秋のドラフトで日本ハムから4位指名された智辯和歌山の細川凌平
かみじょう 甲子園がなかったから痛感したけど、2020年は体がラクやったわぁ。
いけだ たしかにそうですね。
かみじょう 家で観戦するのって、こんなにラクなんやなと思った。炎天下で3試合、4試合と続けて見ていると時には苦行みたいな感覚になることがあるから。もちろん、誰に言われるわけでもなく、勝手に見ているだけなんやけど(笑)。
いけだ テレビだとリプレイもありますし、地方大会の情報を補足してくれるのもありがたいですよね。あと、甲子園を見ていてトイレに並ばなかったのは初めてです。家には自分専用トイレがあるので(笑)。
かみじょう ほんまやなぁ。
いけだ 2020年は選手の顔が一番よく見えた気がするんです。
かみじょう あっ、それは俺も感じてた! 現地で見ていると、じつは球児の顔って遠くてよくわからないんだよね。帽子を被るとみんな同じように見えてくる。新大阪駅でせっかく甲子園球児から「かみじょうさんですよね?」と話しかけてもらっても、誰かわからないことも多くて。
いけだ テレビ観戦にはテレビ観戦のよさがあると発見できましたね。
かみじょう テレビ観戦して、初めて人の役に立てたなと思ったことがあったのよ。智辯和歌山のキャプテンをしていた細川凌平くんのことなんやけど。
いけだ ドラフト会議で日本ハムから4位指名を受けた選手ですね。
かみじょう 夏の甲子園交流試合では、尽誠学園(香川)に完敗やったんやけど、細川くんの最後の打席、笑顔で打席に立っていたのが印象的で。それまで名門校のキャプテンらしい、厳しい表情ばかり見てきたから。
いけだ それもテレビじゃないと見られない表情ですね。
かみじょう 細川くんのお父さんとはもともと観戦仲間やったから、現地で観戦していたお父さんに連絡したんや。細川くんの笑顔のことを伝えたら、お父さんは声を詰まらせて「そうでしたか。凌平には『最後はおまえが笑顔でプレーしてくれたらうれしい』と言っていたんです。約束を守ってくれたんですね」って。
いけだ キャプテンの重圧から解き放たれたんでしょうねぇ。いい話です。でも、やっぱり球場でしかわからないこともありますよね?
かみじょう そうそう。暑いし、しんどいんやけど、そんな死にそうなところで頑張っている選手を見ていると何も言えなくなる。アルプススタンドの熱気とか、その場にいるから伝わるものもある。やっぱり、体がうずうずしてくるんやな。
── コロナ禍のなか、お二人が注目していたチームはありましたか?
いけだ 僕は神奈川の立花学園です。すごく先進的な野球部で、新しいことを取り入れている野球部なんですよ。この時期にTCL(立花チャレンジリーグ)というチーム内リーグを立ち上げて、試合に出ない選手が実況・解説を務めたり、英語でヒーローインタビューをしたり。ほかにも練習中にドローンを飛ばして上から野球を見たりと、とにかく取り組みが面白い。2019年秋、2020年夏と神奈川県大会でベスト8と、結果も残し始めています。
かみじょう それは面白いなぁ。俺はすでに超有名なチームやけど、履正社に気になる選手がおって。高橋佑汰くんというピッチャー。いけちゃんとは7月に練習試合を一緒に見に行ったよな?
いけだ 彼がエースかと思いました。一番いいボールを投げていましたよね?
かみじょう そうなんよ。履正社は昨夏の甲子園優勝投手の岩崎峻典くんが大エースで、他にも内星龍くん(楽天ドラフト6位)、田上奏大くん(ソフトバンクドラフト5位)とすごいピッチャーがたくさんおって、高橋くんは6〜7番手くらいの投手やった。もしセンバツが開催されていたら、ベンチ外やったんやね。でも、コロナの自粛期間中に実家に帰って、「親にいいところを見せたい」と一流選手の動画を見まくって自分のフォームを見直したらしい。そうしたら、自粛明けに常時140キロを超えるボールを投げられるようになったんやて。
いけだ へぇ〜、それはすごい。大阪独自大会の大阪桐蔭戦では、すばらしいリリーフを見せましたもんね。
かみじょう 高橋くんの姿を見て、コロナでもあきらめずにやれる子が将来成功できるんやと思った。何もかも奪われっぱなしのはずやのに、むしろプラスに換えられるのはホンマすごいなと。
いけだ 本当ですね。僕は高校野球への期待は、イコール今の社会状況への期待になると思っています。コロナ禍が早く収まって、当たり前のように野球が見られることが理想ですけど、現実には感染者の数もなかなか減らないわけで。でも、なんとか希望を絶やさないためにも、この状況下で高校野球が開催できる最低限のラインを探していってもらいたいと思います。
かみじょう 俺たちファンはテレビ観戦でいいから、とにかく選手には試合をさせてやりたいな。大会ができるんやったら、それ以上は望みません。もちろん生観戦したいのが本音やけど、俺たちはいつも二人で行く公園で振り返りができればそれでいいよな?
いけだ あの公園ですね。いつもサッカー少年しかいないのが気になりますけど(笑)。
かみじょう 缶ビール1本持って、高校野球の話ができればそれでいい。
いけだ はい。まずは3月のセンバツが予定どおり開催されることを祈ります!
(後編/2021年センバツの見どころへつづく)
かみじょうたけし
1977年、兵庫県淡路島出身。松竹芸能所属のピン芸人として舞台・テレビで活躍。板東英二のモノマネなどレパートリーは多数。著書に『甲子園マル笑伝説!』がある。
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いけだてつや
1982年、熊本県出身。人力舎所属のピン芸人。『アメトーーク!』の「高校野球大好き芸人」に出演するなど、無類の高校野球好きとして有名。ボードゲーム、燻製料理にも造詣が深い。
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