あの高橋宏斗(中京大中京→中日ドラフト1位)と互角に投げ合った左腕──智弁学園のエース・西村王雅のことをそう記憶している高校野球ファンは多いだろう。 「そう言われることはたしかに多かったです。これからも言われることがあるか…

 あの高橋宏斗(中京大中京→中日ドラフト1位)と互角に投げ合った左腕──智弁学園のエース・西村王雅のことをそう記憶している高校野球ファンは多いだろう。

「そう言われることはたしかに多かったです。これからも言われることがあるかもしれませんが、自分の力に変えていくしかないと思っています」



昨年夏の甲子園交流試合で好投した智弁学園のエース・西村王雅

 1年だった一昨年夏は背番号11をつけ、八戸学院光星戦に3番手としてマウンドに上がった。171センチ、67キロと小柄だが、最速138キロのストレートを武器に強気のピッチングが身上で、1年秋から背番号1を背負う。

 出場するはずだった昨年春のセンバツ大会は新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止になったが、夏にセンバツ出場予定だった32校による交流試合が甲子園で開催。智弁学園は中京大中京と対戦することになった。

 最速154キロを誇る世代ナンバーワン投手の高橋と投げ合うことになった西村は、試合前から高揚感を抑えられなかった。

「高橋さんはとにかく球が速い。ああいうピッチャーと投げ合ったことがなく、とにかくすごいとしか思えなかったです。プルペンからずっと見ていました」

 試合が始まると、最初は一緒にプレーするのが最後となる3年生のためにすべてを出し切るつもりで投げていたが、「投げ合っていくうちに負けたくないという気持ちが強くなっていきました」と徐々にテンションが上がっていく。

 初回に4安打を浴びていきなり3点を奪われたが、その後はリズムを取り戻し、2回以降は強力打線をわずか3安打に封じた。チームは3対4とサヨナラ負けを喫したが、西村は高橋に負けず劣らずの快投を見せ、強烈なインパクトを残した。

「高橋さんは最終回でも球速が上がっていたし、勝負球が甘くならない。ただ、負けたことは悔しかったですが、バックを信頼してしっかり投げることができた。自分だけでなくチームとして得られることが多い試合でした」

 新チームとなり最上級生として初めての公式戦となった秋季奈良大会の郡山戦。初回、1点の援護をもらいマウンドに上がろうとしたが、雷雨に見舞われ中断。約1時間後に試合は再開されたが、コーナーを突くはずのボールが上ずり続けた。

「初戦の入りは大事だと思っていたんですけど、気持ちを入れすぎてしまいました。(中断で肩が)固まってしまったことも影響したのかもしれませんが、監督からは『気持ちだけは切らさないように』と言われていて、集中していたつもりなのですが......」

 先頭打者に四球を与えると、続けて連打を浴びた。相手のミスもあってなんとか0点に抑えたものの、その後も8回を除いては毎回ランナーを背負う苦しい投球が続いた。終わってみれば12安打を許し3失点。試合は5対3でなんとか勝利したが、「不甲斐ない投球だった」と、西村は反省の弁を口にした。

「中京大中京戦のピッチングはすごく自信になったんですけど、あの試合で満足したような気がします。自分の甘さが出てしまいました」

 かねてから課題だった四球の多さが目立ち、安定感を欠いた。近畿大会初戦の滋賀学園戦も、6回まで3安打2失点とまずまずのピッチングを見せていたが、7回に4四球を出すなど突如乱れ、一気に4点を奪われ逆転を許した。試合は9回に逆転サヨナラで勝利したが、県大会に続き初戦での不甲斐ないピッチングに、西村は肩を落とした。

 だが、小坂将商監督はエースの成長を感じ取っていた。

「今まではカウントが悪くなったら、『もう四球でいいや』って簡単にランナーを出していたんですけど、秋はそれが減っていました。マウンドで落ち着きが出てきたというか......。中京大中京との試合後から、意識が変わってきたように思います。全体練習が終わって、グラウンドで誰か走っているなって思ったら、西村だったということがよくあります。今までそんな姿は見たことがなかったですからね」

 試合でも、それまでは感情がすぐ出ていたが、近畿大会では指揮官が「大人のピッチング」と評する冷静なピッチングを披露。決勝の大阪桐蔭戦では、力勝負で向かっていっても太刀打ちできない相手だと判断し、「ストレートはしっかり振ってくるので、真ん中から高めを意識して、あえて打たせるようにしました」と狙いどおりのピッチングで強力打線を翻弄。9安打は許したが、27個のアウトのうち17個をフライアウトに仕留め、3失点完投勝利で近畿大会を制した。

 勝てるピッチングで近畿王者となったが、自己評価は厳しい。

「課題である集中力や気持ちのコントロールはまだまだです。それ以上に、この秋は初戦、初回の入り方の難しさを思い知らされました。ストレートの質を含め、すべてを変えていかないと......フォームも見直しながら、伸びやキレを意識して投げていきたいです」

 そしてこうも続けた。

「『あの試合(中京大中京戦)はよかったのに』って言われたくないんです。昨年秋は1試合を2点以内に抑えた試合がほとんどなくて、納得できる試合はありませんでした。勝てる投手が目標ですが、球質を上げていくなかでコントロールも磨いて、内容にもこだわっていきたいです」

 近畿大会優勝で今春開催されるセンバツ大会の出場は確実だ。ひと冬越えて、世代最強投手と投げ合ったあの舞台で、西村はどんなピッチングを見せてくれるのか。今から楽しみでならない。