冨安健洋は、いまやボローニャにとってなくてはならない存在だ。セリエAはここまで18節が終了しているが、冨安はそのすべて…
冨安健洋は、いまやボローニャにとってなくてはならない存在だ。セリエAはここまで18節が終了しているが、冨安はそのすべてに先発フル出場している。セリエAの20チームには現在574人の選手が在籍しているが、フィールドプレーヤーで全試合にフル出場しているのは冨安とベネベントのカミル・グリクだけである。
冨安がこれほど登用される理由は、彼がDFのジョリー(オールマイティーのカード)だからだ。左右両方のSBでプレーできる選手は多いが、CBも兼ねられる選手はそうはいない。
イタリア1年目の昨シーズンは右SBとして活躍し、高い評価を得た。だが昨年の夏、ボローニャはそのポジションに元イタリア代表ロレンツォ・デ・シルヴェストリを獲得。冨安は今季からCBとしてプレーできるようになった。彼本来のポジションであるだけに、昨季以上の活躍が期待された。
第2節のパルマ戦では、相手の決定機を体を張って阻み、イタリア各紙は彼に「7」(10点満点)という高い評価を与えた。次のベネベント戦でも、ほぼノーミスで最終ラインを固く守り、高評価を得た。

今季ここまで、すべての試合にフル出場を続けている冨安健洋(ボローニャ)
しかし、第4節のサッスオーロ戦では77分にオウンゴールで相手に勝ち越し点を与えてしまう。続くラツィオ戦は、前半こそ良かったものの、チーロ・インモービレのオーバーヘッドでボールを戻すプレーに翻弄されて守備が遅れ、イタリアのメディアからは「意外性のあるプレーへの対応が不得意」と評された。その後しばらくは安定した守りの試合が続いたが、第10節のインテル戦ではロメル・ルカクと競り合ってフィジカルで負け、倒されて振り切られてしまった。現地紙は「まるで相撲だ」などと酷評した。
第11節のローマ戦。冨安はいつものとおりCBとしてスタートしたが、サイドバックのイブラヒマ・エムバイェがケガで退場。後半から左サイドに移ると、左足でボールを蹴り上げ、敵の頭上を抜くDFらしからぬ繊細なプレーを披露した。この試合でボローニャは前半に5失点をして敗れたが、冨安のその見事なプレーは、スカイスポーツが「今日のファインプレー」のひとつに選び、セリエAの公式ツイッターにも動画が載せられた。
その後2試合は左SBで出場した後、第14節のアタランタ戦では久々に右SBとしてプレー。過去2年連続3位のアタランタ相手に、右サイドを40メートル疾走し、ワンツーのパスを受けると、今シーズンの初ゴールを決めた。ボローニャの公式インスタではそのゴールを祝い「トミーのゴールは何点?」というコメントとともにゴールシーンをアップ。ボローニャサポーターからは「やっぱりトミーは右がいい」「SBに戻ってほしい!」という声が寄せられた。
2021年最初のフィオレティーナ戦では、ガリー・メデルがケガをしたため、冨安はCBに戻った。後半になって右SBに移った。この試合の冨安は堅実な守りと、ビルドアップも見せて「6.5」の高い評価をもらっている。続くウディネーゼ戦ではシーズン2ゴール目をマーク。セットプレーからのヘッドでのゴールに、各紙はこぞってチーム最高点の「7」をつけた。この時も冨安のポジションは右SBであった。
CBとしての冨安も悪くはない。しかし右サイドほどいい結果を出せていないというのがここまでの多くの意見だった。今シーズン、右サイドでは数えるほどしかプレーしていないが、毎回ほぼすばらしいパフォーマンスをしていた。2つのゴールもこのポジションから生まれている。
「CBとしての冨安はおおむねいいプレーをしているが、ときどき軽率なミスがある」と『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙は評している。CBはミスがゴールに直結する。駆け引き、判断力、何が何でも止めてやるという強い気持ち、そしてフィジカルの強さも重要だ。
一方、冨安がCBで安定した力を出せない最大の要因は「マリーシアの欠如」だとシニシャ・ミハイロビッチ監督は指摘する。
「冨安はいい選手だ。彼の本来のポジションはCBだ。フィジカルも強いし、頭もいい。忠告すれば、すぐにそれを自分のものにする。ただ、どうしても狡猾さが足りない。それをイタリアで身につけることができれば、偉大なオールマイティーのDFになるだろう」
そして先週末の第18節ヴェローナ戦。両SBの選手がケガから復帰したため、冨安は再びCBに戻った。そして彼はこの試合で初めて、完璧なCBとしての働きをした。
それはデータからも読み取れる。12回の空中でのデュエルに8回、3回の地上でのデュエルに2回競り勝ち、インターセプト4回、クリア3回、シュートも1本放っている。彼がどれだけチームに貢献したかわかるだろう。イタリアの各メディアも彼を絶賛し、最高点「7」をつけた。
『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のマッテオ・デッラ・ヴィータ記者は「どんな危ないシーンでも、虎かドラゴンのような目をして対峙した。まさにミハイロビッチが望んでいたものだ」と書けば、『コリエーレ・ディ・ボローニャ』紙は「冨安、センターでも力を発揮」と銘打ち、「冨安がイタリアに来てからのベストマッチ」と称賛した。
スカイスポーツの解説をしていたミランのレジェンド、アレッサンドロ・コスタクルタにも、冨安は歓声を上げさせた
「敵より先んじるという点では、冨安はセリエAの中でもベストのひとりだ。彼がまだ22歳だということも忘れてはいけない。これからまだまだ成長を遂げていくだろう」
そして何より、ミハイロビッチ監督が彼のプレーを高く評価した。
「チームが力を合わせて勝利した時に、選手個人の話をするのはあまり好きではないが、今日のトミーはすばらしかった」
だが、闘将はこう釘をさすのも忘れない。
「ただあともうちょっと、日本人らしさを捨ててくれれば......」
ちなみにボローニャは、11月29日以来、勝利から遠ざかっていたが、この試合で8節ぶりに白星を手に入れた。現在順位は12位、このまま降格圏に近づかないでシーズンを終えることが目標である。
この後、ボローニャは、今週末の第19節ユベントス戦、来週末の第20節ミラン戦と、強豪との試合が続く。ユベントスは現在5位で1試合も落とせる状況ではない。必死で勝ちにくるだろう。ミランも首位を守るために全力でぶつかってくるはずだ。つまり、冨安にはクリスティアーノ・ロナウドとズラタン・イブラヒモビッチとの真剣勝負が待っている。もしここで彼らを相手にいいパフォーマンスができれば、冨安の評価は今まで以上に高くなるだろう。
ボローニャが600万ユーロ(約7億8000万円)で獲得した冨安の市場価格は、すでに2000万ユーロを下らないと言われている。多くのチームが彼をほしがっているが、ボローニャも大事なジョリーを簡単に手放す気はなく、2500万以下では売らない姿勢だ。
これまでローマ、ミラン、リバプールなどが興味を示してきたが、その価格の高さに破談となった。だが、最近ではユベントスが彼に興味を示しているという話もイタリアでは囁かれている。『スカイスポーツ』の記者マウリツィオ・コンパニョーニは「彼はビッグクラブのDFも十分に務まるだろう」と太鼓判を押している。