蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.79 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカ…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.79

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材しつづける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回は欧州チャンピオンズリーグ(CL)のラウンド16を展望します。

――今回は、お三方にCLのラウンド16を展望していただきたいと思います。バルセロナ(スペイン)対パリ・サンジェルマン(フランス)を筆頭に、今回も興味深い8カードになっていますが、それぞれの見どころを詳しくお願いします。



監督が交代したパル・サンジェルマン。今度はバルセロナに勝てるか

<因縁の対決となった、バルセロナ対パリ・サンジェルマン>

倉敷 では、試合日程の順に見ていきましょう。現地時間2月16日に予定されているバルセロナ対パリ・サンジェルマンからです。このカードにはバルサの大逆転劇など様々な歴史がありますから、また何か起こるかも? という面でも注目を集めますね。

中山 パリがカタール資本になって以降、カルロ・アンチェロッティ監督(イタリア)時代(2012-13)とローラン・ブラン監督(フランス)時代(2014-15)に準々決勝でバルサに敗れた歴史もありますが、やはり何と言ってもウナイ・エメリ監督(スペイン)初年度にあたる2016-17シーズンのラウンド16でしょうね。パリがホームでの第1戦に4-0で勝利したあと、第2戦はカンプ・ノウで1-6という奇跡的スコアで大逆転負けした一戦です。

 あの試合でパリは世界中に恥をさらし、ナセル・アル・ケライフィ会長のプライドもズタズタにされました。翌シーズンに法外なマネーを投資してネイマール(ブラジル)とキリアン・エムバペ(フランス)をダブルで強奪したのも、あの1試合が引き金になったわけですから。アル・ケライフィのこの一戦にかける執念は、凄まじいものがあると思います。

倉敷 パリは、年末に驚きの監督交代劇がありました。フロントは突然トーマス・トゥヘル監督(ドイツ)を解任し、クラブOBでもあるマウリシオ・ポチェッティーノ(アルゼンチン)を招へいしましたが、一体何が起こったのでしょう?

中山 トゥヘルとレオナルドSD(スポーツディレクター)の間にある確執は以前から報道されていましたが、個人的にはこの件もアル・ケライフィのプライドと執念が多分に影響していると見ています。そもそもこのクラブの重大事項の決定権はアル・ケライフィにあって、監督人事、ネイマールやエムバペなどクラブの顔となる選手のことは、すべて会長自身が取り仕切っています。だから、これまでの積み重ねによる評価が下されたというのは表面的な理由であって、レオナルドの問題も一部分でしかないと思います。

 そういう視点で今回の解任劇を見てみると、まず国内でリヨンに敗れてリールに引き分け、リーグを首位で折り返せなかったことをアル・ケライフィは許容できなかった。確かにコロナ陽性者や故障者が続出した影響は否めませんが、それにしても紙一重で首位通過を果たしたCLのグループステージも含めて、前半戦の内容が悪すぎました。それが、会長のプライドを傷つけた部分。そして執念の部分では、ラウンド16の対戦相手が因縁のバルサに決まったことが、トリガーを引くきっかけになったのではないでしょうか。バルサ相手に4度も負けるわけにはいかない。そう考えると、今季のトゥヘルのマネジメントでは安心できず、ここで大ナタを振るってチーム全体に喝を入れる必要があると考えたとしても、不思議ではありません。

 ただ、個人的には昨季国内3冠とCL準優勝を果たしたトゥヘルにもう一度チャンスを与えてほしかったのが正直なところです。彼は指導者としてもパリで成長したと思いますし、何よりネイマールを中心にチームがファミリーのような集団になったことが最大の功績だと思います。トゥヘルの緻密な戦術をネイマールが受け入れているのも、すべてはその良好な関係があってこそ。今回の決定にネイマールが失望したという話も、決して嘘ではないと思います。

倉敷 ポチェッティーノはいかにネイマールと良好な関係を築くのか? 小澤さんは、ポチェッティーノ監督をどう評価していますか?

小澤 エスパニョール(スペイン)の監督時代から、とくに攻撃はタレントを気持ちよくプレーさせるマネジメント型タイプの監督でした。そういう意味でもネイマールのようなスター選手には合っている監督だと思いますし、パリというクラブにもフィットすると思います。

倉敷 中山さん、ポチェッティーノ就任によって、パリは冬の移籍マーケットでどのような動きをすると予想しますか?

中山 さっそくトッテナム(イングランド)のデレ・アリ(イングランド)や、インテル(イタリア)で出番がないクリスティアン・エリクセン(デンマーク)らの名前が挙がっていますが、実際のところ、さすがのパリも現在は資金不足が否めません。ほかのビッグクラブ同様、コロナの影響で大幅な減収を強いられていますし、そんななかでリーグ・アンの国内放送権を所有していたメディアプロ社がシーズン中に撤退する事件も起きました。これによりリーグ・アンの各クラブの収入が大幅に減少することが決定的となり、しかも思うような価格で選手を売却できない現状を考えると、今冬は動けないのが実情です。仮にパリが補強するとしたら、懸案となっているチアゴ・シウバ(ブラジル/現チェルシー)の抜けた右センターバック(CB)の新戦力をピンポイント補強するのが最優先でしょう。

倉敷 バルセロナの現状は小澤さんにうかがいましょう。

小澤 2月にどのような状況になっているかによりますが、序盤と比べると第19節のレアル・ソシエダ戦(2020年12月16日)あたりから復調の兆しが見え始めた印象はあります。やはりバルサの場合、リオネル・メッシ(アルゼンチン)がやる気を出して、ある程度守備でも仕事をしてくれると全体の計算ができますしね。ロナルド・クーマン監督(オランダ)も基本的にはメッシに依存するかたちでチームづくりを進めていて、それを前提にしながら開幕から4-2-3-1を固定していました。

 当初クーマンは、前線の脇役をどのように固めるかという部分で苦労していましたが、ペドリ(スペイン)がトップ下、右にアントワーヌ・グリーズマン(フランス)、左は復帰したウスマン・デンベレ(フランス)で落ち着いてきたように見えます。さらに、1トップにマルティン・ブライスワイト(デンマーク)を置いて、彼が左サイドに流れてハードワークするかたちも生まれ、そこから最近は3バックや4-3-3を使うようにも変化してきました。今季最大の発見であるペドリ(スペイン)は、完全にメッシのパートナーとしてグリーズマン、コウチーニョ以上の存在に成長しました。

 ただ個人的には、最大のポイントになるのはフレンキー・デ・ヨング(オランダ)だと見ています。彼は動けて、さばけて、ドリブルでも持ち運べる。ここにきてエリア内への進入、ゴールも増えてきました。そうした点からも、今のバルセロナの中心にすべき選手です。守備時は彼があがって4-1-4-1にシフトしてハイプレスもできますし、もともとポテンシャルは高い選手なので、彼を中心に戦術を構築することができれば、当然パリに対しても引けを取らない戦いができると思います。それと、バルサはジェラール・ピケ(スペイン)とアンス・ファティ(スペイン)という重要戦力がパリ戦に間に合わないかもしれないので、そこが心配の種ですね。

倉敷 バルサは、とてもとても重要な会長選挙を行ないますね。

小澤 私はジョアン・ラポルタとビクトル・フォントが有力だと見ていて、メディアではラポルタが最有力ですが、個人的にはビクトル・フォントになるのではないかという予想を持っています。フォントは明確に「次期監督はシャビ(・エルナンデス)にする」と言っているのですが、ラポルタは現在の財政状況も踏まえて「この選手を取ります、この監督にします」と宣言しない方針で選挙に臨んでいます。メディアを含めた影響力や人気ではラポルタが圧倒している印象ですが、新型コロナウイルスの影響で当初予定されていた1月24日の会長選挙が3月7日に延期されました。これが各候補者の選挙戦にどう影響するか。現状での最大の争点はメッシの去就になっていますが、選挙までにチームの成績やメッシの状態が悪化しているようなら当然「メッシなきバルサ」が争点になると見ています。

<監督対決が楽しみな、ライプツィヒ対リバプール>

倉敷 次は同日に予定されているライプツィヒ(ドイツ)対リバプール(イングランド)を展望します。ラップトップ世代のユリアン・ナーゲルスマン監督(ドイツ)と、そのひとつ前の世代でありながら現在もトレンドと言えるユルゲン・クロップ監督(ドイツ)の対決です。こちらも見どころが多いですね。

小澤 監督対決の楽しみという部分では、ラウンド16のなかで一番のカードだと思います。そのなかで、とくにライプツィヒがリバプールに対して、戦術的にどのようにハメるのか楽しみですね。もちろん現在のライプツィヒはボールを握ることもできますし、たとえばグループステージのマンチェスター・ユナイテッド戦でも、相手を分析しながらボールの運びどころや狙いどころをナーゲルスマンが用意して、論理的なサッカーができていました。ただ何となく行なうプレッシングではないのがライプツィヒの特徴でもあるので、リバプールにも臆することなく戦えるチームになっていると思います。

 強いて不安材料を挙げれば、前線の駒が定まらない部分でしょうか。エミル・フォシュベリ(スウェーデン)やユスフ・ポウルセン(デンマーク)は決定力も含めてナーゲルスマンにそこまで信頼されておらず、だからこそダニ・オルモ(スペイン)がトップに置かれているのだと思うので、そこが弱点と言えます。ビッグゲームになった時に頼れるエースがいないのは、どうしてもマイナス材料になってしまいます。

倉敷 中山さんはどこに注目していますか。

中山 両チームの力関係から見ると、順当に行けば当然リバプール優位になるのですが、現在のリバプールの状態のままであれば、接戦もしくはライプツィヒが勝つ可能性もあると思います。つまり、主力の故障者続出がストップして、いかにして彼らが完全な状態で復帰できるかがリバプール最大のカギとなるでしょう。さすがにフレッシュな状態でこの試合に臨むとすれば、リバプールには手がつけられないような強さがありますから。ただ、現在の戦力状況では、どうしてもディフェンスに隙が生まれてしまいます。

倉敷 とくにCBの駒がいませんね。大黒柱のフィルジル・ファン・ダイク(オランダ)に加え、ジョー・ゴメス(イングランド)やジョエル・マティプ(カメルーン)らも離脱中です。

中山 ええ、復帰したファビーニョ(ブラジル)、若いリース・ウィリアムズ(イングランド)、最近ではジョーダン・ヘンダーソン(イングランド)もCBでプレーしていますが、CLの決勝トーナメントとなると一瞬の隙やひとつのミスで試合を落としてしまうので、そこが最大の不安材料になります。とはいえ、さすがに現在の状態のままこの試合を迎えるとは思えないので、現在離脱している選手たちが戻ってくれば心配はないでしょう。そもそもこれだけ負傷者が続出しながら、プレミアで首位争いを演じていること自体がリバプールの強さを物語っています。戦力さえ揃えば、今シーズンもバイエルン(ドイツ)と並ぶ優勝候補だと思います。

<ピルロ監督の采配に注目。ポルト対ユベントス>

倉敷 つづいて、2月17日のポルト(ポルトガル)対ユベントス(イタリア)の話題に移りましょう。戦前の予想では圧倒的にユーベ有利と言われていますが、おふたりはどう予想しますか?

小澤 やはりユベントスが勝ち抜けると思います。監督の采配、選手層、選手の質で言ってもユベントスに軍配が上がりますし、今シーズンのポルトはそこまで攻守において安定していません。守備でもペペ(ポルトガル)にまだまだ依存していて穴も多いですし、アレックス・テレス(ブラジル/現マンチェスター・ユナイテッド)、ダニーロ・ペレイラ(ポルトガル/現パリ・サンジェルマン)が抜けた穴も埋められていません。もともと昨シーズンから右サイドバックがいないので、サイドを突かれた時に弱い。可能性はゼロではありませんが、2試合180分の戦いで勝ち切るのは相当難しいでしょう。

中山 僕も、この試合に関してはユベントスが勝利する確率が高いと思います。ただし、アンドレア・ピルロ監督(イタリア)になった今シーズンは、以前のように強固な守備という武器があるわけではないので、ベスト8以降が正念場でしょう。ピルロはこれまで3バックをベースにしながら、4バックをオプションにしてチームづくりを進めていますが、まだ決め手となる解決策を見つけられていませんし、実際、国内リーグでも苦戦していて、セリエA9連覇でストップしてしまう可能性も十分にあります。ピルロはクラブのレジェンドでもあり、監督就任の経緯もレジェンド枠的な要素もあったのでフロントも今シーズンの結果だけで判断はしないでしょうが、CLでの采配ぶりが今後の判断材料になることは間違いないでしょう。

小澤 倉敷さん、元アヤックス(オランダ)のマタイス・デ・リフト(オランダ)についてはどのように評価していますか?

倉敷 今季のユーベはクリーンシートが少ない。複数失点も殆どしませんが、再び優勝候補となるには、最終ラインとゴールキーパーが以前のような強さを取り戻した時ではないかと思います。前線にはクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)というスペシャルなアタッカーがいるわけですから、とにかくディフェンス。デ・リフトはソリッドな守備の中心になって欲しいと期待されていますが、アヤックス時代から長足の進歩は遂げていない印象です。この決勝トーナメントでどこまでやれるか見てみたいですね。

 次に、セビージャ(スペイン)対ドルトムント(ドイツ)です。この対戦についてはどのように見ていますか?

<若い選手の対決に期待。セビージャ対ドルトムント>

小澤 私は互角だと見ています。セビージャは、今シーズンのフレン・ロペテギ監督(スペイン)の戦い方、選手の使い方を見ると、スタメンとそれ以外の選手の実力差が相当に開いています。とくに守備陣のジュール・クンデ(フランス)、ジエゴ・カルロス(ブラジル)、フェルナンド(ブラジル)、ヘスス・ナバス(スペイン)、攻撃陣ではルーカス・オカンポス(アルゼンチン)を欠いた場合は、チーム力がぐっと落ちてしまいます。ですから、ベストの布陣で臨めるかどうかがセビージャにとってのカギになるでしょう。

中山 予想が難しいカードですが、アーリング・ハーランド(ノルウェー)もケガから復帰したので、ドルトムント優勢と見ています。ただ、チーム全体として、エディン・テルジッチ新監督(ドイツ)に変わってどのように変化するかという部分がまだはっきりしないので、現時点ではそれほどの差はないと思います。おそらく外部から新監督を招へいせず、内部から暫定的に昇格させた背景には財政的な問題も関係しているとは思いますが、それによって「今シーズンはそんなに上を目指さなくてもいい」みたいな空気が選手に伝わってしまうと、監督交代がネガティブに向かってしまうかもしれません。

倉敷 シーズン途中にアシスタントコーチから監督になったテルジッチが、バイエルン(ドイツ)のハンス=ディッター・フリック監督(ドイツ)のようになれるかと言うと、そうはならない気がします。フロントが行なった人事は、勝つための交代というよりも内部の事情が理由ではないかと想像してしまいますね。ただライプツィヒとのアウェーゲームに勝ったことで、変化が現れるかもしれない。ドルトムントがどのように仕上げてくるのかとても興味深いですね。

中山 最低限、近年のドルトムントのよいイメージだけは残してほしいですよね。このチームにはハーランド以外にも、ジェイドン・サンチョ(イングランド)、ジョバンニ・レイナ(アメリカ)、それと話題のユスファ・ムココ(ドイツ)など、伸び盛りの選手が多いので、試合を見るのが楽しみなチームのひとつですし。今回の試合も、とくにセビージャのCBクンデとハーランドのマッチアップを楽しみにしています。クンデにとってはすごくいい経験になると思うので、これをフランスU-21代表からA代表にステップアップするきっかけにしてほしいとも思っています。

倉敷 今回は2月16日、17日に予定されている4カードを紹介しました。次回は残る4カードについて詳しく見ていきます。