NCAAディビジョンIのロバート・モリス大(以下RMU)でのコーチング実務はどんなものか。日米の違いは? 森田麻文Aコーチにさらに質問を投げかけた。 取材・文/柴田 健(月バス.com) 写真/RMU WBB   森田Aコーチは…

NCAAディビジョンIのロバート・モリス大(以下RMU)でのコーチング実務はどんなものか。日米の違いは? 森田麻文Aコーチにさらに質問を投げかけた。
取材・文/柴田 健(月バス.com) 写真/RMU WBB

 

森田Aコーチは国外からの留学希望者の勧誘を担当している


「鍛えられて、鍛えられて」 – RMUでの貴重な体験


――一口に渡米してコーチングと言っても、言葉の壁もありますし、誰にでもできることではないですよね。
森田 私、英語が大っ嫌いだったんですよ、高校の頃(笑) すごく特別に成績が悪かったのかと言われればそうではなかったかもしれないけれど、別に好きだったのではありません。大学(関西大学)に入って、アメリカに行きたいなと思ったときから勉強するようになって。でも、いざアメリカに来るとなった時点では、日常会話はできるけど授業に出ても何を言っているのかまったくわからない状態でした。その後何度か日本と行ったり来たりする中で、本当に英語力が伸びたのはRMUに来てからです。
 最初の2年ぐらいですね。単なる日常会話ではなく英語でコーチングするとなると、言い方とか自分のプレゼンテーションとかの能力が必要になりました。選手が私の言っていることを聞いて信じられなければいけません。言葉プラス表現のしかたや立ち振る舞いなどが良くなったのは、ここ(RMU)に来てからですね。鍛えられて、鍛えられて…。実際、放り込まれて「さぁ、やってこい」みたいな感じだったので、失敗もたくさんしましたけど、それが良かったのかなと思います。
 ヘッドコーチ(チャーリー・ブスカイア)がスパルタなところがあるので、それが良かったと思います。私がパッと出ていって話しても発音がおかしいとか、新米のアシスタントがスカウティングのプレゼンテーションをしてもベテランと比べたら説得力がない…みたいなことを経験しました。でも、そこで「もうやめておけ」とはならずにつきあってくれたので、今思い返すとありがたかったですね。そのときはへこんだり、苦しかったですよ。言っていることが伝わらないというのもありますし。でも、あれがなかったら今のようになれたかはわかりません。
――プロ対象と学生対象でコーチングにどんな違いがありますか?
森田 プロというのは自分の能力に対してサラリーがあって、パフォーマンスを期待されています。bjリーグの頃は、若い選手の様子は必ずしもNBAのようなプロではなかったですが、外国籍選手などはチームに来た時点で「ここを変えて、そこを変えて…」というようにその選手をよくしようという考えではなく、「こういう必要性に応じてこういう選手を獲ってきて、こういうロスターを作る」という感じです。育成よりも戦術ありきで選手を集めてチームを組み立てます。対して大学のコーチングは、選手をリクルートしてきて4年間で育てるというのが大きな違いだと思います。スキル・ディヴェロップメントを早い段階からしっかりやります。1年間でというよりは先を考えた練習やスキル・ディヴェロップメントをやっていきますね。
 バスケットボール自体の比較としては、身体能力が違いますし、男子と女子でもできることとできないことがそれぞれにあります。アメリカの女子は日本に比べてフィジカルですね。ただ、ほかにそれほどの違いがあるかと言われればそうでもないかもしれません。
――アシスタントの職務はどんなものなのでしょう?
森田 いろんな仕事がありますが、特にリクルーティングに関して言うと担当するコーチが3人いて、私はアメリカ国内にはノータッチで国外を担当しています。ウチのロスターには外国から来た学生がたくさんいますが、彼女たちは基本的に私のリクルートで入った選手たちです。
 日本のインターハイやウインターカップも見ますし、いい選手がいたら声をかけたいと思っていますが、タイミングが難しいですね。アメリカでの学期が9月から5月で、日本は4月から3月。日本の選手たちが進学を決めたりするタイミングと、我々のリクルーティングのサイクルが違うんです。

 

ワンハンド・ショットと日米のバスケットボールの違い

 

――池松選手を迎え入れるときに、彼女がワンハンド・ショットを身につけていたことが一つのポイントだったそうですね。
森田 私は、ワンハンドかツーハンドというだけで(プレーヤーの良し悪しを)一概には言いきれなとは思います。それよりもリリースポイントがどこかということが大事で、日本の女子でもツーハンドで高い位置から打つ選手もいますし。ただ、スキルセットを考えると、ワンハンドの方がいいんだろうなと思います。ステップバックをするときであったり、右にいって左にいってという軸の動きを考えたときに、「ツーハンドだとできない」わけではないけれど…という感覚はどうしてもあると思います。
 例えばツーハンドで打っている日本の高校生がスリーの入る選手であれば、アメリカの大学に来てからワンハンドに直そうという話には、たぶんならないと思うんです。入らなければ「どうしようか…?」となるでしょうけど。でも、日本の高校生の試合を見ていて思うのは、リリースポイントがどうしても低くなる選手が9割からほとんど100%に近いくらいいて、ブロックされるな…と。リクルーティングする側からすると、例えばワンハンドのほのかの場合だったらこのくらいのスペース(肩幅ほどの長さを両手で示しながら)でも打てるけど、(リリースポイントの低い)ツーハンドの子がブロックされずに打とうとするとこのくらい(先ほどの倍程度を示しながら)必要になってくる(取材画像参照)。となると、“狭いワイドオープン”を作る方が簡単なので。ツーハンドがダメというわけではないけど工夫が必要になりますよね。距離を伸ばしたりとか。
 コーチBが「ワンハンドだったか?」と聞いてきたのは、リリースポイントから考えたときのことを気にしていたからでしょう。ほのかはそこそこクイックでも打てるので、身長は低いですがちょっと間をあけてあげれば打てるというのはありますね。
――こういった部分を変えていこうとするにはどうすべきだと思いますか?
森田 根本的なところを変えようと思うと、下から変えていかなきゃいけないでしょうね。日本の女子バスケットボール界はトップの選手、できあがった選手に素晴らしい選手がたくさんいますから、その段階でこれから両手を片手に変える必要があるかと言うと、必要ない気がします。ワンハンドとツーハンドはとても明確でわかりやすく、日本と海外を比べた場合のたくさんある相違点の一つだと思うので、育成段階から変えていった方がいいこと、残した方がいいところを見分けながら取り組んで…難しいですよね。(パート3に続く)

☆パート1を読む

取材画像(1)池松ほのかならこのくらいのオープンでスリーを打てるが…

取材画像(2)ツーハンドでリリースポイントが低い場合だとこのくらい…

 

(月刊バスケットボール)