元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説 ~2021年一月場所編 元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、1月10日から両国国技館で開催されている大相撲一月場所の行方について占っ…

元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説
~2021年一月場所編

元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、1月10日から両国国技館で開催されている大相撲一月場所の行方について占ってもらった――。

 東京都を含めた首都圏で緊急事態宣言が再発令されるなか、大相撲一月場所が1月10日から始まりました。

 コロナ禍において、私たち相撲協会員は徹底した感染拡大防止策を施して本場所開催を目指してきました。しかし場所前に全協会員がPCR検査を受けた結果、数名に陽性反応が出て、濃厚接触の可能性がある力士らが部屋単位で休場することになってしまいました。それは非常に残念なことですが、場所がスタートした今、場所に関わる全員でこの難局を乗り越えていきたいと思っています。



「綱取り」が期待された貴景勝だったが...

 さて、今場所最大の見どころは、大関・貴景勝の「綱取り」です。

 昨年の11月場所で大関昇進後初の優勝(通算2回目)を飾って、初めての綱取りに挑む貴景勝。場所前に行なわれた合同稽古では意欲的に稽古に取り組んで、本人も「(横綱昇進を)一発で決めたい」と話していました。その様子から、万全の状態で本場所を迎えられたのではないか、と思っていました。

 ところが、初日の小結・御嶽海戦で黒星。いきなり出鼻をくじかれてしまいました。敗因は、押し合いの攻防に我慢できなかった貴景勝が御嶽海を自分から引いてしまったこと。我慢比べに負けるという、あまりいい負け方ではありませんでした。さらに2日目も、前頭筆頭の大栄翔に敗れて2連敗。4日目を終えて、いまだ白星がありません。

 先場所に引き続き、今場所も白鵬、鶴竜の両横綱が休場。横綱との対戦がないことで昇進基準は厳しくなると考えられます。そういう意味では、綱取りに"黄信号"が灯ったと言えるのではないでしょうか。

 一方、大関復帰を目指している関脇・照ノ富士は初日、琴勝峰と対戦して押し倒しで白星を飾りました。相手は勢いのある若手で、どういう相撲を取ってくるかわからないゆえ、普通は"迷い"が出るものですが、稽古十分という自信があったのでしょう。迷わずに前に出ていって、それが功を奏しました。4日目が終わって2勝2敗ですが、これから巻き返していくでしょう。

 元大関の照ノ富士。ヒザの負傷や内臓疾患などの影響で、一時は序二段まで番付を下げました。その際は、「引退させてください」と師匠(伊勢ヶ濱親方=元横綱・旭富士)に申し出たそうですね。

 それでも、師匠に説得されて、現役を続行。そこから不屈の精神で這い上がってきた力士です。こういう"地獄を見た力士"というのは、"ここぞ"という場面で力を発揮します。昨年七月場所での幕尻優勝において、それが見て取れましたよね。

 そもそも照ノ富士は、相手と胸が合えば強い。ヒザの大ケガによって、押し込まれたら残れないという欠点がありますが、先場所でも貴景勝と優勝争いを演じて、優勝決定戦まで駒を進めました。前に出る相撲を取り続けることができれば今場所、3回目の優勝もあり得るでしょう。個人的には、優勝候補筆頭だと思っています。

 照ノ富士に続く候補としては、大関・正代を挙げたいですね。新大関となった先場所は足首の負傷で途中休場となってしまいましたが、今場所ではケガの影響を感じさせない相撲を見せています。

 その他、相撲の勢いが復活した感のある実力者、御嶽海も面白い存在。また、先に「黄信号......」とは言ったものの、貴景勝にも彼らに食らいついて、場所を盛り上げていってほしいです。

 ところで、照ノ富士と初日に対戦した琴勝峰ですが、これまでも何度か名前を挙げてきた「期待の若手」のひとりです。今場所は前頭3枚目。上位陣と総当たりする地位なので、どの程度通用するのか、楽しみです。

 ただ、いい相撲を取る時と、あっけなく敗れてしまう相撲を取る時との差がはっきりしています。現状では、その辺りが課題となります。また、内股っぽいので、相手の力をまともに受けないように注意すべきでしょう。こうしたタイプの力士は、下がってしまうとヒザを負傷しやすいですからね。そうならないためにも、前に出る圧力を意識して相撲を取ってほしいです。

 何はともあれ、21歳の琴勝峰は身長191㎝、体重156㎏と、力士として均整が取れている体躯が魅力。柔軟性があって、まだまだ大きくなりそう。伸びしろもあり、1年後ぐらいにはとんでもない力士になっているかもしれませんよ。

 若手ではありませんが、今場所で注目している力士がもうひとりいます。先場所、幕尻ながら優勝争いに加わって、場所を盛り上げた志摩ノ海(前頭10枚目)です。

 近大から木瀬部屋に入門して、順調に番付を上げていたのですが、2013年の名古屋場所(7月場所)で、十両目前にしてヒザを大ケガ。1年近くの休場を余儀なくされました。

 その後、序ノ口から再出発。コツコツと努力を重ねてきた力士です。そして2019年夏場所(5月場所)、29歳にして待望の新入幕を果たしました。以降も努力を怠ることなく、黙々と稽古に励んでいる姿には好感が持てます。志摩ノ海もおそらく、ヒザの大ケガから復活した照ノ富士の活躍に刺激を受けているのではないでしょうか。

 ケガで苦しんでいる力士はたくさんいます。照ノ富士はもちろん、志摩ノ海の存在も、そんな力士たちの励みになっているはずです。



photo by Kai Keijiro

錣山(しころやま)親方
元関脇・寺尾。1963年2月2日生まれ。鹿児島県出身。現役時代は得意の突っ張りなどで活躍。相撲界屈指の甘いマスクと引き締まった筋肉質の体つきで、女性ファンからの人気も高かった。2002年9月場所限りで引退。引退後は年寄・錣山を襲名し、井筒部屋の部屋付き親方を経て、2004年1月に錣山部屋を創設した。現在は後進の育成に日々力を注いでいる。