関西勢36大会ぶりVの価値、指揮官「関西のチームでも努力次第で日本一になれる」 全国大学ラグビー選手権決勝が11日、東京・国立競技場で行われ、早大に55-28で勝利を収めた天理大が初優勝を飾った。計8トライを奪い、決勝では歴代最多得点。19…

関西勢36大会ぶりVの価値、指揮官「関西のチームでも努力次第で日本一になれる」

 全国大学ラグビー選手権決勝が11日、東京・国立競技場で行われ、早大に55-28で勝利を収めた天理大が初優勝を飾った。計8トライを奪い、決勝では歴代最多得点。1925年の創部以来2011、18年度に続く3度目の決勝で、1984年度に3連覇した同志社大以来となる関西勢36大会ぶりの日本一となった。コロナ禍で成し遂げた悲願の初優勝には、危機からの“立ち上がり方”が表れていた。

 王者の防御を何度も切り裂いた。天理大は開始早々からフォワードの強さを生かして前進。前半3分、敵陣インゴール直前の右中央ラックから右に展開し、最後はCTB市川敬太(4年)がトライを決めた。フォワードがコンタクト勝負で競り勝ち、生まれたスペースに市川が走り込む。前半31、40分にもトライを奪うと、36-14の後半18分にもダメ押し。身長173センチの小兵が見せるスピードに、国立のスタンドは思わずどよめいた。

 決勝で一人4トライ。コロナ禍で“沸いてはいけない”観客を沸かせてみせた。「コロナで厳しい時もいろいろな方に支えてもらった。苦しくて逃げたい時も、応援してくれた人のためになりたいという気持ちになれました」と優勝までの道のりを振り返った。

 チームは8月に新型コロナに集団感染。次から次へと陽性者が出た。隔離で寮からも出られない。夏合宿もできず、練習を再開したのは9月。激動の1か月には中傷を受けることもあった。そんな部員の救いになったのは、天理市民や他の部からの支えだ。応援メッセージや元気づける動画が多数届いた。「日本一にならないといけない」。部員168人の結束力は、逆境でさらに固くなった。

 例年、関東のチームとの練習試合で実戦を積むが、今年度は思うようにいかず。それでも、11月の関西リーグで全勝優勝するなど、公式戦で修正力を磨いてきた。関西のライバル・同志社大は12月上旬に陽性者が出たため、今大会は出場辞退。天理大の優勝は関西勢にとってなおさら大きな意味を持つ。

主将「部員が本当に我慢した」、4トライ市川「一つの目標がチームを一つにした」

 故・平尾誠二氏を擁した同志社大以来となる関西勢36大会ぶりの日本一。天理高OBの小松監督は留学を経て同志社大に入学した。平尾氏と年齢は同じだが、3学年下の後輩として関西勢最後の優勝を経験。自身が4年時は決勝で早大に敗北した。運命のような巡り合わせで最多16度の優勝を誇る王者を撃破。初優勝の壁に何度も跳ね返されてきた指揮官は、“36大会ぶりの価値”についてこう明かす。

「関西のチームが同志社から勝っていない。決勝に行ったのも同志社と天理だけ。関西で同志社に次いで2校目になりたいという思いはずっとありました。今まで決勝まで行って勝てていないチームが、筑波大さん、東海大さん、それと天理大。まず天理大はそこにたどり着きたいと常々思っていました。

 ただ、大学ラグビーの伝統校は強くて、昔から同じようなところ。たくさんの大学が優勝できていない。そこに仲間入りすることは非常に敷居が高いという思いを持ちながら、過去2回悔しい思いをしてきました。そこを乗り越えて関西で同志社に次ぐ2校目になれたことは嬉しいです。

 関西のチームでもまた優勝できるんだと。我々がこうやって勝つことで励みになる。関西のチームでも、努力次第では日本一になれることを関西の学生たちみんなにわかってもらえたら。そうすれば、関西リーグの全体的なレベルが上がっていくのではないかと期待しています」

 花園で活躍した選手が関東の伝統校に進むことが多い。会見場で指揮官の隣に座る主将のFL松岡大和は「関西でも関東に負けじと食らいついていけばチャンスはあるぞと。関西のラグビー選手に勇気を与えられたかなと思います」と続いた。兵庫・甲南高出身の自分だけでなく、大阪・日新高出身の市川など花園出場経験のない部員が多い。そんな中でエリート軍団の王者に競り勝った。

 コロナ禍のシーズンを戦い抜いた小松節夫監督は「我々だけでは到底乗り越えられなかった。本当に大学、天理市民の皆様のおかげで戦うことができた」と感謝。主将も試合直後の場内インタビューで「この1年間いろいろあったけど、部員が本当に我慢した。支えが合って今がある。メンバー外のみんな、応援してくださった方々、本当にありがとうございました!」と涙を流して絶叫した。

 市川は言う。「一つの目標を持つことがチームを一つにした」。コロナ禍で屈することなく、多くの支えを受けながら立ち上がる姿を見せた。さらに関西の“叩き上げ”でも勝てることを証明。大きな意味を持つ日本一だった。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)