「魔球」という言葉には、人の心をつかんで離さない魅力がある。現代野球では「ピッチトンネル」という言葉が流行し、変化量の大…
「魔球」という言葉には、人の心をつかんで離さない魅力がある。現代野球では「ピッチトンネル」という言葉が流行し、変化量の大きなボールは「打者に見極められやすい」と敬遠される傾向にある。そんな風潮があっても、プロ球界には人間業とは思えないほど大きく曲がる変化球を投げる投手が存在する。32年間の現役生活でスクリューボールを武器に219勝を挙げた"球界のレジェンド"山本昌氏(元中日)に、現代プロ野球の「魔球」の使い手5投手を選んでもらった。

昨シーズン、最多勝、最優秀防御率、最多奪三振のタイトルを獲得した千賀滉大
■千賀滉大(ソフトバンク)のフォーク
まずは千賀投手の「お化けフォーク」を挙げないわけにはいかないでしょう。
彼のフォークの特徴は、揺れて落ちること。無回転に近いので空気抵抗を受けて落下するのです。フォームを見てもボールをリリースする右手が上から出てくるので、自然と落ちやすい投げ方になっています。
何よりもすばらしいのは、これだけ変化量が大きくコントロールが難しい球なのに、ストライクゾーンとボールゾーンに投げ分けていること。低めに投げれば大きく落ち、高めに投げれば落差が小さくなる。フォークの性質を理解して投げているのでしょう。このコントロールはすばらしいです。
千賀投手はストレートの平均球速が153キロだそうですが、ここへお化けフォークが加わるのですから、打たれないのもうなずけます。さらに近年はカットボールも有効に使って、バッターに的を絞らせないようにしています。
世界中を探しても、これほどのフォークの使い手はそういません。私のなかで歴代最高のフォークの使い手は大魔神・佐々木主浩くん(元横浜ほか)だと思っているのですが、千賀投手のフォークは佐々木くんに匹敵します。

昨季、自身初の沢村賞に輝いた中日の大野雄大
■大野雄大(中日)のツーシーム
私にとっては中日の後輩である、大野投手のツーシームもすばらしい魔球です。
プロ球界にはいろんな種類のツーシームを投げる投手がいます。たとえば黒田博樹くん(元広島ほか)が投げていた、シュート系の変化をするツーシームもあります。大野投手のツーシームはフォークに近く、落差が大きいのが特徴です。
フォークと違うのは、シュート回転が少し強めにかかっているところ。右打者の真ん中からインコースには落ちてこず、アウトコースに逃げるように落ちていきます。つまり、甘いコースに入ってこないのです。
大野投手と対戦したバッターに聞くと、「途中まで真っすぐに見えるんです」と言っていました。一般的なフォークと違って回転がある分、ストレートと見分けがつきにくいのでしょうね。
2018年は未勝利に終わりましたが、当時はカットボールを覚えてツーシームと併用した結果、キレが失われたように見えました。2019年からカットボールを捨てて球種を絞った結果、ツーシームが頼れるボールになりました。
2020年はさらにツーシームを落とすコツをつかみ、2年連続での最優秀防御率のタイトル獲得につながりました。

昨シーズン10勝を挙げ、セ・リーグ新人王に輝いた広島・森下暢仁
■森下暢仁(広島)のカーブ
今季セ・リーグ新人王に輝いた森下投手のカーブも魔球に近いボールです。防御率も1.91とすばらしく、あらためて2019年のドラフト会議で、カープが一本釣りできたことが信じられません。
森下投手のカーブは強烈な縦回転がかかっています。ほぼ垂直に近い回転で、回転速度もあるため落差の大きな変化になります。バッターにとってはこれだけ大きく曲がる上に加速してくる体感ですから、勝負する上で邪魔な変化球でしょうね。
彼のカーブを可能にしているのは、その独特なフォームにあります。腕を振る際に上体をやや外側(一塁側)に倒して、右腕を真上から出すような投げ方。「左肩の開きが早い」と見られがちですが、実際にはそんなことはなく、腕を真上から出すための通り道がつくれる投げ方です。
これだけ真上からボールに縦の回転をかければ、落ちないはずがありません。

ルーキーイヤーから13年連続50試合以上に登板している日本ハムの宮西尚生
■宮西尚生(日本ハム)のスライダー
13年連続50試合以上に登板しているベテランですが、左バッターにとって宮西投手のスライダーは魔球でしょう。
彼のスライダーの特徴は、変化量が大きい上に鋭く曲がること。左バッターにとっては背中側から変化して逃げていくのですから、とらえるのは容易ではありません。
そして宮西投手は、このスライダーをピンポイントでコントロールできる。左打者のアウトコースに集めることはもちろん、背中側から曲げてインコースに投げることもできます。
ストレートもスピードガンの数字以上に力を感じるボールですし、同じ腕の振りでスライダーを投げられるのですから、バッターは対応できません。ほぼストレートとスライダーの2つの球種だけで抑えられる要因は、ここにあります。
昨シーズン終盤はクローザーとして活躍しましたが、宮西投手はキャリアのほとんどを中継ぎ投手として過ごしています。それで日本を代表する左腕としての立場を築いたのですから恐れ入ります。あらためてその功績を称えたいと思います。

驚異の奪三振率を誇るソフトバンクのモイネロ
■リバン・モイネロ(ソフトバンク)のカーブとチェンジアップ
巨人との日本シリーズで3イニングを投げ、8奪三振。初めてモイネロ投手の変化球を見たときは衝撃を受けました。カーブもチェンジアップも、とてつもない落差があります。カーブはホームベースに向かって右側、チェンジアップは左側に落ちますが、魔球が2つあるようなものです。
ストレートが常時150キロ超と速いうえに、右にも左にも落ちる球があるわけですから、バッターはたまったものではないでしょう。
モイネロ投手も森下投手と同様に手が真上から出てきて、ボールを縦に切っています。腕が出る位置が高く、体のひねり方、使い方がすべてマッチしているからこそ、こんな魔球が投げられるのでしょうね。
これだけ変化量の大きなボールを扱い、さらに体の使い方が難しいフォームですから、どうしても日によってコントロールがばらついてしまいます。でも、感覚が合う日はよほどのことがない限り、打たれないはずです。
好調時のモイネロ投手の変化球を打てるバッターは果たして現れるのか、とても気になります。それくらい強烈なボールを投げていました。
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以上、私が「魔球」と認定する5投手の変化球をご紹介しました。私自身の現役時代を振り返ってみると、実際に対戦してみて「魔球だ」と感じた投手が4人いました。
マット・キーオさん(元阪神ほか)のカーブ。伊藤智仁くん(元ヤクルト)の高速スライダー。佐々岡真司くん(元広島)のスライダー。そして、大魔神・佐々木主浩くんのフォークです。佐々岡くんのスライダーは、打席で「消えた」と思いましたから。とても強烈なボールでした。
今後、魔球を投げる可能性がある投手を挙げるとすれば、山下舜平大投手(福岡大大濠高→オリックス1位)のカーブや、高橋宏斗投手(中京大中京高→中日1位)のチェンジアップでしょう。プロでさらに磨きをかけてくれることを期待します。
今のプロ野球は縦の変化球が重要、というのが私の持論です。これからも野球ファンをあっと驚かせるような魔球の出現を楽しみに待ちたいと思います。