サッカースターの技術・戦術解剖第40回 ピエール=エミル・ホイビュア<ニアゾーンを埋めるMF> イングランドプレミアリー…
サッカースターの技術・戦術解剖
第40回 ピエール=エミル・ホイビュア
<ニアゾーンを埋めるMF>
イングランドプレミアリーグ、トッテナムの看板はハリー・ケイン(イングランド)とソン・フンミン(韓国)だが、チームを支える重要な役割を果たしているのがピエール=エミル・ホイビュア(デンマーク)だ。

今季のトッテナムのキーマンになっているホイビュア
今季からスパーズ(トッテナムの愛称)に加入、4-2-3-1システムの「2」を担っている。的確な判断とボールコントロール、186㎝の体躯でフィジカルコンタクトに強く、運動量も抜群。セントラルMFとして攻守をリンクする役割だが、従来のボランチとは少し違う動き方をしている。
ホイビュアとムサ・シソコ(フランス)には、一般的なボランチとは違うタスクがある。守備で引いた時に、センターバック(CB)とサイドバック(SB)の間に入るのだ。ボランチのひとりがハーフスペース(サイドと中央の間)を埋めて下がることで、スパーズは一時的に4バックから5バックに移行している。
ハーフスペースの先端、ニアゾーンと呼ばれるスペースは、攻撃側にとって決め手と言っていい。マンチェスター・シティ(イングランド)が典型だが、サイドで起点をつくったあと、もう1つ内側への進入を図ることのメリットが大きいからだ。
まずクロスボールの距離が近くなるので、その分精度の高いラストパスが期待できる。さらにターゲットへの到達時間も短くなるので、守備側には対応時間が限られてくる。
また、ニアゾーンへ進入された時点で、守備側はポジション修正を余儀なくされる。止まっていれば、DFとGKの間へのクロスボールに反応が遅れるからだ。つまり、人が動くということ。動いている守備側選手の周辺には、必ずスペースができる。ゴール方向へ戻っていれば、逆方向へのクロスボールには反応できない。
ラストパスの距離が近い、DFが動く、この2点でこのスペースへの進入は得点へ結びつきやすくなるわけだ。
ジョゼ・モウリーニョ監督は、おそらくこの重要スペースを早めに埋めることにしたのだろう。ただ、最初から5バックにするのではなく、MFをひとり下げる選択をしたのが新しさであり、それが攻守に効果をもたらしているのだが、それにはホイビュアの存在が大きく影響している。
<モウリーニョ戦術のキーマン>
デンマーク生まれの25歳。BKスキョル、FCコペンハーゲン、ブレンビーIFのユースチームを経て、2012年にバイエルン(ドイツ)へ移籍した。
17歳でのブンデスリーガデビューは、当時バイエルンで史上最年少だった。ただ、そのままレギュラーポジションを獲得したわけではない。2012-13シーズンはユップ・ハインケス監督の下で3冠を達成したシーズンである。レギュラーポジション獲得は難しく、ホイビュアはアウクスブルク、シャルケへ貸し出された。
2016年にはプレミアリーグのサウサンプトンへ移籍。そこでも当初はレギュラーに定着できなかったが、2018-19シーズンからは不可欠の存在となり、スパーズへの移籍が実現した。
ユース時代は攻撃的MF、ときにはストライカーとしてプレーしたホイビュアの目標はジネディーヌ・ジダン(フランス)だったという。大柄だが柔らかいボールタッチ、パスセンスは、洗練されたプレーメーカーとしての資質がうかがえる。ただ、現在のホイビュアはジダンよりもずっと守備型のMFになっている。
スパーズは引いた時には、ボールサイドのボランチがCBとSBの間に入る。これに連動してトップ下の選手は5バックの前のスペースを埋める。両サイドもFWのケインも引く。システムとしては5-4-1になり、いわゆる 『大型バスを置く』格好だ。
ここまで引いてしまえば確かに守備は固くなるが、ここで奪っても通常は攻撃ができない。しかし、ディフェンスラインに吸収されるホイビュアとシソコには、キープ力と展開力があり、相手のハイプレスをかわせる力がある。
さらに、引いてくるトップ下(タンギ・エンドンベレ/フランスか、ジオバニ・ロチェルソ/アルゼンチン)もまた、ハイプレスを受けてもボールを失わない強さと技術がある。トップのケインに預けてもタメがつくれる。
奪ったボールを、簡単に失わない技術のある選手がいる。彼らがボールをつなぐ間に、ステーフェン・ベルフワイン(オランダ)とソン・フンミンの快足コンビが一気にスペースを駆け上がり、そこへ主にケインから計ったようなパスが送られる。
人数をかけた守備だけでなく、そこからのカウンターアタックも設計しているのは、モウリーニョ監督らしい周到さだ。
モウリーニョ監督のチームには、これまでもフィジカルモンスターや天才アタッカーがいた。ズラタン・イビラヒモビッチ(スウェーデン)やディディエ・ドログバ(コートジボワール)、クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)など、スター選手を生かしてきた。
一方で、チームを支えるバイプレーヤーへの目配りもぬかりない。
チェルシー時代はクロード・マケレレ(フランス)を重用したように、攻守をリンクするハードワーカーを常に起用してきた。今季のスパーズで最も信頼が厚いのは、ホイビュアに違いない。
ここまでリーグ16試合すべてに先発したのはGKのウーゴ・ロリス(フランス)、ケイン、ソン、そしてホイビュアである。新加入は彼だけだ。
ホイビュアを獲れたから新しい戦術を採用したのか、構想に合わせて獲ったのかはわからないが、ドンピシャの補強だった。今季のスパーズ、プレミアリーグのカギを握る選手のひとりである。