2021年が幕を開けた。プロ野球はまもなく新人合同自主トレーニングが始まり、2月になれば春季キャンプに入る。ルーキーにとっては、まもなく始まるプロ野球人生を目前に控え、緊張感が高まっていく時期だろう。  昨シーズン、セ・リーグ新人王…

 2021年が幕を開けた。プロ野球はまもなく新人合同自主トレーニングが始まり、2月になれば春季キャンプに入る。ルーキーにとっては、まもなく始まるプロ野球人生を目前に控え、緊張感が高まっていく時期だろう。

 昨シーズン、セ・リーグ新人王に輝いた広島・森下暢仁の奮闘が印象的だったが、さて今季のルーキーたちはどんな活躍を見せてくれるのだろうか。

 昨年秋のドラフトで指名されたなかには、すでに一軍のクラスの実力を有する選手が何人もいたように思う。とくに早川隆久(楽天/投手)、栗林良吏(広島/投手)、佐藤輝明(阪神/内野手)の3人は、開幕から一軍の戦力として働いてもらうつもりで獲得された選手たちで、プロで通用するか否かを論じるレベルではない。

 なかでも栗林は、故障者が続出したカープ投手陣を森下とともに支えていかなければならない。逆に考えれば、働き場はいくらでもあるわけで、栗林ほどの力量があれば、これ以上ない環境と喜ぶべきだろう。

 ルーキーにとって1年目というのは、自身の能力がプロのレベルに通用するかどうかが最大の問題だが、同じぐらい大事なことが"ポジション"があるかどうかである。言い換えれば、チームにフィットするかどうかである。

 たとえば、昨年の楽天ドラフト1位ルーキー・小深田大地は、指名直後は多くの人が驚き、「1位じゃなくても獲れたんじゃないか......」と、非難の声さえ上がったという。ところがシーズンが進むにつれて「1番・遊撃手」というポジションを見事にこなし、新人王候補にまで挙げられる活躍を見せた。

 これこそ、まさにチーム事情にピッタリとハマったケースであろう。故障の心配が常につきまとう茂木栄五郎の負担を減らし、移籍1年目の鈴木大地をサードに定着させて打撃に専念することに成功。また小深田をセカンドで起用して浅村栄斗をDHで使うというオプションも可能になった。今から考えれば、最初からなくてはならない"人材"だったわけだ。



自主トレーニングに励む阪神ドラフト6位の中野拓夢

 では、今年のルーキーのなかで小深田のように一軍の戦力にハマる選手は誰か。小深田をモデルケースとすると、重なってくる選手がひとりいる。阪神6位指名の中野拓夢だ。

 高校(日大山形)、大学(東北福祉大)、社会人(三菱自動車岡崎)とショート、セカンドを守って、とにかくうまい選手だった。捕球から送球までの一連の動作によどみがなく、いわゆる投手が「打ち取った」と思った打球を確実にアウトにできる選手。投手に最も信用されるタイプの内野手だ。

 昨シーズン、阪神は12球団ワーストの失策数を喫し、とくにスローイングエラーが多かった。先発投手陣を見ても打たせてとるタイプがほとんどで、力で抑え込む剛腕タイプはほとんどいない。投手陣にとっても、打ち取ったはずの打球を確実にアウトにしてくれる内野手が加わったのはなによりの朗報だろう。

 昨年、遊撃手として最も出場機会が多かったのが木浪聖也。守備率.980と及第点の結果を残したが、まだまだ絶大の信頼を寄せる域には達していない。

 セカンドは堅守の糸原健斗が中心だったが、夏に有鉤骨を骨折。すでに完治はしているが、糸原は待って捕球するタイプで、本質的には三塁手向きだと見ている。そこで中野が一枚加わることで起用のバリエーションが一気に広がり、ベンチワークに余裕ができるのも大きい。

 中野の守備ばかりを取り上げてきたが、意外性のあるバッティングにも注目している。大学から社会人に入りたての頃は、バットコントロールがうまい印象だったが、社会人の1年目の後半あたりから中軸を任されたこともあり、スラッガータイプへと変貌を遂げた。

 走塁も、盗塁をガンガンするタイプではないが、スイングした後のスタートの早さ、タッチアップでの本塁突入時のスピード感には思わず目を奪われる。

 練習で目立つタイプではないかもしれないが、オリックス・福田周平のように実戦で起用されるうちになくてはならない選手になれると見ている。

 今の阪神には少ない、本当の意味で「野球センス」の光る選手。上本博紀がチームを去った今(現役引退)、気の利いたプレーができる選手は貴重だ。

 紅白戦、オープン戦を経て、ペナントレースに突入するが、気がつけば、中野がいつの間にか一軍に定着して、立派な戦力となっている。中野はそんな可能性を秘めたルーキーである。