新年の初滑りとなる「名古屋フィギュアスケートフェスティバル」で、坂本花織はエキシビションナンバー『迅』を披露。「くノ一」に扮したコスチュームで、持ち前のスピード感あふれる演技を見せた。昨年12月の全日本選手権では2年ぶりの全日本女王奪回を…

 新年の初滑りとなる「名古屋フィギュアスケートフェスティバル」で、坂本花織はエキシビションナンバー『迅』を披露。「くノ一」に扮したコスチュームで、持ち前のスピード感あふれる演技を見せた。昨年12月の全日本選手権では2年ぶりの全日本女王奪回を狙ったが、ショートプログラム(SP)、フリーともに2位で、合計222.17点の総合2位だった。この日は競技会よりもさらに勢いのある滑りで、高さと距離(幅)のあるダイナミックなジャンプに加え、その疾走感はすさまじいものがあった。



名古屋フィギュアスケートフェスティバルでスピード感あふれる演技を見せた坂本花織

 大学生になってひとり立ちを試みた坂本は2019-20シーズン、もがき苦しんだ。ロシアの新星たちが登場した世界でトップ争いを繰り広げるためには大技の習得が必要だったからで、坂本はトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)ではなく、4回転トーループに挑戦した。だが、焦りだけが先行して、ほかのジャンプが崩れてしまい、思うような演技ができなくなってしまった。負のスパイラルに陥って散々なシーズンとなり、大会2連覇を目指した全日本選手権では総合6位に沈んだ。

 不振からの復活は、自分自身を見つめなおして再構築するところから始めた。自分に足りない部分を強化。基礎固めに徹底して取り組んだという。新型コロナウイルスの影響による自粛期間と重なったこともあり、1日9キロの走り込みなど、トレーニング時間を増やして体力強化を図った。

 この取り組みの成果がしっかり現れたのが、グランプリ(GP)シリーズ最終戦となった11月のNHK杯だ。SP75.60点、フリー153.91点の合計229.51点の高得点を叩き出して初優勝。4回転もトリプルアクセルも跳んでいない演技構成で出した得点について、坂本はこう振り返っている。

「NHK杯はSPとフリーでほぼノーミスの演技ができて、あの点数を出しました。それ以上を狙うとなると、やっぱり4回転は必要になってくると思います。ただ、4回転だけを考えてしまうと昨季みたいに自分を見失ったまま、気持ちだけが先走ってしまう状態になるので、現状を保ちつつ、プラスアルファで4回転の練習をやっていければいいと思います」

 迎えた全日本選手権では、武器の3回転フリップ+3回転トーループの連続ジャンプをSPでミスして得点を伸ばせずに2位発進。逆転優勝に一縷の望みをつないでフリーでの挽回に懸けた。坂本の代表作となったフリー『マトリックス』(ブノワ・リショー振付)は2シーズン目ということもあって、滑り込みの成果を遺憾なく発揮。そこにはこんなエピソードも隠れていた。

「曲もちょっと変えたので、ブノワ先生から『もうちょっと変えた感を出そう』ということになって衣装も変えました。前の衣装は伸縮性、通気性がゼロで本当に苦しかったんですけど、背中が空いただけで全然違いました(笑)」

 昨季から何度も見ているプログラムだが、"見飽きた感"がないのは、衣装チェンジもあるかもしれないが、振り付けと音楽の一体感が増して演技に引き込まれるからだろう。

「うまく緊張をコントロールできたフリーでは、昨季は落ちこぼれのような演技でしたが、今季はリベンジの演技ができてすごくよかったですし、悔しい思いを晴らせてほっとしています」

 全日本ではSP首位の紀平梨花がフリーで4回転サルコウに初成功、さらにトリプルアクセルも跳び、これではいくら自身が完璧な演技を見せても得点で追いつけないことを痛感したようだ。結局、紀平は合計234.24点の高得点を出して優勝。現実を直視した坂本は、全日本選手権のメダリスト会見で素直に負けを認めてこう話した。

「今回、自分がマックスの演技をして最高の演技を出したとしても、4回転とトリプルアクセルを跳んだ梨花ちゃんのほうが得点も順位も上だと思いました」

 ただし「まだ伸びしろがある」と自他ともに認めている坂本は諦めてはいない。平昌五輪代表になったオリンピアンとしてのプライドもある。もう一度、五輪の舞台で、今度こそは表彰台争いに加わりたいと思っているに違いない。

 坂本は持ち前の明るさで、コロナ禍のなかの2020年と今季前半戦を振り返り、今年2021年と今後についての意気込みをこう語っている。

「2020年は長く感じるのかなと思ったんですけど、めっちゃ早かったと思いました。自粛のときは1日1日を本当に長く感じて、スケートがなかったら1日がこんなに長く感じるんだなと思うくらい、いままでぶっとおしでスケートをやっていたんだとあらためて思いました。いざ滑れるようになったら、1日が足りないくらい早く感じて、もう気づけば全日本選手権が終わっている。ある意味、充実した1年だったなって思いました。

 2020年はきつくても自ら追い込めたのがよかったと思うので、2021年はもっと自分を苦しめて、いい結果につながるように頑張りたいなと思っています」

 負けず嫌いな坂本が、2022年北京五輪シーズンに向けてどう大技のジャンプに取り組んでいくのか。五輪本番までに習得できるのか。見守っていきたい。