名古屋フィギュアスケートフェスティバルで演技する本田真凜 「今年も一年、楽しく頑張ります!」  1月4日に開催された名古屋フィギュアスケートフェスティバル。第1部に登場した本田真凜(19歳、JAL)は、そうメッセージを寄…



名古屋フィギュアスケートフェスティバルで演技する本田真凜

「今年も一年、楽しく頑張ります!」

 1月4日に開催された名古屋フィギュアスケートフェスティバル。第1部に登場した本田真凜(19歳、JAL)は、そうメッセージを寄せている。

 今シーズンのショートプログラム(SP)で使用した曲『The Giving』に乗ったスケーティングは、問答無用に人を惹きつける力があった。流れる音を感覚的に拾うと、それを体の隅々まで行き渡らせる。手足がしなやかに伸び、エッジワークは深く、表情の変化もさまざまで、ひとつの世界を演出。終盤には優雅なイナバウアーで観客と一体感を作り、拍手喝采を全身で浴びた。

 アンコールの『Seven Nation Army』では、打って変わってロックサウンドに体を弾ませている。激しく踊る彼女自身が、かき鳴らすギターのようだった。一瞬にして、氷上に物語を作っていた。

「不安や怖さを克服し、楽しんで滑れるように」

 本田は言う。笑顔で歓声を応えた彼女は、フィギュアスケーターとしての2021年をはつらつとスタートさせていたーー。



アイスショーで他の出演者と一緒にパフォーマンスする本田

 本田の2020年は、控えめに言って「苦闘」だった。

 シーズン初戦に予定していた10月のジャパン・オープン開幕直前、ジャンプの転倒で右肩を脱臼した。一度は自分で肩を入れたものの、翌日に滑った時に再び肩が外れてしまい、棄権せざるを得なかった。本来はしばらく安静が必要だったにもかかわらず、東京選手権出場を強行し、東日本選手権に進出。練習はままならず、痛みが残る体で、目標にしていた年末の全日本選手権までどうにか勝ち進んだ。

「スケートをしてきて、一番不安で」

 本田はそうもらしていたが、苦難を乗り越えたはずだった。

 ところが全日本の前日、本田はめまいを感じ、体調不良を訴える。当日の公式練習は不参加。症状が回復しなかったことで、欠場を余儀なくされることになった。

 結局、今シーズンは一度も万全な状態では滑ることができていない。不運とも言えるが、結果は過酷だった。12月に出場したNHK杯でも、7本中6本のジャンプが回転不足などと判定された。

「ケガ明けから、ジャンプは回転不足になってしまうことが多くなって。回転不足になると、せっかくジャンプを跳んでもマイナスがついて、失敗したのと同じようになってしまう。次に向けての課題ですね」



はつらつとした演技を見せた本田

 演技後の本田は、口惜し気に語っていた。期待されてきた俊英としては、忸怩(じくじ)たる思いがあるだろう。2016年には世界ジュニア選手権で優勝し、ジュニアながら参加した全日本で4位に入り、2018年の平昌五輪に向けては有力候補にもなっていたのだ。

 わずかなきっかけで、"運命のコイン"を裏返しにできるはずだが......。

 実は2020年の苦闘は、2018、19年から続いてきたものだ。

 アメリカで活動する決意を固め、異国での生活に苦しみながら経験を積み上げていった。しかし、結果が出そうなところで、不運にもタクシーの追突事故に遭っている。ハンディを背負いながらもグランプリシリーズを戦い抜き、全日本ではフリーで最終滑走組に入って、復活の足掛かりを得たように見えた。

「2019年はシーズンオフに、アイスショーでたくさん滑らせてもらったのが(復活の兆しとなる全日本最終グループ入りにつながって)よかったな、と思っています。気持ちが折れかけていたところで、また頑張ろうと思えました。私は気持ちがいちばん大変なところなので」

 本田は気持ちを明かしていた。つかんだ兆しは、幻だったのか。

「今はスケートしかない、って感じです」

 インタビューで、本田は凛として言っていた。

「自分にとっての原点というか、フィギュアスケートは2歳からやっていて、気づいたら滑っていたので。常に楽しいなって気持ちはあっても、何が楽しくて始めたというのはないですね。お兄ちゃん(本田太一)が先にスケートをしていて、すごく楽しそうだなって。それで一緒に滑るようになりました。私は他のスポーツもやっていたんですけど、『何が一番好き?』って周りに聞かれた時は、自然に『スケート!』って答えていて。いつからかひとつに絞って、ずっとやっている感じです」

 誰に何を言われようとも、彼女はスケートに人生を懸けてきた。

 名古屋でのアイスショー、フィナーレに再び登場した本田は、花を咲かせるようなスピンを披露し、集まった観客をわかせていた。やはり、観客と一体になることで、そのスケートは映える。拍手を浴びる姿は眩しかった。

 2021年、本田は"幸運の兆し"をつかみ取れるか。