蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.78 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカ…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.78

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回は欧州チャンピオンズリーグ(CL)のグループステージを振り返ります。

――今回は、お三方に今季のチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ(GS)を振り返っていただき、すでに決定しているラウンド16の戦いを展望していただきたいと思います。まずはグループステージの総括からお願いします。



ケガ人続出のリバプールだったが、CLはグループ1位突破を果たした

<超過密日程を強いられた各クラブ>

倉敷 今季も昨季につづいてコロナ下でのCLになりました。今もパンデミックやクラブの財政面など深刻な問題も指摘されると思いますが、まずは今回のGSを振り返っておふたりの印象から伺おうと思います。

中山 まず、各リーグによって開幕の時期が異なったうえ、CLも通常の9月開幕ではなく、10月開幕になったことがひとつ。しかも9月からはUEFAネーションズリーグも始まったので、代表クラスの選手は10月から12月までほぼ休みがなく、1週間に2、3試合をこなさなければならない、超過密日程でした。

 そんなことが影響し、GSが予想外の大混戦になったと思います。最終的には有力クラブが勝ち抜けましたが、混戦の要因の多くは異例の過密日程にあって、たとえばレアル・マドリード(スペイン)やパリ・サンジェルマン(フランス)などがその典型でした。ケガ人や新型コロナウイルスの感染者が続出してなかなかベストメンバーを揃えられず、とくにGSの中盤戦までは、チーム全体としてのクオリティが著しく低かった印象を受けました。

小澤 苦戦しながらも、結果的に強豪がGSを突破できたのは、選手層の厚さによるものでしょう。マドリー(レアル・マドリード)がそうでしたが、大事な試合で信頼できる選手を固定するなど、選手をうまく使い回すことはできていました。それによって国内リーグ戦を含めた過密日程を乗り切れた、というのが実際のところだと感じます。

倉敷 グループ分けのポッド1で敗退したのはゼニト(ロシア)だけ、一方でポッド4からラウンド16に駒を進められたのはボルシアMG(ドイツ)だけでした。そのボルシアMGの後塵を拝したインテル(イタリア)が敗れ去ったことが予想外の結果と言えそうですね。

 パンデミックの発生以降に再開された昨季のCLは、各国リーグの再開状況によってコンディションのバラつきがありました。昨季終盤との比較も含めて、疲労の蓄積や新シーズンに向けた仕上がり具合の影響はいかがでしょうか? 

小澤 影響は間違いなくあったと思います。各国リーグ戦が開幕するなか、今季はどこもしっかりとしたオフが取れず、いつもと違うプレシーズンを過ごしました。しかもクラブはコロナショックから経営難に見舞われ思うような補強もできず、見切り発車のような格好で新シーズンに突入しました。さらに9月からは代表戦が始まったこともその状況に拍車をかけたと思います。とくに南米出身の選手は長距離移動をしてW杯予選を戦い、疲弊してクラブに帰ってきた。代表戦は新型コロナウイルス対策のプロトコルにばらつきがあるため、ウルグアイ代表のルイス・スアレス(アトレティコ・マドリード)のように、新型コロナウイルスに感染して戻ってくる選手もいました。

 そういうなかでCLを戦わなければならないクラブの監督は、選手のやりくりが相当難しかったと思います。それと、たとえば各試合を戦術的に見た場合、両チームがプレスを掛け合うような激しい試合が減った印象を受けましたし、一試合一試合の強度も昨季のファイナル8とは比較にならないほど低かったと思います。

中山 たしかに、正直、GSは物足りないものがありました。ただ、一度オフシーズンに緩んでしまった選手がトップフォームに戻るには、あまりにも時間的余裕がなさすぎたので、仕方ない部分もあると思います。マドリー、パリ、リバプール(イングランド)、バルセロナ(スペイン)、そして前回王者バイエルン(ドイツ)も、ケガ人が多く低調なパフォーマンスで、同じような症状に見えました。

<ケガ人続出も選手層の厚さで乗り切るプレミア勢>

倉敷 では、ここからはベスト16に残ったチームを各国リーグごとに総括してみましょう。まずは出場4チーム中3チームが突破したイングランドのプレミアリーグ勢です。マンチェスター・ユナイテッドだけが3位通過でヨーロッパリーグに回りましたが、リバプール、マンチェスター・シティ、チェルシーは見事に1位通過を果たしました。

小澤 そこはプレミア勢の地力を感じました。たしかに主力にケガ人が続出したリバプールは苦戦したと言えますが、シティやチェルシーは問題なく順当勝ちでした。とくにチェルシーはセビージャ(スペイン)が最後に力を抜いたという部分もありますが、予想以上の成績で1位抜けした印象です。

中山 勝ち抜けた3チームのなかでは、ベストとはほど遠いチーム編成でも1位を確保したリバプールが、頭ひとつ抜けている印象で、選手層の厚さ、底力を感じました。逆に、同じようにケガ人を出しながら1位通過を果たしたシティは、国内リーグ戦では決してよい状態ではなくて、CLは組み合わせに恵まれた感が否めません。それなのに、CLでよいから勝てるという幻想をそのままプレミアに持ち込んでしまい、国内では苦戦を強いられる、妙な状態に陥ってしまったように思います。

倉敷 コロナ下においても資金的には他国のリーグより恵まれていると思えるプレミア勢ですが、国内リーグ戦は交代枠が5人ではなく、従来どおりの3人で進められている点が気になります。決勝トーナメントに影響が出てくるのではないでしょうか?

小澤 すでに影響は出ていると思います。選手層が厚いので何とかごまかせているようには見えますが、プレミアのチームは本当にケガ人が多い。リバプールにしても、あれだけ主力が離脱してしまうと、さすがにユルゲン・クロップ監督(ドイツ)が求めるレベルのサッカーを毎試合するのは不可能に見えます。この歪みは、春先あたりに出るのではないでしょうか。

中山 交代枠問題については、プレミアのトップクラブの監督たちが「不公平ではなく、必要なルールだ」と不満を露にしていますよね。ただ、12月にも改めてクラブ代表者の投票によって3人枠の継続が決定し、その代わりではないですが、第14節からは1試合のベンチ登録人数を7人から9人に増やしました。加えて、脳震とう、またはその疑いのある選手が出た場合に限って、最大2人の交代枠を追加するルールを試験的に導入することになりましたが、それだけでは他リーグとの差を埋めることは難しいでしょう。

倉敷 つづいてドイツ・ブンデスリーガです。4チームすべてがベスト16入りしました。ディフェンディングチャンピオンのバイエルンとドルトムントが1位通過、ライプツィヒとボルシアMGが2位通過でした。

中山 ドイツ勢がCLで好成績を残す、近年の傾向は変わりませんでした。優勝候補最右翼のバイエルンは、ケガ人が多くてまだ6~7割の実力しか見せていないと思いますが、それでも最後の2試合は3バックを試したり、大幅なターンオーバーを行なったりと、余力を残して突破した印象です。

 ドルトムントはアーリング・ハーランド(ノルウェー)の活躍が際立っていましたが、彼の負傷離脱後に得点力が明らかにダウンしたのは、依存度が予想以上に高かったことの証明になったと思います。結局、リュシアン・ファブレ監督(スイス)が解任されて、アシスタントだったエディン・テルジッチ(ドイツ)が監督に昇格しましたが、これで昨季のバイエルンのように、ポジティブな化学反応が起こるかに注目ですね。

小澤 2位通過を果たしたボルシアMGは、ライプツィヒの系譜を継ぐマルコ・ローゼ監督(ドイツ)のサッカーが印象的でした。インテンシティが高く、かつ縦に速く、マルキュス・テュラム(フランス)など個の能力を生かすスタイルでゴールを奪いにいきます。その一方で、プレッシングで相手を飲み込み、プレー強度で勝るというサッカーが、このコロナ禍のなかでどこまで継続できるかという視点で見ると、厳しさも感じました。

 ライプツィヒもそうですが、自分たちよりも個の力が上回る相手と対峙し、その相手が同じようなプレー強度で対抗してきた時、どうしても歯が立たないという問題が浮上します。「ある程度選手が変わっても同じサッカーはできるが、個の能力も大事にする」という方向に、ブンデス全体が進む可能性もあるという意味でも、この2チームの今後の行方は興味深く見たいと思っています。

<スペイン勢はスター高齢化も自力あり>

倉敷 次はスペインのラ・リーガ勢です。今季も4チームすべてがGSを突破しました。ただ1位通過はレアル・マドリードだけで、バルセロナ、アトレティコ・マドリード、セビージャは2位通過でした。

小澤 CLを勝ち抜くレベルのプレー強度、ハードワークという部分は今年のみならずここ数年のラ・リーガ勢に欠けています。バルサのリオネル・メッシ(アルゼンチン)、マドリーのカリム・ベンゼマ(フランス)、セルヒオ・ラモス(スペイン)など、近年はビッグクラブほど個に依存するサッカーの比重が高く、その分彼らが高齢化した時にインテシティが低下してしまい、簡単に勝てなくなってきた傾向は今季も見られました。そういう意味では、よく4チームすべてがグループステージを突破できたな、というのが率直な感想ですね。

中山 たしかに自分たちの実力を発揮してベスト16に勝ち上がったというよりも、組み合わせなど他チームとの実力差によって勝ち残った印象はあります。とはいえ、いつもの強さはなかったにしても、相変わらずラ・リーガ勢のサッカーのレベルは高い。たとえば近年ランキングを上げているブンデス勢と比較しても、チームとしても選手としても、まだ両国の間には大きなクオリティの差があるように見えます。

倉敷 イタリアのセリエA勢はどうですか? インテルだけが最下位で敗退しましたが、ユベントスは1位、アタランタとラツィオは2位通過を果たしました。

小澤 ユベントスは、アンドレア・ピルロ新監督(イタリア)がとくに難しいサッカーをしている印象はなくて、どちらかというと戦術的な部分より、現有戦力をうまく使っていくマネジメントのほうが目立っている印象です。もちろんディフェンスの枚数を変えたり、中盤の構成も変えたりしますが、基本的にはソリッドに守ってクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)やアルバロ・モラタ(スペイン)に得点をとってもらうというスタイルなので、脇役の部分がもっと固まってこないと、ラウンド16以降の戦いは厳しくなると見ています。

 それと、インテルの敗退については、アントニオ・コンテ監督(イタリア)が少し戦術に固執しすぎた部分が否めず、逆に自分たちで試合を難しくしてしまった印象です。プレッシングのはめ方を間違ったマドリー戦などはその典型で、監督の采配ひとつで大きく結果が変わってしまう姿を目の当たりにしました。

中山 アタランタとラツィオがベスト16に残ったのは、イタリアサッカー界にとって明るいニュースになったと思います。とくにアタランタは、ティモティ・カスターニュ(ベルギー)以外はほぼ主力が残留し、ベスト8入りした昨季のチームを継続しながら、CLの成功体験をそのまま生かすことができました。昨季のGS序盤は苦戦しましたが、今季は波がなく、リバプールにも1勝1敗の成績を残したことがその証といえます。

 ただし、ここにきてキャプテンのアレハンドロ・ゴメス(アルゼンチン)とジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督(イタリア)の間で軋轢が生まれてしまったのが心配です。もし冬にゴメスが移籍してしまうようだと、ひとつにまとまっていたチームが一気に崩壊する危険性もあると思います。

倉敷 ここ数年のアタランタはひとつのピークを迎えているように思います。ヨーロッパでの経験値も蓄積され、ガスペリーニのサッカーは魅力的です。小さなクラブながら、ゴメスという特別な選手がいる。彼のキャリアとチームのピークがシンクロしています。もともと育成面が高く評価されているクラブですが、昨季に続く結果を残せればいずれ欧州カップ戦の常連になる礎を築ける気がします。エリート入りなるか? プロビンチャ(地方の小都市のクラブ)にとって勝負の年ですね。

 では、次にフランス勢に話を移しましょう。唯一の突破を果たしたパリについてはラウンド16の展望でたっぷり話すことにして、リーグ・アン勢全体の評価と敗退した2チームについてお願いします。

中山 フランス勢としては、パリだけがベスト16に残るという、例年どおりの状態に戻ったということでしょう。パリとリヨンがベスト4に入った昨季は、ある意味偶然なところがあったと思います。いつになくパリは組み合わせに恵まれていました(笑)。リヨンもシステム変更が奏功し、コンディションもファイナル8にピークを持ってくることに成功しました。それは、他リーグがリーグ戦を再開したのとは対照的に、リーグ・アンが早い段階でシーズンを打ち切っていたのも吉と出たのだと思います。

 今季敗退したマルセイユとレンヌの2チームについては、どちらもCLでの経験値が低すぎたのが最大の要因だと思います。財政難のマルセイユは夏の補強がうまくいかず、CLを戦うだけの戦力がありませんでした。昨季は、システムを4-3-3にして固定メンバーで戦いつづけて安定性を保てました。さすがにアンドレ・ビラス・ボアス監督(ポルトガル)もひとつのやり方だけではCLを乗り切れないと見て、今季はメンバーの入れ替えや複数システムの採用に踏み切りましたが、結果的にそれが安定感を失う原因となってしまいました。

 一方、CL初出場のレンヌは補強も積極的に行ない、優秀な若手も多く伸びしろのあるチームなので期待していましたが、いかんせん経験値が足りなすぎました。ただ、試合内容はそれほど悲観するものではなかったですし、CLを経験した若手がこれから国内でどのように成長していくのかが楽しみです。それはジュリアン・ステファン監督(フランス)についても同じで、彼はディディエ・デシャン代表監督(フランス)の右腕であるギー・ステファン(フランス)を父に持つサラブレットなので、まだ監督として化ける可能性があると思います。

倉敷 では最後に、ポルトガルから唯一出場してベスト16に勝ち残ったポルトについて。小澤さんはどのように評価しますか? 中島翔哉の出来も含めてお願いします。

小澤 中島については、昨季のリーグ中断明けにチームに合流できなかったところが響いたと思います。現在はセルジオ・コンセイソン監督(ポルトガル)の信頼もチーム内の序列も低いので、厳しい状況ですね。たしかに少しは起用されるようにはなりましたが、主軸になりそうな雰囲気もなく、どちらかというと戦力外に近い扱いです。

 一方、チームとしては、今季は財政的に主力のダニーロ・ペレイラ(ポルトガル/現パリSG)やアレックス・テレス(ブラジル/現マンチェスター・ユナイテッド)を放出せざるを得なかったので、国内リーグでもあまり調子が上がらない状態がつづいています。そのなか、シティ以外にこれといったチームがいなかったグループだったとしても、CLでベスト16に残ったことは評価すべきだと思います。

 ただ、セルジオ・コンセイソン監督のサッカーもそれほど際立ったことはありませんし、ビッグクラブに対して采配でジャイアントキリングを起こすような戦術もないので、正直、グループステージを突破しただけでも万々歳だと思います。

倉敷 ありがとうございます。次回からは、ラウンド16を展望していきたいと思います。