2020年の世相を表す言葉は当然と、言うべきか『密』であった。そう、新型コロナウイルスに振り回され、1年が終わってしまった感しかない。新聞、テレビでこの『密』という文字を見掛けなかった日はなかったのではなかろうか。競輪界の1年の節目、ラスト…
2020年の世相を表す言葉は当然と、言うべきか『密』であった。そう、新型コロナウイルスに振り回され、1年が終わってしまった感しかない。新聞、テレビでこの『密』という文字を見掛けなかった日はなかったのではなかろうか。
競輪界の1年の節目、ラストを飾るKEIRINグランプリ2020は昨年12月30日に平塚競輪場で行われた。密を避けるため、入場できるのは神奈川県内在住の2,000人に制限。筆者は残念ながら抽選から漏れてしまったので、1年を締め括る勝負をネット観戦で楽しむことにしたのだ。
人気を集めたのは平原康多(埼玉87期)だった。共同記者会見では脇本雄太(福井94期)と連携することを明言。超一流の自力型が他地区の自力型につくというのは御法度(ごはっと)と、言われても仕方ない。しかし、平原はそのような外野の声をシャットアウト。プライドを捨て、勝負に出たと、筆者は感じた。
マスコミは夢の競演と、大々的に持ち上げた。脇本も単騎で走るよりは1人でも味方が欲しかったであろうことから、両者の思惑が一致したのだろう。
両者に対抗するのが新田祐大(福島90期)を柱に、佐藤慎太郎(福島78期)―守澤太志(秋田96期)の北日本勢。中国勢はなぜか松浦悠士(広島98期)が前で、清水裕友(山口105期)が後ろ。筆者は清水に自信がなかったと、捉えた。郡司浩平(神奈川99期)には和田健太郎(千葉87期)。当初、平原と脇本が単騎の場合、誰が逃げるかが難しかった。だが、両者が連携することで、脇本が逃げることは誰の目にも分かった。自在型の松浦と郡司がどう出るか?番手に飛びつくのか?あるいは3番手狙いか?ただ、飛びつきという選択肢は現実的ではない。なぜならば脇本のスタイルを考えた際、ラインができれば競らせないように駆けるからだ。
レースは案の定、脇本が8番手から打鐘前に先行。松浦が3番手に入り、郡司は5番手。新田は定位置!?の7番手。郡司が捲ると、松浦も捲っていく。だが、冷静に考えて欲しい。脇本の先行を簡単に捲れる訳がない。松浦、郡司が後退すると今度は清水が捲って出た。この時の平原だが、前に踏むのではなく、清水を止めにいった。実は筆者、平原の頭で勝負していた。有馬記念で勝った分をソックリそのまま平原の頭に。結局、大きく開いた内を和田に突かれて……万事休す。
車券は外れたが、平原のレースぶりをよくよく考えてみた。要するに、平原クラスになると目先の1億円以上に大切なものがあったという解釈もある。そして、それよりもグランプリという最高の舞台において義理と人情、競輪独自の世界が見られたことは非常に価値があった。
東日本大震災以降は『絆』という言葉をより多く使うようになった。今年の箱根駅伝でも青山学院大の作戦は『絆作戦』だった。その『絆』をグランプリで見られたことに感謝したい。
優勝した和田に関しては_よくぞこの舞台で臆することなく突っ込んだと、手放しで賞賛したい。初出場ではどうしても緊張が上回ってしまうものだが、和田はそれを見事に克服して、栄冠を掴んだ。和田が強くなってきたのはここ3〜4年。成績の上昇と共に、さらに上を目指して、一時期は追い込みから自力で戦っていたこともある。このように現場に満足することなく、試行錯誤を繰り返し、努力を惜しまなかったことが繋がったのだ。
決して派手な選手ではないが、勝負、競輪と真摯(しんし)に向き合う姿勢は好感が持てる。2021年はグランプリチャンピオンとしてどう立ち回っていくのか?競走以外での立ち振る舞いも見られることになる。重圧に押しつぶされることなく、頑張っていただきたいと、強く願うばかりだ。