全日本フィギュア・フリー演技で完成度の高い滑りを見せた坂本花織  坂本花織は2019ー2020シーズン、夏場からトリプルアクセルに挑戦していた。トリプルアクセルを武器に世界のトップへ一気に上り詰めた紀平梨花や、ロシア勢に対抗す…



全日本フィギュア・フリー演技で完成度の高い滑りを見せた坂本花織

 坂本花織は2019ー2020シーズン、夏場からトリプルアクセルに挑戦していた。トリプルアクセルを武器に世界のトップへ一気に上り詰めた紀平梨花や、ロシア勢に対抗するためだった。

 だが、その挑戦は難航した。トリプルアクセルは一時諦めて、4回転トーループに切り替えるも、自分のものにできず、全日本は6位、シーズンベストは四大陸選手権5位で202.79点だった。全日本を初制覇し、世界選手権5位となった18ー19シーズンに比べれば、20点以上も下回る不本意な結果だった。

 そうした悔しさは二度と味わいたくないと決意した2020ー2021シーズンは、新型コロナウイルス感染拡大による自粛期間中も、集中して練習に取り組んだ。ジャンプは、トリプルアクセルと4回転を封印。まずはベースを上げることを意識したシーズンインだった。

 ショートプログラム(SP)は、高得点に向けた課題でもあるジャンプ構成の変更に着手した。基礎点が高い3回転ルッツはエッジエラーが多かったためSPでは避けてきたが、3回転ループの代わりに導入を決めた。同時に得点源の連続ジャンプも、基礎点が1.1倍になる演技後半に。変更後の構成に初めて挑んだ昨年11月のNHK杯は229.51点で優勝し、復活した姿を見せた。

 坂本は、雪辱を果たす決意を持って12月25〜27日の全日本フィギュアスケート選手権に臨んだ。初日のSP、前回優勝の紀平は競技前日の公式練習で不調だったトリプルアクセルを修正したものの、次の連続ジャンプの着氷でミスをして79.34点。坂本にとって射程圏内だった。自分の演技に集中することだけを意識してリンクに上がったという坂本は、紀平に迫るためにもNHK杯で得点を取りこぼしたスピンやステップを修正し、80点台に乗せる意欲を持っていた。



SP演技の坂本。後半の連続ジャンプでミスが出た

 75.50点だったNHK杯のSPが頭をよぎったというが、そうした思いもあって、本番は少し空回りしてしまったのだろう。「練習の時から自然と涙が出るほどに緊張した」と話す坂本は、前半はジャンプを含めて完璧だったが、後半に入ると、連続ジャンプにミスが出た。

「ジャンプ前の入りのカーブがちょっと違うなと思ってから、少しずつ狂い出し」、得点は71.86点。「思っていたよりはよかった。スピンとステップでレベルを取って加点を稼ぐしかないと思って、必死に頑張りました」と振り返り、フリーで紀平にミスが出れば競り合える位置につけた。

 SP後、中野園子コーチから「勝ちにいってはダメ」と言われたとおりフリーは得点を考えないようにした。「勝ちにいこうとすると変なところに力が入って本来の演技ができなくなる。いつもどおりに肩の力を抜き、自分の演技に集中するように言われました」と坂本は説明した。

 フリーはSPで克服できていた3回転ルッツのエッジエラーを取られた以外はノーミスで、スピンやステップもすべてレベル4とする完璧な滑り。得点は4回転サルコウを鮮やかに決めた紀平に4.59点差をつけられる150.31点。合計は222.17点だった。

 最初の2本のジャンプのGOE(出来栄え点)は4〜5点が並び、ステップも3〜5点。さらに、ジャッジ席近くのフェンスの上にまで高く足を上げて滑るスパイラルを含む終盤のコレオシークエンスは、ジャッジが体を後ろにのけぞらせるほどの迫力もあり、9人中6人のジャッジが満点の5点を付けた。そんな遊び心も見せる、坂本らしさ満載の演技だった。

「ジャンプを全部決めることに集中していたので、プログラムの他の演技はいつもよりセーブしてしまった部分があった」

 坂本はそう話すが、プログラム全体の出来としても演技構成点は優勝した紀平を1.61点上回る74.23点を獲得と、ジャッジの評価は高かった。

「ショートは(連続ジャンプが)3回転+3回転にならなかったので悔しかったけれど、フリーは何とか持ちこたえる演技ができた。去年の悔しい思いを晴らせたかなと思ってホッとしました」

 坂本は演技後の取材時、自分の後に滑る紀平の演技が気になるようで、話の合間にチラチラと近くにあるテレビ画面に目を向けていた。そして合計が234.24点だと知ると、「エグっ。すっごー!」と呆れたような笑い声をあげていた。

 その後の記者会見で、「NHK杯の229.51点を考えれば、紀平との得点差はそれほど離れていないのでは?」と問われると、複雑な表情をしてこう答えた。

「離れてないとは考えられないですね。もし自分がマックスの演技をしたとしても、やはり4回転を跳んだ梨花ちゃんのほうが得点は高かったと思う。大会によって得点の基準は変わってくるので......。今回を考えれば4回転もトリプルアクセルも飛んだ梨花ちゃんが上かなと思いました」

 冷静な表情で話す坂本は、今後の4回転やトリプルアクセルへの挑戦の可能性を聞かれると、堅実な考えを口にした。

「今以上を狙うには4回転は必要になってくると思うけれど、そればかりを考えてしまうと去年のように自分を見失ったまま、気持ちだけが先走ってしまう状態になると思う。今は現状を保ちつつ、プラスアルファで4回転の練習ができたらいいと思います」

 まずは自分のベースをしっかり固め、それを強固なものにしてから次を目指そうという思いだ。4回転に挑むための足元固めも、現在のジャンプ構成で合計を230点台に乗せれば、ほぼ実現したといえるだろう。次の段階へ向け、坂本は着実に進化している。