鷲見玲奈連載:『Talk Garden』 第5回ゲスト:高橋陽一(漫画家)第6回(対談後編)はこちら>>昨年から始まった…


鷲見玲奈連載:『Talk Garden』

 第5回
ゲスト:高橋陽一(漫画家)

第6回(対談後編)はこちら>>

昨年から始まった鷲見玲奈さんの対談連載企画もめでたく2年目に突入。これまでのゲストとは趣向を変えて、今回は、今年で連載開始からなんと40年!を迎えた『キャプテン翼』のマンガ家・高橋陽一先生が登場。現在も『キャプテン翼マガジン』(集英社)にて精力的に執筆を続けている。幼い頃から作品の大ファンだったという鷲見さん。先生を前に緊張気味に対談が始まった...。



『キャプテン翼』の作者・高橋陽一先生に、作品について聞いた鷲見玲奈さん

鷲見 『キャプテン翼』は父親が持っていたコミックを小学生の頃から読んでいました。今回はお会いできて本当に光栄です。

高橋 ありがとうございます。

鷲見 じつは私も兄の影響で小学生の頃からサッカーをしていました。家では自然と『キャプテン翼』を読むようになったのですが、必殺技をよくマネしていました。「オーバーヘッドキック」に「ヒールリフト」......翼くんのようにゴールポストを使って高く飛びながらシュートするのが夢でした。ついマネしたくなってしまうのですが、あのような技の数々は、どうやって考えつくものなのなんですか?

高橋 取っ掛かりは「こんなことができたら楽しいだろうな」という想像からです。実際にはできないのですが、できそうなギリギリの線をイメージします。マンガでなら描いても許されるであろう範囲を意識していますね。空手やプロレスなど、ほかのスポーツからインスピレーションが湧くこともあります。

鷲見 空手は、まさに若島津(健)くんの技に応用されていますよね。描く際に、実際に身体を動かしたりはするのですか。

高橋 動いたりはしませんが、イメージは膨らませます。例えばプロレスを見ていてすごいドロップキックを目撃したら、"今のフォーム、カッコよかったから今度描いてみよう"と感じたり。他のスポーツも同様の視点で観ています。

鷲見 例えば、急に身体が投げ出されるシーンでも、ちゃんとなぜそうなったかも描かれているので納得がいきます。技の発想ひとつとっても大変だと思うのですが、先生は1981年から連載を初めて2021年で40年目を迎えました。これだけ描き続けるパワーの源は、いったいどこからくるのでしょう。

高橋 若い頃は、若さに任せて自然とエネルギーが出ていましたが、最近はもう...絞り出している感じですね(笑)。

鷲見 40年にわたり、ずっと熱い闘いを描き続けてこられていますから。そのなかでも、特に思い入れの強い試合などはあるのでしょうか。

高橋 いつも、"次に描く試合が一番おもしろい"という気持ちで描いています。でも振り返ると、南葛中学と東邦学園の決勝戦(全国中学生サッカー大会)などは"描き終えることができたら死んでもいいや"くらいの気持ちで描いていましたね。ピークというと違いますが、最も情熱が集約されていたとなると、この試合かと思います。

鷲見 (大空)翼くんと、日向(小次郎)くんの、凄まじい一戦でしたよね。結果は引き分けでした。まさか!と思いました。

高橋 最初は同点にするつもりはなかったんです。翼が勝つ予定で描き進めていたのですが、日向があまりにも頑張っていたので、負けさせるのがかわいそうになって。それで同点優勝ということにしました。

鷲見 描いている途中でストーリーが変わることもあるのですね。あと今お話を聞いて思ったのですが、悪役と言えるようなキャラクターがいないですよね。その点は、先生のキャラクターへの優しい気持ちが反映されているのかと思っているのですが。

高橋 そこまで意識はしていないです。でも、自分の作るキャラクターに愛情はあります。だから、本当の意味で悪い奴は描いていないのかもしれません。

鷲見 私、以前は日向くんが好きだったんです。真っすぐなところがカッコよくて。それでいて、人から何か言われたことを素直に吸収したりする部分もある。ただの怖い人じゃない。ただ、今回改めて読み直してキーパーの森崎(有三)くんがすごくいいな、と思いました。

高橋 そうなんですか(笑)。

鷲見 すごくいい子ですよね。翼くんと一緒にサッカーボールを「もう怖がらないよ」と言っているシーンなど、かわいくてしょうがないです。最近では『キャプテン翼マガジン』に載っている『MEMORIES』という読切で、若林(源三)くんというレギュラーキーパーとして絶対的な存在がいて、彼から「レギュラーになりたいなら転校するんだな」と言われた時の返し。「GKが上手くなるための最高のお手本がいるんですもの」と断るところなど、「ああ、いい子!」と思いました。なんか、ただの告白みたいになっていて申し訳ありません(笑)。でも、大人になって読むとまた読み味が違うんです。

高橋 読む時期によって感想が変わるという話はよく聞きます。大人になって読み返したら、子どもの頃には気づかなかった点に勘づいたり。そういう感想をいただくことがあります。

鷲見 いただいた感想の中で意外に感じたものなどはあるのですか?

高橋 今連載中の『ライジングサン』の第2話で、翼が所属するバルセロナの優勝パレード中に、みんなで翼の家に回って早苗ちゃんに会いに行くシーンがあるんです。そこが好きだと、中村憲剛さんが対談した時に言っていて。サッカー選手で家族がいる立場ならではの視点なのかなと。それぞれの立場で読むと、また違った感慨があるのかもしれません。

鷲見 (中沢)早苗ちゃん、翼くんと結婚したんですよね。一方で今読み返すと時代を感じることもあります。小学生の時の全国大会の準決勝で、武蔵FCの三杉(淳)くんが、心臓病のことを翼くんには黙っていたのに、マネージャーが伝えていたことがわかってマネージャーの頬を叩きますよね。読み返して驚いちゃいました。

高橋 現在だったらそのようなシーンはないでしょうね。たしかに描いていた当時の時代性が作品には現れているのかもしれません。

鷲見 マネージャーといえば、女の子のキャラクターもたくさん登場します。少し控えめなキャラクターが多い気がするのですが、先生の好きな女性像が描かれていたりするのでしょうか。心なしかショートカットの子が多い気もするのですが。

高橋 武蔵FCマネージャーの(青葉)弥生ちゃんはロングですけどね。でも、たしかに当時、ショートカットは好きだったかもしれない(笑)。描いている時の自分の想いに引っ張られることはあります。

鷲見 選手から女の子に至るまで、様々なキャラクターが次々と生み出されています。例えばライバルキャラクターの誕生秘話などはあったりするのでしょうか。

高橋 まず大空翼という主人公がいて、ライバルとして闘わせたらおもしろくなりそうなキャラクターを考え続けて増えていった感じです。FWの翼に対してGKの若林、柔の翼に対して剛の日向、というように。さらに家庭環境なども対比的にしたり。同じ天才でも三杉は少しハンデを持っているとか。その連続で「次、翼と対戦させるとしたらどのタイプがおもしろいかな」と考えていきます。

鷲見 『キャプテン翼マガジン』では、オリンピックで金メダルを目指す最新シリーズ『ライジングサン』が連載中です。作品中のマドリッドオリンピックでは、日本が準々決勝まで進んで、遂にドイツ戦が日本の勝利で終わりましたね。もう選手みんながボロボロです。救急搬送される選手も続出で「大丈夫?」と心配になります。

高橋 そうですね。決勝戦みたいでした(笑)。それこそ、南葛中対東邦学園の決勝戦に負けないように、という気持ちで描きました。

鷲見 気になるのは今後です。これだけ衝撃的な熱戦の後になりますが、読者のみなさんが気にするところだと思います。

高橋 僕もどうしようか、と思ってます(笑)。でも、計算はしています。話のベースはなんとなくありますが、実際に描いていくとそれこそ南葛中対東邦学園みたいに変わっていったりするので。自分でもどうなるのか、楽しみにしているところはあります。

鷲見 それこそ、際立たせたいキャラクターなど構想はありますか。例えば、石崎(了)くんは翼くんが引っ越してきて以来ずっといっしょですよね。気づけばオリンピック代表にまで上り詰めていて。SB(サイドバック)としてディフェンスだけでなく、今や攻撃でも貢献できるようになっているところに成長を感じています。

高橋 石崎はたしかに成長していますよね(笑)。準決勝に関しては、対戦するスペインにミカエルというキャラクターがいます。ずいぶん前から登場させているので、彼の魅力をいかに出せるか、を考えています。スペインらしいサッカーも描きたいと思いますが、まずは純粋に翼とミカエルの1対1を描きたいですね。

鷲見 例えば日本のテレビ中継だと、どうしても日本寄りの放送になります。一方で、先生の作品は日本と対戦する海外のチームや選手も魅力的に描かれるのがすごいです。スペインを描かれるのは初めてですが、ここまで温存していたのですか。

高橋 決してそういうわけではないです。ただ、スペインのリーガは一番好きなリーグなのでずっと見ていますし、ワールドカップや欧州選手権(EURO)で優勝して結果も残しています。もともと注目されていましたが、最近は特に注目されるようになりましたから。

鷲見 現在はオリンピックでの激闘を描かれていますが、今後の構想まで考えられていらっしゃるのでしょうか。翼くんが監督になるとか、もしくは、今早苗ちゃんが双子を宿していますが、子どもたちが成長していく姿を描きたいといった構想は?

高橋 構想があるわけではないのですが、たしかに翼くんの子どもたちはサッカーしそうですよね。翼と岬を超える、すごいコンビになりそうです。翼には弟の大地くんもいますから。大地がちょっとベテランに差し掛かる頃に、双子がチームに加わってきて...。かなり強いことになりますね(笑)。

鷲見 それはすごく見てみたいです。翼くんは、ゆくゆくはやはり監督になるのでしょうか。夢はどこまでも膨らみます。

高橋 話の流れとしてはそうなっていくのかもしれません。ただ、実際にマンガを描くのはものすごく時間がかかるので。翼が監督になる頃まで僕の体力があるかどうか(笑)。そこまでは描けないかもしれません。

鷲見 そうですよね。逆に40年も描き続けられている先生が心配です。これだけ長く描く秘訣として、マンガを連載していく中でのルーティンなどはありますか。

高橋 僕の場合はスポーツマンガを描いていて、激しい闘いやキャラクターの「負けない」という強い気持ちを描かなければなりません。なので、できるだけ自分の体が疲れていない時に描くようにしています。少し寝不足の時に重要な作業はせず、しっかり寝てコンディションを整えてから原稿用紙と向き合うようにしています。まずは身体を整えてから、ということは心がけています。

鷲見 まさにアスリートですね。先生自身は様々なスポーツをされていますよね。そういえば、『MEMORIES』の中で、翼くんが頑なに野球を拒んでいるシーンがありました。あのシーンは印象的でした。

高橋 僕は、もともと野球少年だったんですけどね(笑)。

鷲見 最近ではフットゴルフやパデルをされていると聞きました。フットゴルフは、先生が監修されたコースで私もプレーしましたが、パデルとはどのようなスポーツなのですか。

高橋 スペインではとても人気のあるスポーツです。テニスとスカッシュを合わせたようなイメージで、壁で囲まれたコートの中でテニスをするスポーツと言ったらよいでしょうか。

鷲見 先ほどの話にも関係してきますが、パデルをしている最中にマンガに取り入れる技など、インスピレーションが湧いてきたりすることはあるのですか。

高橋 パデルではありませんかね。ですが、どうやって相手を崩すか戦術を組み立てたりと、動きながらいろいろと考えなければいけないので。そういう意味では頭を使っているかもしれません。

(つづく)

Profile
高橋陽一(たかはし・よういち)
1960年7月28日生まれ。東京都出身。
1981年から連載を開始した『キャプテン翼』が
大ブームとなり、現在のJリーグなどの
サッカー人気に多大な影響を及ぼす。
現在も『キャプテン翼マガジン』(集英社)で
精力的に執筆中。次回は2月4日に発売予定。

鷲見玲奈(すみ・れいな)
1990年5月12日生まれ、岐阜県出身。
趣味:サッカー、動物と触れ合うこと、愛鳥を愛でる
特技:ハンドスプリング、詩吟
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