守護神たちの光と影(2) (1)を読む>>  過去20年、世界最高ゴールキーパーの座をイタリア人ジャン・ルイジ・ブッフォ…

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 過去20年、世界最高ゴールキーパーの座をイタリア人ジャン・ルイジ・ブッフォン(ユベントス)と争ってきたスペイン人イケル・カシージャスは、GKとして理想的な経歴を歩んだと言えるだろう。

 名門レアル・マドリードの下部組織で育ち、至高の技術を身につけ、10代でトップチームでデビュー。若くして守護神として崇められ、クラブに栄光をもたらし、スペイン代表でも頂点を極めて伝説となる。最後は異国のポルトで尊敬されながら、GK人生を全うした。

 なぜ、カシージャスはその位置に到達できたのか?

「GKとして心がけていることは?」

 筆者は昔、そんな質問を投げかけたことがあった。

「何が起こっても動じず、"落ち着いて見える"というイメージを意識的に出そうとは思ってきた。実際に落ち着いているかどうかは関係ない。GKも人間だからミスはあるわけで、泰然として振る舞う姿を敵にも味方にも見せることが大事。さもなければ、つけ込まれるし、侮られるからね」

 その不動心は、欧州や世界の頂点に立ち続けた守護神ならでは、だったのか。

 もっとも、カシージャスのような筋書きでGKとしてのキャリアを送れる選手はごく少数だろう。

 多くのGKは、たったひとつのポジションをつかむために四苦八苦する。出場機会を求め、そこで己の実力を見せつけ、ようやく正GKのポジションを得るが、ポカひとつで強烈なバッシングに遭い、ポジションを失って一からのスタートになる。峠を乗り越えるようにして力をつけ、ようやくGKとして尊敬されることになるのだ――。



2017-18シーズンからマジョルカでプレーするマノーロ・レイナ

「どこであっても、チームのためにゴールマウスを守り続ける。GKはそれだけだよ。失点を0に抑えられたら、単純にうれしい」

 リーガ・エスパニョーラ2部マジョルカのGKであるマノーロ・レイナ(35歳)は、GKのあり方を簡潔に答えていた。

 マノーロは昨シーズン、久保建英(ビジャレアル)が所属したマジョルカで際立ったセービングを見せていた。落ち着き払ったゴールキーピング。それは経験を重ねることで身につけたものだった。

 筆者が話を聞いた2015-16シーズン、マノーロは2部ヒムナスティック・タラゴナでプレーしていた。当時、同チームには鈴木大輔(浦和レッズ)が所属。そのルポ取材で訪れていたわけだが、GKの"流転の経歴"には目を引くものがあった。

 マノーロはアンダルシアの雄であるマラガの下部組織で育ったが、経験が浅くトップチームに定着できないと知る。そこでレバンテのBチームで出場する道を選び、トップ昇格の足掛かりを作る。そしてレバンテでは4シーズン、1部と2部でゴールを守った。その座が脅かされるや、2部カルタヘナへ移籍し、再びスタメンを確保する。挑戦に飽き足らず、キプロス、ギリシャに打って出るものの、そこで挫折し、2部B(実質3部)タラゴナで再出発。すると、たった1シーズンでタラゴナを2部へ昇格させ、次のシーズンには1部昇格プレーオフを争うまでになった。

「不屈のキャリアですけど、どんなGKが理想ですか?」

 そう訊ねた時、マノーロは明るい声で答えた。

「理想なんかよりも、今を楽しむことしか考えていないよ。どうなるかなんて考えても、そうなるものではない。サッカーはそういうスポーツで、何が起こるかわからないからね。充実した今を過ごすだけだ」

 究極的な享楽の発想だった。過去でも、将来でもない、今のみに真実がある。今の積み重ねが、自分なのだ。

 今を追求してきた道のりは、振り返ると平坦ではない。しかし、へこたれずに挑むことで、光射す舞台にも出られた。

 2017-18シーズン、マノーロは当時2部Bマジョルカに入団し、最少失点でチームを2部へ昇格させた。2018-19シーズンには最後の番人として立ちはだかり、1部へ上がった。そして昨シーズンは、豊富な経験で身につけた技量を見せつけた。容易にボールをこぼさなかったし、反応は俊敏で、パンチングも強かった。結局、2部降格を回避させることはできなかったが、今シーズンは昇格を争うチームで最後の砦となっている。

 ピッチに立つ姿には、守護者の重厚さが映る。

 もっとも、マノーロ自身、強面というわけではない。若いころ、今の奥さんと恋人時代の話だ。ふたりはデートで、海沿いをドライブしていた。マノーロはロマンティックな気分に浸りたくなって、ふたりきりになれるように、車で砂浜を突き進んで行った。ところが、行きすぎたのか、タイヤが砂にはまってしまい、車がどうにも動かなくなる。仕方なく、レッカー車を要請。ロマンスどころではなかったという。

 行き詰まって失敗するのも、GKの糧となるか。

「それは、おっちょこちょいなだけだよ」

 マノーロはそう言って、笑みを洩らしていた。
(つづく)