12月25日、全日本フィギュアSPを滑る羽生結弦 12月25日に開幕した全日本フィギュアスケート選手権、男子ショート・プログラム(SP)の26番滑走となった羽生結弦の新プログラムは『レット・ミー・エンターテイン・ユー』。イギリスのシンガー、…



12月25日、全日本フィギュアSPを滑る羽生結弦

 12月25日に開幕した全日本フィギュアスケート選手権、男子ショート・プログラム(SP)の26番滑走となった羽生結弦の新プログラムは『レット・ミー・エンターテイン・ユー』。イギリスのシンガー、ロビー・ウィリアムスの曲で、羽生にとって『レッツ・ゴー・クレイジー』以来4シーズンぶりのロックナンバーとなった。

 ジャンプ構成は、4回転は"付き合い"の長いサルコウとトーループで、最後はカウンターからのトリプルアクセル。見どころを聞かれ、「(観客に)何か、湧き上がるような感情があればうれしい」と話していたアップテンポなプログラムだ。

 新型コロナウイルスが蔓延する中、グランプリ(GP)シリーズ出場を断念した羽生は、この大会がシーズン初戦。そこにSP、フリーとも新プログラムで挑むことになった。ジャンプの難度を上げるのではなく、まずは慣れたジャンプでこれまで以上に完成度の高い演技を目指そうとの方針だった。

 25日午前の公式練習からその姿勢が垣間見えた。曲かけ練習では、最初の4回転サルコウがパンクして2回転になりながらも、次の4回転トーループ+3回転トーループを決めた。スピンは飛ばしてトリプルアクセルを跳び、滑り出しからジャンプとジャンプの間のつなぎは複雑で難度の高いものにしていた。2分57秒間、すべての要素をアップテンポな曲調に乗せて流れるような演技にしたいという思いがうかがえた。

 本番のSPで、羽生は滑り出しから「魅せる演技」をした。4回転サルコウはやや前につんのめるような着氷になり、次の4回転トーループ+3回転トーループもセカンドジャンプの着氷からの流れが少し悪かったようにも見えたが、演技自体の流れはよどまなかった。複雑なつなぎを存分に楽しみながら、冷静な部分もあるように見えた。



ロックの新プログラム『レット・ミー・エンターテイン・ユー』を披露した羽生

 トリプルアクセルもきれい決めると、プログラムがさらに盛り上がってくるなか、スピンやステップシークエンスも余裕を持ってこなし、最後はコンビネーションスピンで締めくくって笑顔を見せた。

 得点は103.53点。2位の鍵山優真に4.97点をつけて首位となったが、羽生としては予想外に低い得点だった。

 羽生は演技後にこう話した。

「正直楽しむことはできたと思うが、点数的にはいい点だったとは言えない内容。明日(26日)に向け、修正して臨みたい」

 羽生は、得点が伸びなかった要因をテクニカルの問題と分析。冒頭の4回転サルコウや連続ジャンプのセカンドに不満を持っていた。

「自分のジャンプは出来栄え(GOE)を取ってナンボなので、しっかりつけられなかったのが課題だなと思います」

 だが、その後にジャッジスコアが出ると、羽生が納得していなかった2本のジャンプは3.05点と2.99点の加点を取っていたが、チェンジフットシットスピンが構成要素として認定されず0点になっていた。現状では、大会側からの正式発表はないが、シットスピンをレベル4にするために、足換えの前と後でそれぞれ2種類のシットポジションで回った中で、回転数が足りないポジションがあると判定されたのかもしれない。本人にとっても予想外の結果だった。

 羽生は新プログラムのSP曲を選んだ理由を説明した。

「曲は(振付師の)ジェフリー・バトルさんが選んでくれたけれど、最初はピアノ曲を探していたんです。でも、ジェフリーさんもなかなかうまく決められなくて。候補曲を2、3曲渡されましたが、自分の中でしっくりくるものがなかった。

 世の中の状況を見ている中で、皆さんは(コロナ禍の)辛い中でもスケートをさせてくださるのだと思った。だから明るい曲を選んで、ちょっとでも明るい話題になったらいいなと考えました」

 カナダにいるバトル氏と連絡を取ることは時差もあって難しい部分もあったが、なんとかプログラム作りを進め、振り付けは自分でも手がけたという。そして、羽生は「いろいろなものを加えようとしていたし、いわば、全部が見どころみたいにしようと思ったりもした」との"欲"も持ったと振り返る。同時に、ジャンプとの兼ね合い、観客が呼吸できる場所、心から乗り切れるような芸術性を考えながら振り付けを決めたという。

 SPの羽生の滑りを見ていて、そうした思いが端々に見えた。演技途中には観客の気持ちをあおるように拍手を求めたり、アピールする動作も見せていたが、それは観客と一体になりたいとの思いも込めたものだった。会場全体で、ともに明るく楽しめる空間を作り上げようとしていたのだ。

 今回のSPは、自分が思う演技をしっかりしながらもスピンのミスがあり、ジャンプも納得がいくものではなかったが、フリーへ向けて羽生はこう語って前を向いた。

「ジャンプは全部しっかり降りている。出来栄えとしてはいいものではなかったと思うけれど、もうちょっとウォーミングアップの仕方とか、6分間練習の配分を工夫していけばいいと思います。いい練習はしてきているので、明日(26日)はまとまった演技をしたいと思います」

 フリーの新プログラム『天と地と』にも注目が集まる。