2020年2月の四大陸選手権で演技する羽生結弦 新型コロナウイルス感染拡大を受け、2020年8月、グランプリ(GP)シリーズの欠場を表明した羽生結弦。その後、無観客や観客の人数制限など感染対策を講じたうえで国内大会が開催される中、羽生は12…



2020年2月の四大陸選手権で演技する羽生結弦

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、2020年8月、グランプリ(GP)シリーズの欠場を表明した羽生結弦。その後、無観客や観客の人数制限など感染対策を講じたうえで国内大会が開催される中、羽生は12月25日から長野市で開催される全日本フィギュアスケート選手権を今シーズンの初戦とすることにした。

 全日本では、まだ発表されていない新プログラムをお披露目する可能性がある。9月には卒業論文を完成させ、早稲田大学人間科学部通信教育課程を卒業。その後は練習に集中し、4回転アクセルへの取り組みも進んでいることだろう。だが試合数を積めていない今の状況を考えれば、初戦でいきなりその大技を入れてくる可能性は小さいだろう。

 昨シーズンの羽生は、GPファイナル、全日本選手権は2位に終わったが、4年ぶりに出場した四大陸選手権で初優勝を果たし、男子史上初となる主要6大会全制覇の「スーパースラム」を達成した。

 この大会では、プログラムをそれまでのショートプログラム(SP)『秋によせて』とフリー『Origin』から、『バラード第1番』と『SEIMEI』に戻した。歴代世界最高得点を連発し、平昌五輪で五輪連覇を達成したふたつのプログラムだ。

 羽生にとって、『秋によせて』と『Origin』は自身が小さい頃に憧れたジョニー・ウィアーとエフゲニー・プルシェンコがそれぞれ使用していた楽曲で、彼らへのリスペクトの意味も込めて挑戦し、完成間近まできていた。だが、理想の完成形はふたりの背中を追いかけているものであり、「自分のプログラムではないのではないか」とも感じていた羽生は、より自分らしく演技できるプログラムとして、変更を決断したのだ。

 そこで羽生は、ひとつの確信を得た。ノーミスで滑った四大陸選手権の『バラード第1番』は、自身の世界最高記録を更新する111.82点の演技になった。羽生は演技後に納得の表情を見せていた。

「これまでの『バラード第1番』の中で、一番良かったと思っています。『秋によせて』を演じたからこその表現の仕方や深みも出せた。何より曲をすごく感じながら、クオリティーの高いジャンプを跳べたことも、このプログラムならでは、と感じています」

『秋によせて』を滑っている際、たびたび口にしていたのは、「ジャンプをどう跳ぶか」ということだった。静かな曲調の中では余韻を持たせるように静かに跳び、強い音の場面では力強いジャンプを跳ぶ。難度の高いジャンプであろうと、ただ跳ぶだけでなく、曲に合わせた表現のひとつと考えていたのだ。

 そして、四大陸選手権のSPでは、ジャンプを含めて最初から最後まで流れが途切れない滑りを実現させた。「シームレス」と羽生自身が表現する演技だった。フリーはミスがあり、それを再現することができなかっただけに、次戦となるはずだった3月の世界選手権はSP、フリーともに、シームレスな演技を目指していた。

 しかし、コロナ禍で2020年の世界選手権は中止に。それから約9カ月、全日本の舞台で、追求してきた演技を目指してくるだろう。

 羽生はこれまで、シーズン初戦は納得できない演技が続いた。それは、長いシーズンを視野に入れたうえでの戦いという面もあるだろう。だが、今季はコロナ禍で先が読めない状況。2021年3月の世界選手権の開催は決定していない。だからこそ全日本は、すべての意識を集中して臨む大会になる。羽生はいち早くGPシリーズ欠場を決めたことで、開催可否がわからない各大会の状況に心を惑わされることなく、やるべきことに集中する環境を自ら作り出していたと言えるだろう。その心中には全日本を初戦とする思いが最初からあったように思う。

 例年のようなハードスケジュールの転戦を経ての全日本ではなく、十分な準備期間を取り、心身ともにリフレッシュした状態で臨めるだろう。そうした中、羽生がどのようなジャンプやスピン、ステップを見せてくれるか。また、新プログラムを披露することになれば、羽生がどのような道を今後目指しているのかが、見えてくる。注目である。