2020年のセ・リーグを2位で終えた阪神。矢野燿大監督体制になって2年連続でAクラスに入ったが、1位の巨人とは大きく差…
2020年のセ・リーグを2位で終えた阪神。矢野燿大監督体制になって2年連続でAクラスに入ったが、1位の巨人とは大きく差をつけられ、優勝争いをすることはできなかった。
阪神のレジェンドOBである赤星憲広氏は、今年の戦いをどう見ていたのか。力をつけている点と、課題である守備についても言及した。

2020年の最終戦を終え、ファンに挨拶する矢野燿大監督
──あらためて、阪神の2020年シーズンはいかがでしたか?
「順位としてはリーグ2位でしたが、独走を許した巨人が日本シリーズでソフトバンクに大敗したことで、ファンの中には『なんであの巨人に勝てなかったんだ』と思う方もいるでしょうね。ただ、これはすべての選手に言えることですが、コロナ禍で調整が難しい中でよく頑張ったと思います。
成績が落ちてしまっても仕方がない状況で、今シーズンに好成績を残した選手は"ザ・プロフェッショナル"。3カ月近く開幕が遅れ、オールスターもない過密スケジュールでしたから、私が現役選手だったら打率.250を残すのも難しかったでしょうね(笑)」
──チーム内で印象に残った選手は?
「昨年よりも成績を上げた、大山(悠輔)選手と近本(光司)選手の2人でしょう。調整困難なシーズンでもケガなく、シーズンを通して1番と4番で活躍を続けられたことが何よりすばらしいです」
──来シーズン、チームキャプテンになる大山選手は打率.288、本塁打28本とキャリアハイ。なぜ飛躍できたのでしょうか。
「(ジャスティン・)ボーア選手と(ジェリー・)サンズ選手がいてくれたことが大きいですね。これまでは、彼が攻撃面の期待と結果をすべて背負う形になり、もがき苦しんでいる印象がありましたが、両外国人にプレッシャーが分散されました。
チームの若き4番打者が成長するには、前後の打者も重要です。巨人の岡本和真選手がいい例で、坂本勇人選手と丸佳浩選手がいたからこそ、今や日本を代表する打者にまで成長できたんだと思います。来シーズン、独り立ちした大山選手がどんな活躍をしてくれるか楽しみです」
── 一方で、投手はいかがでしょうか。
「ともに11勝を挙げた秋山(拓巳)投手、西(勇輝)投手の頑張りが目立ちました。特に秋山は防御率2.89でキャリアハイ。決して球速が速い投手ではないですが、それで結果を残せたことは自信になったでしょう。また、青柳(晃洋)投手は7勝9敗で貯金こそ作れませんでしたが、1年間ローテーションを守ってくれました。
その先発3本柱と、昨シーズンほどの盤石さではなかったものの、リリーフ陣も奮闘しました。シーズン前から、巨人に対抗できる戦力があるとしたら阪神だと思っていたので、リーグ2位という順位自体は妥当だったと思います」
──それでも巨人に大きく差をつけられてしまった理由は、やはりエラー数リーグワースト(83個)の守備でしょうか。
「それに尽きます。昨シーズンからの大きな課題でしたが、改善は『失敗した』と言わざるを得ません。動きに向上が見られたのはショートの木浪(聖也)くらいでしょうか。巨人のエラー数(43個)の2倍近い数字ですけど、数字になっていない小さなミスも多く、それで接戦を落とすことが目立ちました。
エラーの話をする時に『阪神は本拠地の甲子園が土のグラウンドだからしょうがない』という声がありますが、なんの言い訳にもなりません。むしろ甲子園に慣れているほうがエラー数は少ないはずですし、他球団のホームでも阪神の守備陣はミスが多い。練習の仕方を再考しないといけませんね」
──今シーズンは、藤川球児さんが引退し、能見篤史投手がオリックスに移籍と、ベテラン投手2人が阪神を去りました。
「球児はプレーだけでなく、チームメイトに対して自分の考えを伝え、互いに成長するためのコミュニケーションが取れる投手でした。BCリーグから阪神に復帰してからの5年間、彼の言動を見てきた若い投手たちが"藤川イズム"を継承してくれていると信じたいです。
能見投手は先発、ここ数年はリリーフでも活躍しました。彼も発信力が高い投手でしたね。ポーカーフェイスなのでクールに思われがちですが、彼はけっこうおしゃべりなんですよ(笑)。阪神での最後の登板で投じた150キロ前後のストレートからは、『まだまだ行ける』という気持ちを感じましたし、オリックスでも頑張ってほしいです」
──野手では、福留孝介選手も古巣の中日に復帰。この3人が抜けたことは、チームに大きく影響するんじゃないでしょうか。
「先ほどの2人同様、寂しいというか、もったいない。福留選手も言葉でチームメイトを鼓舞できる選手でしたから。それはベテランだからできるわけではなく、元からの資質によるところが大きいので、すごくそういった選手は貴重なんですよ。
そんな3人が一気に抜けてしまうのは、正直なところ不安です。他の選手たちは、どこかで甘えていた部分もあるんじゃないかと思います。彼らがいなくなったあとに本領が発揮できるのか。来シーズンはチームの真価が問われますね」
──逆に新たに加入する選手として、今年のドラフト1位・佐藤輝明選手の印象はいかがですか?
「近畿大学時代に何回かプレーを見る機会がありましたが、プロで活躍できるかは未知数です。ただ、遠くに飛ばす能力はすごいですし、187cmと大柄なわりに器用さも感じます。守備に関しても、外野とサードだけでなく、二遊間もこなせると大学の監督も太鼓判を押しているようですね」
──数年は、複数のポジションを経験させて適性を見たほうがいいのでしょうか。
「僕の個人的な意見ですが、佐藤選手にはひとつのポジションで勝負させてあげてほしいな、と思います。彼に一番期待されているのはバッティングですから、それに集中できる環境でやらせるほうがいいんじゃないかと。矢野(燿大)監督は外野で考えていることを明言しているので、レフトかライト、内野ならばファーストでもいいかもしれません。
ただ、サードだけは避けるべきです。1年目から佐藤選手を起用するとなった場合、現サードの大山選手を別のポジションに移す必要があるからです。今シーズンの途中で、ケガから復帰したばかりの(ジェフリー・)マルテ選手をサードで起用したことにも違和感がありましたが、ルーキーのために"チームの顔"がポジションを譲ることがあってはいけない。佐藤選手本人がサードに強いこだわりがあるなら、競い合わせながら成長させてもいいと思いますが」
──チームにさまざまな変化がありましたが、来シーズンの阪神に期待することは?
「西(純矢)投手や及川(雅貴)、野手では井上(広大)選手といった、あと1、2年したら台頭してきそうな選手が育っていることは期待感があります。そこに佐藤選手が入って一層の活気づくでしょう。
春季キャンプでは、守備の強化を徹底してほしいです。極端な話ですが、『第一クールは守備練習しかしない』といった方法も、チーム全体の意識を変えることも含めてアリだと思います。現在はエラーが大きく取り上げられ、萎縮して"待つエラー"が増えてしまっている。それを、足を動かした上での"攻めるエラー"に変えるだけでも進歩と言えます。
今シーズンは打撃もよかったですが、チーム防御率(リーグ2位の3.35)を見ても、今の阪神は守り勝つのが理想のチーム。守備に関しては、やればやるほど成功率を9割、10割に近づけられるジャンルです。その確率さえ上がれば、来リーズンはもっと巨人と競り合うことができ、優勝も視野に入ってくると思いますよ」