チャレンジである。先手必勝である。大学王者の早大が2週間前の明大戦とは違い、立ち上がりから、先に先に仕掛け続けた。攻めに攻める。前半20分で3トライを奪取。ライバル慶大を29-14で下し、ラグビーの全国大学選手権準決勝に駒を進めた。慶大戦…

 チャレンジである。先手必勝である。大学王者の早大が2週間前の明大戦とは違い、立ち上がりから、先に先に仕掛け続けた。攻めに攻める。前半20分で3トライを奪取。ライバル慶大を29-14で下し、ラグビーの全国大学選手権準決勝に駒を進めた。



慶大戦でトライを決めた早大のスーパールーキー伊藤大祐

 19日の東京・秩父宮ラグビー場、準々決勝だった。早大のゲームテーマが「ファースト(最初に)」と「仕掛け続けること」だった。だからだろう、早大選手には挑みかかる気概に満ちていた。

 とくに初先発の伊藤大祐である。昨季、神奈川・桐蔭学園高で主将として高校日本一に輝いた大物ルーキー。この日はチーム事情から、急きょ、センター(CTB)に入った。

 試合直前のロッカールームのことだった。早大・相良南海夫監督が伊藤に声をかけた。

「どう、緊張している?」

「ちょっと緊張しています」

「思い切ってやればいいよ」

 早大キックオフで試合が始まった。慶大のハイパントをロック(LO)下川甲嗣(かんじ)がナイスキャッチ。慶大ゴール前に攻め込み、背番号12の伊藤が、前に出るプロップ(PR)のサポートに寄る。

 前半5分、スクラムから主将でナンバー8の丸尾崇真が右サイド攻撃を仕掛け、持ち前のダッシュで右隅に先制トライを挙げた。その後、伊藤はパスを受けてはタテを突き、相手にも猛然とタックルしスローフォワードを誘う。

 早大が1トライを追加した後の前半20分だった。中盤あたりで、慶大の持つボールをフランカー(FL)相良昌彦が早大側にうまくはじき落とした。

 このこぼれ球をさっと拾ったのが、アカクロジャージーの背番号12だった。目の前の慶大選手2人の間のスペースを鋭く突き、前傾姿勢から一気にダッシュする。相手の姿が見えなくなると、アングルを少し変え、まっすぐ走りだした。ぐんぐんスピードに乗る。約55mを走り切り、ポスト下のど真ん中にボールごと滑り込んだ。ゴールも決まり、早大がリードを17-0にひろげた。

 この嗅覚、この瞬間ダッシュ、このスピードの伸び。立ち上がると、伊藤は破顔一笑、チームメイトから祝福を受けた。記念すべき初先発初トライ。天賦の才だけでなく、やはり何かを"持っている"。

 試合後のオンラインの記者会見。伊藤は不参加だったが、相良監督は「期待以上というか、期待通りの活躍をしてくれたんじゃないかなと思います」と褒めた。

「のびのびと、しっかりとボールキャリーで力を発揮してくれました。初先発でトライを取り切る。非凡さを見せてくれました」

 伊藤に関する記者の質問が相次ぐ。「スタメン(先発)で起用した意図は?」と聞かれると、相良監督は「とくに特別な意図はないですけど」と苦笑した。

 伊藤は179cm、85kg。夏場に太もも肉離れを起こし、戦列から離れていた。だが基本技術を確認し、大学のゲーム運び、ボールを持たない時の動きなどを研究していた。とことん考え、鍛え、自分のプレーを磨く。

 ケガから復帰し、大学デビューは関東大学対抗戦・慶大戦の終盤、8分間ほどだった。だが、数10mライン際を快走し、光り輝いた。その時の自己採点は「50点ぐらい」と手厳しかった。先の早明戦でも後半の終盤に交代出場。ボールタッチが少ない上にハンドリングミスも犯し、敗戦に悔しさを募らせた。

 福岡県久留米市出身。小学校からラグビースクールに通い、力をつけてきた。高校を地元の強豪の東福岡高ではなく、関東の桐蔭学園高に進学したところに志の高さを感じる。

 伊藤は「目標は日本代表」と口にする。相良監督は伊藤をこう、評したことがある。

「もちろんプレーは非凡なところがあるけど、一番いいところは"高み"を見ているところじゃないですか」

 1年生が躍動すれば、他の選手も勢いに乗る。相良監督が前日、選手に掛けた言葉は「チャレンジ」だった。早大の歴史は概して、からだの小さい者が大きい者に挑み続ける挑戦の連続だった。それがチーム文化でもある。

 早大は、明大戦で苦しんだラインアウトも改善した。慶大がサインを変えてきても、早大はうまく対応した。とくにゴールライン前のピンチ。下川を軸にプレッシャーをかけて慶大のミスを誘い、相手得意のモールを許さなかった。丸尾主将は「4年生を中心にBチームがいい研究をしてくれた」とチームメイトに感謝した。

「試合中もコミュニケーションをとり続けられました。相手の反応をしっかり見て、どうするかまで話してやれた。ゴール前も、やろうとしていたディフェンスとは違っても、現場の判断で対応できました」

 スクラムも組み勝っていた。勝負どころのブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)では激しく、先に先に仕掛けた。とくに倒れては立ち上がるスピード、二人目のスピードと強度で優位に立った。バックスも大きく回し、槇瑛人、古賀由教の両ウイング(WTB)が快足を飛ばした。それにしても、センター長田智希のパスプレーの巧みさよ。

 もっとも、後半は慶大の反撃に早大の勢いが止まった。接点で後れをとり、プレーの精度、規律が甘くなった。

 昨季と同じく、早明戦で敗れたあと、早大は大事なチャレンジ精神を取り戻した。次の準決勝(2021年1月2日・秩父宮ラグビー場)の相手は難敵・帝京大。まずは接点、ブレイクダウン勝負となる。

「先を見ず、帝京に勝つために一日一日積み重ねて、ぶつかりたい」

 丸尾主将は言葉に力を込めた。早大は対抗戦グループでは45-29で帝京大を圧倒した。だが、今度は互いのチーム状況やマインドの持ち様が違う。

 どのチームもまだ成長途上だろう。今季のチームスローガンが『BATTLE』、いわば闘争だ。日々の練習からチャレンジできるかどうか、攻めるマインドに徹することができるどうかが大学連覇のカギとなる。