【堀越高校サッカー部“ボトムアップ”革命|第2回】練習メニューは選手が作成も、指導者が適切にサポート 選手主体のボトムア…

【堀越高校サッカー部“ボトムアップ”革命|第2回】練習メニューは選手が作成も、指導者が適切にサポート

 選手主体のボトムアップ方式を掲げる堀越高校にとって、今年は活動内容の充実に止まらず、十分に結果も狙えるチーム作りができていた。そしてその土台を築き、置き土産として残していったのが昨年の卒業生たちだった。佐藤実監督が語る。

「昨年の卒業生たちが、今年のチームに対してもしっかりと当事者意識を持ち、ここをもっと突き詰めれば良くなるという明確な課題を残していってくれた。だから今年は、それをなぞりながら磨きをかけていけば良かったんです」

 2020年が明けて新チームがスタートする時に、部内では指導スタッフから提示されたゲームモデルを共有した。

「表現したいサッカーがあり、それを実現するためのトレーニングがある。こういうトレーニングをしてきたから、こんな試合になるというプロセスをしっかり作っていきたかったんです」

 佐藤は、トレーニングと試合がきちんと紐づいているように、と強調した。当たり前のように響くが、なかなかそれが実践されていないのが高校に限らず部活の実状である。

「どうしても勝負がかかると、大人が選手の嗜好を差し置いて『おまえたちは、こうなんだ』と押しつけがちになる。その結果、トレーニングでやっていることと、試合の環境がまったく変わってきてしまうことがあります。そうではなくて、トレーニングで積み重ねてきたことを試合で発揮する。失敗するにしても、成功するにしても、そこが大事だと思ったんです」

 トレーニングメニューを作成するのは選手たちだ。ただしあくまでボトムアップ方式が放任と異なるのは、指導者が適切なタイミングでサポートにいくところで、むしろ監督主導の上意下達以上にプロフェッショナルなレベルの知識、見識が必要になる。

「どうしても選手たちが考えたトレーニングだと、やっていて楽しいポゼッションなどに偏りがちになる。でもいざ試合になれば、相手はこちらの嫌がることをやってくる。長いボールを入れ、セカンドボールを狙い、ロングスローも含めてリスタートも工夫してくる。自分たちが楽しいことをやっているだけでは結果はついてこないよ、という話はしました。その結果、ヘディングの競り合いや、セットプレーでの守備、セカンドボールの対応などの準備もしてきたつもりです」

都大会決勝のゴールに見えた選手の「プレーを選ぶ力」の成熟

 選手の自主性は尊重する。ただしゼロから積み上げていくのをただ見守るだけではなく、選手たちの意見を汲み取りながら、その背景にはスタッフ同士の侃々諤々の論議もある。

「今チームでは毎週1回全体ミーティングを開き、全員が課題を可視化できる状態になっています。チームはA1とA2に分かれ、それぞれトレーニングの強度や技術に違いはありますが、上はキャプテンから下は新入生まで描く絵が異なるということはありません」

 例えば高校サッカー選手権・東京都大会のブロック決勝でゴールを生み出したのも、ゲームモデルで提示してある得点パターンだったという。

「攻撃のパターンも選手たちがゼロから編み出すというよりは、提示されたパターンの中から選手たちが選択しています。ただ[1]というパターンを提示してあったとしても、それを[2][3][4]へと広げていくのはピッチ上の選手たちです。それに都大会決勝という舞台で、高校生たちがそれを表現できるのは、深く理解し日常から相当やり込んでいるからです。

 いくらトレーニングで積み重ねてきても、いざ試合になれば蹴り合いに終わってしまうなんてこともありがち。僕らが提示しただけでは、あそこまではできない。彼らのプレーを選ぶ力が成熟していた証拠ですよ」

 佐藤自身が「今年勝てなければ、この先10年間は(勝て)ないよ」と言い続けてきた。そんな“自信作”が29年ぶりに歴史の扉を開いた。(文中敬称略)(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近東京五輪からプラチナ世代まで約半世紀の歴史群像劇49編を収めた『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』(カンゼン)を上梓。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。