武術太極拳で世界一!女優・山本千尋インタビュー(後編)★インタビュー前編はこちら>>「自分がやってきた武術太極拳をいろんな人に知ってもらいたいです」女優への思いを話してくれた山本千尋さん 今回、取材した山本千尋さんは武術太極拳で世界一にも輝…

武術太極拳で世界一!
女優・山本千尋インタビュー(後編)

★インタビュー前編はこちら>>

「自分がやってきた武術太極拳をいろんな人に知ってもらいたいです」



女優への思いを話してくれた山本千尋さん

 今回、取材した山本千尋さんは武術太極拳で世界一にも輝いたことがある元アスリート。4年前に配信された人気マンガ『キングダム』の連載10周年実写特別動画では羌瘣(キョウカイ)役を演じ、大きな話題となった。

 山本さんは3歳の時から中国武術を習い始め、高校1年の時まで競技を続けた。その年に出場した世界ジュニア武術選手権大会(2012年)では、槍術で金メダル、長拳で銀メダルを獲得している。

 彼女が競技生活を16歳という若さでやめたのは、中国武術に対する冒頭の熱い思いがあったから。女優を目指してからの彼女はどんな道を歩んできたのか。

「初めての映像作品は『太秦ライムライト』(2014年公開)でした。京都の太秦で撮影をしたのですが、すごくしきたりの厳しい昔ながらのスタジオでした。

 主演が福本清三さんという長年"斬られ役"として活躍されてきた方で、私はヒロインという役柄で出させていただいたんです。その時、無知なのがよかったのかダメだったのか、何も恐れず太秦に行ったのですごく怒られたりもしましたが、その2カ月間は私にとってすごく濃いものになりました。

 当時16歳だったので、みなさんがすごくかわいがってくださったんです。アクションシーンもあったのですが、スタッフの方たちから立ち回りについては褒めていただけました。

 大変なことはいろいろあったのですが、太秦は私にとって第2の故郷と言ってもおかしくないくらいの存在になったんです。今でもよく、仕事が決まるたびに太秦のスタッフのみなさんに連絡を取らせてもらっています」

 いわゆる立ち回り、アクションについては持ち前の運動神経を発揮した。だが、セリフ覚えや演技については当然ながら未熟さを痛感した。

「その場で乗り越えている感じでしたね。わからないことが多すぎて、考えることもできなかったので。ただ、ありがたいことに福本清三さんも斬られ役をされてきた方だったので、じつはちゃんとしたお芝居というのがその時が初めてで。70代の方に言うのも失礼かもしれないのですが、セリフを言うお芝居ということでは初めて同士だったんです。

 それをわかってくださるスタッフさんたちでしたし、福本さんのことを慕う同じ斬られ役の方たちが現場に入ってくださっていたので、その環境に感謝しながら私としてはその日その日を乗り越えることに専念していました。

 私にとって、すべてが新鮮でしたね。カメラがあることもそうだし、自分が台本を読んでいることも新鮮だし、お芝居をしていることも。それがすごく楽しいという気持ちだったので、緊張や不安はなかったです」

 それからキャリアを重ねていくなかで、2015年には演技を習うためにアメリカ留学も経験した。 

「目標の一つとして、ハリウッド作品に出たいというのがあるんです。半年間だけでしたが、語学留学プラス、アクティングスクールに通わせてもらいました。アメリカの雰囲気や世界観を感じられて、日本でもっと頑張ろうという気持ちで帰ってきました」

 じつは、「当初の予定では、留学は1年間でした」。しかし、ある大きな仕事が舞い込み、半年で帰国することを決断。それが『キングダム』の連載10周年実写特別動画プロジェクトに羌瘣役で出演する話だった。

「もともと『キングダム』は大好きで、もちろん羌瘣のことも知っていました。だから話を聞いたときは、『えっ!! 私でいいのかな』って思いました。まだ女優を始めて2年とかそれぐらいしかたっていなかったので、そんな大きな役をさせていただいてもいいのかなって。でも、『いや、待てよ。私以外する人はいないか』とかも思ったり(笑)」

 競技生活で培った持ち前の度胸と切り替えの早さで撮影に臨むことを決意。それからは、その仕事に集中するため、撮影が始まる直前までアメリカでジムに通い、体作りをして日本に帰国した。

「撮影は上海で行なわれたのですが、羌瘣の衣装を着させていただいた時はすごく気合が入りました。最初は似合わなかったらどうしようっていう不安もあったんですけど」

 現場ではセリフもなかったため、演技指導のようなものはなく、自分で考えた演舞をそのまま本番で演じた。

「殺陣師さんとかがいらっしゃらなかったので。事前にどういう演舞をするか考えている時間は楽しかったですね。漫画を見ながら、『こういうポーズを入れたらいいかな』とか。この経験はもしかしたら次にもつながるな、これから同じように自分で演舞を考えることも増えてくるだろうなとも考えたりしました。

 マイナーなスポーツだから、きっと殺陣師の方がいないような状況にも慣れていかないといけないなと思ったんです。ダンスだったら指導をしてくれる方がいると思いますけど、中国武術だとそれを指導してくれる人があまりいないので。自分の勉強にもなり、いい経験をさせていただきました」

 動画が配信されるとその演舞のすごさと美しさが大きな反響を呼び、周囲にも変化が訪れる。

「原作ファンの方が多い分、声をかけられることが多くなりました。ジムでいつものように走っていたら、『キョウカイをやっていた人ですか』って話しかけられたり(笑)。

 その後、『ウルトラマンジード』に出演させていただいたのですが、保護者の方からお子様まで見てくれていたので、『キングダム』の時から『ウルトラマンジード』が放送されていた時期はいろんな年齢層の方に応援していただいて、すごくありがたかったです」

 そして、今年。9月に配信された話題作『誰かが、見ている』(主演:香取慎吾、脚本・演出:三谷幸喜)に出演。念願だった三谷作品だった。

「現場はとにかく楽しかったです。三谷さんの作品に出られるって聞いた時は、ここ数年で一番うれしかったですね。現場は、ご本人の人柄もあると思うのですが、本当に温かい人たちが集まっていて。お客さんも実際に入れながらの撮影だったのですが、ユーモアのある脚本だったこともあり、笑いの絶えない現場でした。

 三谷さんといえばベテランの俳優さんを起用されるイメージがあるかと思うのですけれども、私みたいにあまりキャリアのない子を起用するというのは新鮮だったようで、1から10までつきっきりで演技指導をしていただきました。皆さんより1日多くリハーサルをマンツーマンでしていただいたり。

 三谷さんとの出会いは大切な宝物になりました。また作品に出させていただきたいので、アクションだけじゃなくもっとお芝居も頑張らないといけないですね」

 これまで仕事に関して熱く語ってくれていたのが、休日にはどんなふうに過ごしているのかプライベートの話を聞いたところ、笑いながら意外な答えが返ってきた。

「じつは私、根が暗いので休日は家からほとんど出ないんですよ。家の中では、映画やドラマをずっと見ています。ミュージカルも好きですし、アクションも好きですし、韓国の作品も見ますし。

 次の日がオフだってわかったら、その日の夜は家に閉じこもるための食糧を大量に購入しています(笑)」

 そうは言いつつも、体を動かさないと気が済まない性分なのか、夜になるとボクシングジムに行き始めた。

「アクションにリアリズムを出したいということで最近始めたんですけど、ストレス発散にもなっています(笑)」

 ちなみに、最近ハマっているのは「料理です。ちゃんと料理を覚え始めてから1年半ぐらいなのですけど、家にいる時は自分で作るようにしています。ちなみに、得意料理は和食です!」

 中国武術とともに礼儀作法もならっていたからなのか、終始礼儀正しく、丁寧な言葉でハキハキと対応してくれた山本さん。最後に今後の目標について聞いてみた。

「私、いろんな現場に行かせてもらうたびに目標が増えていくタイプなんですよ。先ほどお話ししたハリウッド作品に出たいのはもちろんですし、三谷さんとまたお仕事をさせていただきたいというのも目標のひとつです。

 大きなくくりで言うと、アクションをこれからさらに磨いていって、『世界チャンピオンになっただけあるね』と思ってもらえるような作品をより多くの人にお届けしたいです。女優としても『この子すごいよね』と言ってもらえるような、ちょっとでも誰かの憧れになれるような存在になることができたらうれしいです。

 ハリウッドの目標があるからこそ、ワールドワイドに活躍できる女優さんになれるといいなと思っています!」

 年末年始には舞台『INSPIRE陰陽師』(12月31日、1月2~6日公演)に出演する。「舞台は3、4年ぶりなのでドキドキワクワクしています。最後のほうにアクションをかなりすることになっているので、すごく気合いが入っています。ぜひ観に来てください!」

 彼女の演舞には目を奪われるものがある。今後の山本千尋さんの活躍に注目かつ期待したい。

Profile
山本千尋(やまもと・ちひろ)
1996年8月29日生まれ、兵庫県出身
趣味:映画鑑賞、サイクリング、スポーツ
特技:中国武術、英会話、殺陣
舞台『INSPIRE陰陽師』(日生劇場/12月31日、1月2~6日)に出演