山本昌×早川隆久 対談(前編) 2020年ドラフト会議で4球団の重複1位指名を受け、楽天への入団が決まった早川隆久投手(…

山本昌×早川隆久 対談(前編)

 2020年ドラフト会議で4球団の重複1位指名を受け、楽天への入団が決まった早川隆久投手(早稲田大)。アマチュアナンバーワン左腕に、50歳まで現役投手として投げ続けた"レジェンド"山本昌氏(元中日)が直撃。新旧サウスポー対談は冒頭からディープな世界へと突き進んでいった。



早川隆久投手(写真左)を高校の時から高く評価していた山本昌氏

---- まず、早川投手の山本昌さんへの印象を教えてください。

早川 長くまで現役を続けられた印象が強いです。自分もプロで長くやれるピッチャーになりたいので、今日はその極意を教わりたいと思っています。

山本昌 いいですね、その姿勢が。さすが小宮山(悟)監督の教え子です!

---- 山本さんはもともと早川投手を高く評価していましたね。

山本昌 有望なドラフト候補を分析させてもらう『web Sportiva』の企画で、早川くんが(木更津総合)高校3年生の時からかなり評価させてもらっていました。まずお聞きしたいのは、高校時代よりも球のスピードがすごく速くなりましたよね?

早川 そうですね。ウエイトトレーニングで体を大きくするというより、持っている筋肉を最大限に生かすにはどうすればいいのか、考え方を少し変えました。動作解析をしながらフォームをつくっていった結果が、155キロという数字につながったのかなと思います。

山本昌 高校時代は140キロ弱のボールが多かったですよね。

早川 はい、そうです。

山本昌 体重は増えたのかな?

早川 10キロ近く増えたんですけど、体のキレは変わらず投げられています。自分の体感ではあまり変わってないように感じています。

山本昌 高校時代に比べて、フォームのバランスがよくなっていて、とくにキャッチャーに向かっていくラインがすごくしっかりしたなと感じるんですよね。

早川 マウンドの傾斜を使いながら並進運動する際に、しっかりと地面を蹴ることと、蹴るタイミングで軸足から指先にかけて力が螺旋(らせん)状に回っていくイメージで動くことを意識しています。そうやってホーム方向に移動すると、地面から強い反発力をもらいながら投げられるようになりました。

山本昌 螺旋状というと、右足を着いた時に左ヒザの向きはどっち側に向く?

早川 右足はホーム方向に動いていくんですけど、左足のヒザはそのままで、投げるギリギリのタイミングでねじっていく感じです。

山本昌 だったら、軸足の割れ(ステップ足のヒザはホーム方向、軸足のヒザはマウンド方向と反対側に向く動き)は意識しているんだね。

早川 そうですね。割れは少し残すような感じにして。

山本昌 そこは僕が昔から意識していたところなんです。軸足が割れることで、ボールに「最後のひと押し」が加えられる。あと、コントロールのいいピッチャーって、みんなその形になるんですよね。

早川 そうなんですか?

山本昌 軸足で立ってから、ヒザが先に折れていくピッチャーもいるでしょう? 折れていくピッチャーは、最後に一瞬、キャッチャーを見られないんです。最後にヒザが割れているピッチャーは、一瞬だけキャッチャーを見られて、修正ができる。

---- 早川投手の軸足の使い方は、まさに今春以降に直していたところですよね?

早川 そうですね。自分の場合は股関節が沈み込みやすくて、地面からの反発をもらえずに力が逃げてしまっていたんです。沈み込まないように意識して、位置エネルギーを使いながら回旋、回転することで球速も一気に上がりました。

山本昌 いいですね。僕も晩年、軸足側の股関節にしっかり体重を乗せて、左ヒザをあまり折らずに投げるようにしていたんです。高い位置で移動して、マウンドの傾斜を使ってドンと落ちる。そのエネルギーを投球の力に加えるようにしたんですよ。

早川 はい。わかります。

山本昌 早川くんのマウンドの傾斜を使うという話を聞いて、ビックリしたんです。マウンドの傾斜をうまく使おうとするピッチャーって、プロでも少ないので。僕が40歳くらいで気づいたことを、もう22歳でやっているのだから恐れ入りましたね。

早川 ありがとうございます(笑)。

山本昌 早稲田大野球部でやっている動作解析というのは、昔からやっていたことですか? それとも小宮山監督が就任後に積極的に取り入れたのかな?

早川 小宮山監督が就任してから、研究室の方や矢内利政教授とタッグを組むようになりました。動作解析で見えてきた悪い点について、トレーナーの土橋恵秀さんからアドバイスをいただいて取り入れていきました。

山本昌 動作解析でどんな悪い点が出てきたんですか?

早川 腕と頭が離れていたり、下半身の回旋がちょっと微妙に早かったりしていました。

山本昌 腕と頭の位置は、今は近くなっているんだ。

早川 そうですね。腕と頭が少し離れていた分、シュート回転が多くて、バッターにとっては見やすいボールでした。また、飛距離がつきやすくなっていて、被本塁打も多かったんです。3年生になってから一気に被本塁打が減ったので、ボールの回転はよくなったと思います。

山本昌 下半身の回旋については?

早川 骨盤が横に回っていたので、それを斜めにするイメージに変えたんです。右の股関節にフィニッシュが入るようにしたら、腕を振る位置も2〜3センチ上がって、だいぶ上から叩けるようになりました。

山本昌 なかなか早川くんの腕の位置で投げられるピッチャーはいないですよ。藤浪晋太郎(阪神)がこれをできたら、お化けみたいな成績を残すんじゃないかな(笑)。

---- 平凡な野球選手は自分の頭でイメージしている動きと実際の動きのギャップが大きいと思うのですが、早川投手は誤差が小さいようですね。

早川 人から「こうやってみて」と言われてやってみたことが、意外と20〜30分くらいで体現できてしまいます。インプットしやすいタイプなのかなと思います。

---- モノマネも得意ですか?

早川 モノマネはそんなに得意ではないです。モノマネって、その選手の特徴を見て、若干誇張してやれば完成すると思うんですけど、自分はそれが得意ではなくて。

山本昌 モノマネがうまい人で、野球が上手な人って少ないですよ。

早川 へぇ、そうなんですか。

山本昌 そうやって昔から言われています。

---- 言われてみれば、モノマネが得意なのは主力選手ではないような気がします。

山本昌 そうでしょう?(笑) ところで、早稲田大の小宮山監督は早川くんのようなピッチャーを育てるなんて、すばらしい指導をしていますね。

早川 はい。小宮山監督からは大きな影響を受けています。

山本昌 僕は同級生なので親しくお付き合いをさせてもらいましたけど、彼は独特なピッチングフォーム観を持っていて。以前には、「指から糸が出る」と言っていたことがあるんですよ(笑)。

早川 それは初めて聞きました(笑)。

山本昌 糸が出て、それがストライクゾーンに向かってピューッと伸びていくんだと。この話をした時にお酒を飲んでいたからかな(笑)。でも、僕は投げたい方向に(体の)ラインを作ると、球道が見えるということなのかなと解釈しました。フォームに関しては、小宮山監督からアドバイスをもらったことはありますか?

早川 はい。「軸足の拇指球(ぼしきゅう)の上に頭が乗るようにして、平行移動する時には後ろに人が立っているような状態で体重移動しなさい」と。体が後ろに倒れたり前にいったりしないように、そのままキャッチャーの方向に真っすぐ進めというアドバイスでした。それ以来、キャッチャーへのラインが出やすくなったと思います。

山本昌 さすが。糸が出るからね(笑)。

早川 そうですね(笑)。

山本昌 野球はカカトに体重がかかると、どうしても動きがワンテンポ遅れるんです。拇指球なら前かがみでもないし、ちょうどいいところに体重がかかっているのだと思う。それにしても、技術論をこれだけ交わせる学生選手は初めて。ちょっとびっくりだね。自信持って、そのままやっていければいいから。

早川 はい、ありがとうございます。

---- 早川投手が山本さんに聞きたかったことはありますか?

早川 山本さんが長年やってこられたなかで、体の故障に対してどう対処してきたのでしょうか。トレーニングの量を多くして、体の耐性をつけたのでしょうか。

山本昌 トレーニングに関しては、体を柔らかく保つトレーニングをしていました。疲れてくると、「体が張る」とよく言うじゃないですか。体が張るということは、固まるということ。体が硬くなって壊れていくので、柔らかく保つ努力が大事だと思います。

早川 なるほど。

山本昌 あと、プロとアマの一番の違いは「医療」ですから。トレーナーを含めると、各チームだいたい8名くらい医療スタッフがついています。まずは医療スタッフにしっかりと相談すること。あとは無理をするところを見定めることかな。たとえば、早慶戦になれば、多少は無理しなきゃいけないでしょう?

早川 そうですね。

山本昌 プロでも無理をしなきゃいけない試合もあるけど、たとえば3日休めば治るケガを1カ月〜半年のケガにしてしまうともったいない。まずは自分の体をよく知ること。「ここはいかなきゃいけないけど、ここまでは大丈夫だろう」と認識を持っていれば、大丈夫だと思います。

早川 すごく参考になります。

山本昌 僕は足首を脱臼したことがあるけど、ありがたいことに肩もヒジもどこにもメスが入ってない。だから50歳まで投げられた。しっかりと肩甲骨を開いて投げられる人は非常に少ないですんですけど、早川くんは全然問題ないので。そのままのスタイルを貫いてください。

早川 ありがとうございます!

(後編に続く)