サッカースターの技術・戦術解剖第37回 サディオ・マネ<ストリートフットボーラー> かつてはすべての選手がストリートフッ…

サッカースターの技術・戦術解剖
第37回 サディオ・マネ

<ストリートフットボーラー>

 かつてはすべての選手がストリートフットボーラーだった。

 路上や空き地でボールを蹴り、ボールがなければ丸めた靴下や紙くずでつくった球体で遊んでいるなかから、プロ選手が生まれていた。



リバプールで大活躍のマネは、セネガルのストリートフットボールで技を磨いた

 1980年代にカメルーンのスーパースターだったロジェ・ミラは、石ころを蹴っていたそうだ。そのせいで「ヘディングがうまくならなかった」と言っている。それは冗談としても、石ころを蹴っていてもうまくなるのだ。

 ストリートフットボーラーからプロ選手が生まれた時代の最後が、たぶんディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)の世代だろう。その後はアフリカやアジアの一部を除けば、ほとんどが指導者のいるチームでプレーを始めることになった。だからサディオ・マネは例外的な存在である。

「2、3歳のころから、いつもボールと一緒だった」
「路上でプレーしている子どもたちを見つけては、混じりに行った」

 セネガルのセディウ州にある村に生まれ育ったマネは、初めてボールを蹴ったのがいつか覚えていない。物心つくころにはボールと一緒だったそうだ。15歳で首都ダカールに移住し、ジェネレーション・フットというアカデミーに加入した。

 アフリカ諸国の育成は無数のアカデミーを出発点としている。例えば、ガーナでは"コース"と呼ばれていて、言い方はさまざまなようだが、日本のサッカー少年団のようなものだ。トライアルに参加して認められれば、アカデミーの一員になれる。特別に才能のある子は、ヨーロッパのクラブチームの下部組織にスカウトされていく。

 マネは19歳でフランスのメスへ移籍した。メスで1シーズン、すぐにオーストリアのザルツブルクへ移っている。スポーツディレクターだったラルフ・ラングニックに見出されての移籍だった。

 ザルツブルクでは2シーズン在籍して63試合で31ゴールを決めた。プレミアリーグのサウサンプトンへ移籍して2シーズン、2016年からはリバプールでプレーしている。ヨーロッパに来て5シーズンでトップクラスのクラブまで駆け上がったわけだ。

<型にはまらないプレー>

 ストリートフットボーラーは、育成されたフットボーラーよりフットボーラーであることが多い。

 1980~90年代に活躍したコロンビアの英雄カルロス・バルデラマは、同国のサンタ・マルタのストリートフットボーラーだった。ジネディーヌ・ジダン(フランス)はマルセイユの団地の中庭で技を磨いた。

 ストリートフットボールは純粋な遊びだ。空き缶や石ころで適当にゴールをつくり、テニスシューズやサンダル、裸足でプレーに興ずる。時間も無制限。ティエリ・アンリ(フランス)は、カルフール(スーパーマーケット)の駐車場でショッピングカートをゴールにして遊んでいたという。

 ジダンやアンリの世代で、ストリート育ちは比較的珍しい。だが、バカンスに出かけない移民家族に生まれた彼らにとって、夜9時ごろまで明るく長い夏を、ボールと共に過ごしたのは大きかったのではないだろうか。

 学び方には分習法と全習法がある。分習法は、サッカーであれば、想定される状況下での技術を反復して身に着けていくもの。例えばクロスボールをシュートする、中間ポジションで縦パスを受けるなど、特定の状況を想定して集中的に練習するわけだ。サッカーを構成している部分を、切り取って学んでいく。

 一方、全習法はゲームだ。ひたすら試合をこなしていく。必要なことはすべてゲームのなかにある。どちらがいいというより、両方を組み合わせていくのが普通だろう。

 ストリートフットボーラーは、ひたすら全習法だ。全習法にはすべてが含まれているが、分習法に比べると効率は悪い。ただ、その量が圧倒的ならゲームこそ最良のトレーニングになる。少年期に圧倒的な量をこなしていたことが、ストリートフットボーラーの強みと言える。

 ストリートフットボーラーはクセが強い。一方で型にはまっていない。

 足にボールをくっつけたまま、グルグル回転して進んでいくドリブラーを見たことがある。アフリカ出身のようだった。教えられていないのでオリジナリティが強烈で、ジダンのルーレットもこの類だろう。

 遊びと言っても不真面目とは限らない。ガーナで見た子どもたちの草サッカーにはギャラリーもいて、その見物人を目当てに物売りもいた。見物客はおそらく賭をしていたと思う。

 裸チーム対服を着たチームの対戦は真剣そのもので、スライディンタックルもバンバンやる。判定を巡って大いにもめた挙句、レフェリーの少年が泣き出して帰ってしまったので試合終了となったが、レベルは高かった。

 子どもは放っておけば勝ちたがる。優秀なストリートフットボーラーは闘争心に溢れ、攻守いずれもこなし、スタミナもある。戦術は知らなくても知恵がある。不測の事態への対応力が高い。

 マネは無類なゴールゲッターだが、それだけにとどまらない。アシストも多いし、守備力もある。リバプールが守備を増員したい時、3トップから最初に引くのは最も守備力のあるマネだ。

 両足が使えて、スピードは抜群。何より賢い。教えられた賢さではなく、フットボーラーとして感性のよさ、言わば地頭のよさがある。

 20歳のマネを発見したラングニックは独自のサッカー観で知られていて、現在のリバプールにつながる最先端の戦術家だった。そのラングニックが惚れ込んだマネが、ストリートフットボールで育った選手だったというのは面白い。既存の育成システムで育てられた選手にないものを持っていたのだろう。

 マネのプレーは型にはまっていない。ゲームのなかに溶け込むように効果的なプレーをするのだが定型がない。何をするかわからず、たぶん本人にもその瞬間までわからないのではないか。

 抜群のチームマンだが、それ以上に即興的でとらえどころがない。ストリートフットボーラーの強みを最大限に生かしている、フットボールマスターである。