今季Jリーグでは、大卒ルーキーの活躍が大きな話題のひとつになっている。大卒ルーキーながらチームのリーグ制覇に大きく貢献…
今季Jリーグでは、大卒ルーキーの活躍が大きな話題のひとつになっている。

大卒ルーキーながらチームのリーグ制覇に大きく貢献した三笘薫
象徴的なのが、川崎フロンターレの三笘薫と旗手怜央だ。ともに新人離れした活躍でチームのJ1制覇に大きく貢献。とりわけ三笘の働きは出色で、新人選手初のMVP獲得さえあるかもしれない。
そのほかにも、FC東京の安部柊斗、ガンバ大阪の山本悠樹、コンサドーレ札幌の田中駿汰、サガン鳥栖の森下龍矢、横浜FCの松尾佑介ら、多くの大卒ルーキーが各チームで主力を務めた。
大卒ルーキーの当たり年。新型コロナウイルス感染拡大の影響で異例のシーズンとなった今年を、そう表現することができそうだ。
とはいえ、Jリーグで大卒選手が活躍すること自体、珍しいことではない。
過去のJリーグベスト11を見ても、大卒選手がひとりもいなかったのは、2004年、2012年の2回だけ。程度の差こそあれ、大学サッカーはJリーグへの選手供給源となり続けてきた(注:本稿では、卒業前にJリーグ入りした選手も含め、大学でのプレー経験を持つ選手を大卒選手とする)。
Jリーグの歴史を振り返ると、大卒選手の活躍が最も華々しかったのは、1993年のJリーグ誕生当初だろう。
Jリーグ誕生前の日本では、高校から直接日本リーグのチームに入る選手は少なく、大学を経由するのが一般的。"オリジナル10"の中心選手には、横浜マリノスの井原正巳、清水エスパルスの澤登正朗、ガンバ大阪の礒貝洋光、横浜フリューゲルスの山口素弘、浦和レッズの福田正博ら、大卒選手が多かった。
Jリーグ誕生時点ですでにチームに在籍していた彼らは、いわば、大卒Jリーガー「ゼロ世代」ということになるだろう。
そして、あたかも日本初のプロリーグ誕生を待っていたかのようなタイミングで大学を卒業した、藤田俊哉、相馬直樹、名波浩、大岩剛、岡野雅行らが、翌1994年から続々とJリーグ入り。彼ら「第1世代」は、草創期のJリーグを盛り上げたばかりか、相馬、名波、岡野は日本が初出場した1998年ワールドカップでも活躍した。
しかしながら、Jリーグ誕生をきっかけに、徐々に時代は変わり始める。高校の有望選手が(有望であればあるほど)大学を経由することなく、直接Jクラブ入りするケースが増えたのである。
そんななか、再び大学サッカーに目を向けさせるきっかけとなったのが、1995年に福岡で開催されたユニバーシアードでの優勝だった。ユニバ初制覇を果たした彼らこそが、「第2世代」である。
当時のメンバーである斉藤俊秀、望月重良、山田卓也、寺田周平らは、その後Jリーグで活躍したばかりか、日本代表にも選出。なかでも、斉藤は1998年のワールドカップメンバーに、望月は2000年のアジアカップ優勝メンバーに、それぞれ名を連ねている。
続いてJリーグで活躍したのが、小野伸二ら、いわゆる"黄金世代"と同世代の選手たち。稀代のタレントたちの陰に隠れながらも、大学経由でJリーガーとなった選手たちである。
2006年ワールドカップに出場した坪井慶介、巻誠一郎、2010年ワールドカップに出場した中村憲剛、オシム時代の日本代表で活躍した羽生直剛、浦和でAFCチャンピオンズリーグ制覇に貢献した平川忠亮など、「第3世代」には実績十分のメンバーが顔を揃える。
当時は、ユニバーシアード優勝を目標に、大学サッカーが本格的に強化され始めた時代(日本は2001年、2003年、2005年大会と3連覇)でもあるのだが、そこから育ってきたのが、続く「第4世代」である。
2010年のワールドカップメンバーとなった岩政大樹の他、ロンドン五輪でオーバーエイジとして活躍した徳永悠平や、2011年のアジアカップ優勝メンバーの藤本淳吾ら、ユニバで優勝を経験した選手たちが、さらに上のカテゴリーでも活躍している。
そして、本田圭佑、岡崎慎司、内田篤人ら、長らく日本代表を支えてきた選手たちと同世代の大卒Jリーガーが、「第5世代」だ。
明治大学在学中に五輪代表に選ばれた長友佑都はもちろんのこと、2014年のワールドカップメンバーとなった伊野波雅彦、2011年アジアカップ優勝メンバーの本田拓也や、2017年JリーグMVPの小林悠をはじめ、高橋秀人、東口順昭、林彰洋ら、多くの日本代表経験者が輩出されている。
大卒選手の存在価値を高めたという意味では、「第6世代」が残したインパクトも大きかった。
ロンドン五輪ベスト4に貢献した永井謙佑、山村和也はともに、大学在学中から五輪代表として活躍。大学卒業を待たずにFC東京入りした武藤嘉紀は、2014年ワールドカップに出場している。
また、丸山祐市、谷口彰悟、車屋紳太郎らが、プロ入り後に日本代表入り。その他、アギーレ時代の日本代表にサプライズ招集された皆川佑介、昨季JリーグMVPの仲川輝人も、この世代の大卒Jリーガーである。
こうしてJリーグの歴史を振り返ると、数のうえで決して多くはないが、時代ごとに確実に好素材が出現してくる。それが大卒Jリーガーだと言えそうだ。
とはいえ、ここ数年、その流れが細々と保たれているというより、むしろ勢いが増してさえいる。
今季に限らず、昨季の大卒ルーキーを見ても、荒木隼人、坂元達裕、渡辺剛、相馬勇紀、上田綺世ら、今季の上位チームで主力を務める選手がずらりと顔をそろえる。最近の大卒Jリーガーの台頭を、室屋成や古橋亨梧などに端を発する一連の流れと考えれば、新たな「第7世代」による大きな波が生まれていると見ていいのだろう。
今季は日本代表の活動がほとんど行なわれなかったため、彼らがそこに名を連ねる機会こそなかった。だが、その候補となりうる選手は、すでに現れ始めている。
大卒Jリーガー第7世代--。彼らは、従来の選手育成の考え方を覆しかねないほど、Jリーグで一大勢力を築くのかもしれない。