つい口にしてしまった不用意な発言がきっかけとなり、思いもよらない結果を招いてしまうことがある。「口は災いの元」とも言わ…
つい口にしてしまった不用意な発言がきっかけとなり、思いもよらない結果を招いてしまうことがある。「口は災いの元」とも言われるが、プロ野球でも過去に、ひとつの発言がその後の展開を大きく変えたと思われるケースがある。

1989年の日本シリーズ第7戦、近鉄の先発・加藤哲郎から本塁打を放った巨人の駒田徳広
1989年の巨人との日本シリーズで、近鉄の加藤哲郎が言い放った言葉はその最たる事例だ。戦前は「巨人有利」との見方が多数を占めたが、第1戦を4-3と逆転勝利で飾った近鉄は勢いに乗り、第2戦も勝利。続く第3戦も完封リレーで勝利すると、その試合後にお立ち台に上がった先発の加藤が、「シーズンのほうがよっぽどしんどかったですからね。相手も強いし」とコメントした。
それが「巨人は(同年のパ・リーグ最下位の)ロッテより弱い」と脚色された表現で報道され、巨人の選手たちが奮起。崖っぷちからの4連勝で日本一に輝いた。加藤は優勝を決める第7戦に先発したものの、駒田徳広に先制の本塁打を許し、「バーカ!」と叫ばれるなど勢いを止められず。加藤は、実際には「ロッテよりも弱い」と発言したわけではないが、戦況を変えた大きな要因として今でも語り継がれている。
2008年の巨人との交流戦後に繰り出された、楽天の野村克也監督の"歌"も有名だ。4-2と楽天がリードして迎えた9回裏2死一塁の場面で、巨人の矢野謙次が盗塁を試みるも失敗。「走者がたまってクリーンナップにまわり、ドカンと本塁打でサヨナラ負け」というシーンが頭をよぎっていた、という野村監督だったが、試合は巨人の盗塁死であっけなく終了した。
試合後、野村監督は「バッカじゃなかろうか~、ルンバ!」と「さくらと一郎」のヒット曲『バッカじゃなかろかルンバ!』を披露しながら会見場に現われ、「1点差ならわからないでもないが。勝手に走ったんじゃないか。普通は監督は走らせないからな」など、巨人の戦術を批判した。
翌2009年の交流戦では、巨人が楽天戦で4戦全勝。巨人の伊原春樹ヘッドコーチは試合後、報道陣を前に「野村監督様。今年の交流戦は4連勝させていただきありがとうございます。これもひとえに『ノムラの考え』のおかげでございます。1年間お預かりしたその言葉を、そっくりそのままお返しします。バッカじゃなかろうか~、ルンバ!」と"ルンバ返し"を披露。意気揚々と球場を後にした。
1997年のヤクルトと西武の日本シリーズでも、ヤクルトを率いる野村監督は相手指揮官を"口撃"。投手出身である西武の東尾修監督に対して、「投手出身の監督にありがちな、勘に頼る野球」と言い放ち、結果は4勝1敗でヤクルトが日本一に。
翌1998年、横浜の監督に就任した投手出身の権藤博は、前年の野村監督の発言を意識してか、就任時に「投手は勝たなきゃ始まらないのだから、打つほうも守るほうも見ているが、捕手は勝手だ。人が投げる球を受けるのだから評論家でいられる。捕手出身の監督には負けたくない」と発言した。
同年、横浜は快進撃を見せ、38年ぶりのリーグ優勝を果たす(野村監督率いるヤクルトはリーグ4位)。一方のパ・リーグは、東尾監督率いる西武が前年に続いて2連覇を果たし、日本シリーズ史上初めて投手出身の監督同士の対戦が実現した。
1981年8月26日のヤクルト戦に登板した、阪神・江本孟紀の発言も有名だ。4-2と阪神リードで迎えた8回表、2死二、三塁というピンチで、江本はベンチからの指示(勝負か敬遠か)を待っていたが、その時に中西太監督がベンチに不在......。江本は仕方なく勝負に出たが、適時打を浴びて同点とされた。
江本は降板後、ロッカールームに引き揚げる際に「ベンチはアホや」などと首脳陣を批判。すると「ベンチがアホやから野球でけへん」と報道され、球団からは謹慎が言い渡された。江本はこれを頑なに拒否し、自らユニホームを脱ぐ決断を下す。ひとつの発言がきっかけで、自身の現役生活にピリオドを打つことになった稀有なケースだ。
1999年9月10日、甲子園で行なわれた巨人との伝統の一戦後、阪神の新庄剛志が放ったひと言も、その後の展開から多くの野球ファンに語り継がれている。決勝本塁打をはなってヒーローとなり、お立ち台に上がった新庄は「明日も勝つ!」と声高らかに言い放った。
発言自体は何の問題もないが、翌日から阪神は球団ワーストタイ記録となる12連敗を喫し、最下位に転落した。「明日も勝つ!」と同じような言葉はお立ち台でたびたび聞かれるフレーズだが、以降に連敗が始まると、この新庄のケースが引き合いに出されてたびたび話題になる。
力強い言葉がプラスに作用するケースもある。1999年4月21日、ロッテ戦で黒木知宏と投げ合い、0-2で惜敗した西武の松坂大輔の発言だ。同試合後に「リベンジします」と宣言した松坂は、次のロッテ戦で再び黒木と対戦し、1-0でプロ入り初の完封勝利をマーク。宣言通りにリベンジを果たした。
近年は時代の流れからか、火花の散るような舌戦は見られなくなってきた。しかしその分、選手たちは闘志を胸に秘め、プレーでそれを表現している。