怪物・オルンガをいかに食い止めるのか......。それが、柏レイソルの本拠地に乗り込んだ名古屋グランパスにとっての最重…

 怪物・オルンガをいかに食い止めるのか......。それが、柏レイソルの本拠地に乗り込んだ名古屋グランパスにとっての最重要テーマだった。

 28試合で26得点と驚異的なペースでゴールを量産し、ここまで3試合連続ゴール中。前回対戦でも決勝点を許した規格外のストライカーを封じなくして、名古屋の勝利はないといっても過言ではなかった。



オルンガに激しくチャージするボランチの稲垣祥

 そんなミッションが課せられたなか、カテナチオの国からやってきた名古屋の指揮官マッシモ・フィッカデンティは"オルンガ封じ"の完璧なプランを用意していた。

「我々のよさをしっかりと出し、柏のよさを消していくために、今日はいつもより後ろの位置でブロックを作った。背後のスペースを与えず、ボールを持った時には相手を下げさせてからプレーするという形が試合を通してできたと思う」

 長身ながらスピードに優れ、カウンターでより力を発揮するオルンガには、スペースを与えないことが何より有効な対抗策となる。試合を通じて名古屋はこの意識を徹底し、オルンガ封じを見事に遂行。一瞬の隙を突いて決勝点を奪い、代名詞とも言える"ウノゼロ勝利"を手にしている。

「自分たちがやろうとしていた守備がしっかりとハマった試合だった」

 柏のアカデミーで育ち、2018年から名古屋に在籍するCBの中谷進之介は、古巣相手の会心の勝利に胸を張った。

 もちろん、スペースを与えないために下がりすぎると、相手の攻撃をモロに受け、いずれ決壊してしまう危険性も十分にあり得る。しかし、この日の名古屋はラインを下げても、決して押し込まれたわけではない。

 最終ラインの手前のエリアでボールを追い続けた、米本拓司と稲垣祥の2ボランチの存在があったからだ。

 チームの心臓とも言えるボランチは、パサータイプとバランサー、もしくはボール奪取型とのセット起用が一般的だ。守備に秀でた選手が最終ラインの手前のエリアをカバーし、もうひとりのボランチがやや高めの位置でゲームをコントロールする。それぞれの能力を引き出し、補完し合う関係性こそが2ボランチのセット起用には求められる。

 代表されるのは、日本代表で長くコンビを組んだ遠藤保仁と長谷部誠のセット。現代表においてもパサータイプの柴崎岳と、"デュエルマスター"の遠藤航がファーストチョイスとなっている。

 個人的に好みだったのは、サンフレッチェ広島黄金時代の青山敏弘と森崎和幸だ。危機察知能力と試合の流れを読む能力に優れる森崎の守備センスがあってこそ、青山のパス能力が生きたのだ。

 ところが名古屋の2ボランチは、この一般論を覆す。米本と稲垣は、ともにボールハントを武器とする守備的なセットだ。

 豊富な運動量でいたるところに顔を出し、ボールホルダーに対して激しくチャージを繰り返す。たとえ後方でブロックを組んでも、その前のエリアで相手に自由を与えなければ、押し込まれ続けることはない。柏のパスの出し手にプレッシャーを与え続けたこのふたりが、消極的にも映るこのスタイルに、ダイナミズムを生み出していた。

 データからも、彼らの貢献度が浮かび上がる。

 走行距離はともに12キロ超えで、両チーム合わせて1、2位を記録。献身的かつ力強い守備と、衰え知らずのスタミナを保ち、まるで猟犬のごとくボールを追いかけ続けた彼らこそが、この日の勝利の立役者だった。

 FC東京時代からその守備力に定評があった米本と、ヴァンフォーレ甲府、サンフレッチェ広島の堅守構築を実現してきた稲垣。守備特化型のアラサーコンビは、「華麗さ」や「創造性」といった言葉からは程遠いものの、実用的な選手と言えるだろう。

 守備だけでなく、攻撃でもお互いの距離感を保ち、近い距離でパス交換を繰り返しては、シンプルにサイドに展開する。無理に縦パスを入れずにリスクを回避し、ひとつの歯車として機能する。時折見せる攻撃参加は意外性にあふれ、時に豪快なミドルをお見舞いする。この日も稲垣の攻撃参加が、相馬勇紀の決勝点の呼び水となった。

 新型コロナウイルスの影響で過密日程となるなか、多くのチームが選手を入れ替えながら試合をこなしてきた。しかし名古屋の場合は、この2ボランチと、中谷と丸山祐市の2CB、そしてGKのランゲラックがほぼ固定されている。1カ月ほど負傷離脱した米本を除いた4人は、いずれも全32試合にスタメン出場。この不動のセンターラインの安定感こそが、名古屋の躍進の要因だろう。

 32試合を終えて28失点は、川崎フロンターレに次いで2位の数値。振り返れば、今季、川崎を零封し、初黒星をつけたのも名古屋だった。

 シーズン序盤にジョーが退団し、終盤には金崎夢生が負傷離脱。エース級のストライカーが不在のなか、ACL出場圏内をキープできているのは、この堅守があるからだ。

 残り2試合、名古屋はACL出場という結果を手にすることができるのか。その成否のカギを握るのは、無尽蔵のスタミナで所狭しとピッチを駆ける、ふたりのボールハンターにほかならない。