サッカー名将列伝第25回 ジョゼ・モウリーニョ革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、…
サッカー名将列伝
第25回 ジョゼ・モウリーニョ
革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回は現在トッテナムの監督を務めているジョゼ・モウリーニョ。これまで数々のビッグクラブの監督を務め、タイトルを獲得。今季のトッテナムも好調だ。無類の勝負強さを発揮してきた、その手法に迫る。
決勝ではモナコを3-0で破る快勝だったが、それ以前にポルトが3得点したのはグループリーグのマルセイユ戦だけ。決勝の3点も、この試合で放ったシュート3本がすべてゴールしての3得点である。
この時の13試合の戦績は7勝5分1敗。引き分けが多いが、負けたのはグループリーグのレアル・マドリード戦だけだった(1-3)。そして7勝のうち、2点差で勝ったのは準々決勝のリヨン戦と決勝だけ。あとはすべて僅差勝負である。
戦力的に図抜けているわけでもない。しかし、すべての試合を均衡状態にすることができる。そして僅差の勝負に勝てる。監督の手腕が評価されるはずだ。
モウリーニョ監督はよく「守備的だ」と批判されてきたが、およそビッグクラブを率いていたこともあり、守備的なプレーばかりしていたわけではない。ただ、格上や同等との対戦では堅守速攻をメインにしてきたので、守備的な印象が強いのだ。ポルトも守備的ではなかった。
面白いのは、ポルトは堅守ではあったけれども、速攻のチームではなかったということだ。言わば「堅守遅攻」である。
モウリーニョの編成は中心軸をしっかりつくる。ポルトではGKにビトール・バイーアがいて、CBはリカルド・カルバーリョとジョルジュ・コスタ。菱形の中盤の底にはコスチーニャ、このポジションには必ず守備力のある選手を使う。トップ下にデコ(以上ポルトガル)、エースストライカーはベニー・マッカーシー(南アフリカ)だった。
安定したGKとCB、守備力のあるアンカー、創造性のトップ下、得点力のあるストライカーという縦軸をしっかりつくる。ある意味、極めてオーソドックスな編成だ。そこに枝葉になる選手を組み合わせ、攻守にバランスのとれたチームに仕上げる。
ポルトガルらしく、ボールポゼッションのうまさはポルトの特徴だった。格別なFWがいないので、速攻にそれほどの威力がないかわりに、堅守で奪ったら容易に失わない。
強豪を相手にも僅差勝負にできたのは、ただ守っているだけではなく、ボールポゼッションで相手の攻撃時間を削り取っていたからなのだ。以前はバルセロナ(スペイン)のコーチだったのだから、ポゼッション重視は不思議ではないのだが、それを少し違う用途で活用していたのがモウリーニョらしさだろう。
モウリーニョが率いたチームは圧倒的な戦績を残すことはあっても、圧倒的に勝利するという幻想を持たない。丁寧に相手の長所を消し、弱点を突く。
華々しい戦績と目立ちすぎるパーソナリティーとは裏腹に、実に手堅く地味な勝ち方をするのが得意な監督と言える。
必ず接戦に持ち込み、高い確率で勝つ。モウリーニョがイノベーターだったことはないが、名監督であるのは間違いない。
ジョゼ・モウリーニョ
Jose Mourinho/1963年1月26日生まれ。ポルトガル・セトゥーバル出身。スポルティングやポルト、バルセロナのアシスタントコーチののち、2000年にベンフィカから監督業をスタート。ポルトで2003-04シーズンにCLを制して注目され、以降、チェルシー(04-07、13-15)、インテル(08-10)、レアル・マドリード(10-13)、マンチェスター・U(16-18)とビッグクラブの監督を歴任し、数々のタイトルを獲得する。19年よりトッテナムの監督を務めている。