NHK杯SP演技の本田真凜「今シーズンは不安の中で臨んでいますが、今日もそのひとつで。ただ(大会が)終わってみて、今できることは出せたのかなって思っています」  11月28日のNHK杯フリースケーティング後、リモート会見に現れた本田真凜は、…



NHK杯SP演技の本田真凜

「今シーズンは不安の中で臨んでいますが、今日もそのひとつで。ただ(大会が)終わってみて、今できることは出せたのかなって思っています」 

 11月28日のNHK杯フリースケーティング後、リモート会見に現れた本田真凜は、複雑な心中を明かした。達観しているのか、戸惑っているのか、悔しさに身もだえしているのか。錯綜する感情を押し隠すようだった。

「私はシニアに上がって(から思うのは)、自分の気持ちが演技に出ちゃうタイプというか。不安な顔がそのまま出てしまう。だから、今日は6分間練習の時から、ずっと笑顔で、とだけ思っていました」

 本田は、持ち前のスケーティングの華やかさは見せている。まとった青いドレスは鮮やかで、胸元にはシルバーのストーンが散りばめられ、王女のような出で立ちが驚くほど似合っていた。長い手足を使ったステップやスピンは情感が漂い、美しい容姿を際立たせた。昨年から続けて使用する『ラ・ラ・ランド』の旋律に乗って、誰もが目を離せない愛らしさがあった。

 しかし、スコアはトータルで162.57点。12人中9位だった。不本意な成績を突き付けられていた。

 本人が一番、忸怩(じくじ)たる思いだろう。ジュニア時代は、燦然と世界女王に輝いた。平昌五輪を制覇したアリーナ・ザギトワと競い、この日、ダントツの優勝を果たした坂本花織を上回っていたのだ。

 NHK杯で見えた本田の現在地とはーー。



フリー演技の本田。実力を出し切れなかった

 2018年から、本田はあえて厳しい道を選び、アメリカに拠点を移している。異国での生活、言葉の壁、帰国したときの調整方法に苦しみながら、経験を積み上げていった。結果が出そうなところで、19年にタクシーの追突事故に遭う。ハンディを負いながらグランプリ(GP)シリーズを戦い抜き、全日本選手権ではフリーで最終滑走組に入った。

 本田は逃げていない。

 今シーズンも、初戦になるはずだった10月のジャパン・オープン開幕直前、ジャンプの転倒で右肩を脱臼し、一度は自分で肩を入れた。翌日に滑った時に再び肩が外れ、棄権せざるを得なかった。NHK杯まで休むべき状態も、東京選手権出場を強行した。フリースケーティングで違う曲のCDを渡すも、即興で滑り切った。自らのミスをリカバリーし、東日本選手権、全日本へ勝ち進んだ。

 本田は、もがきながらも必死で前へ進んでいる。

 NHK杯では、転倒やすっぽ抜けのような大きなミスをしていない。演技構成点だけでいえば、上位と比較しても遜色はなかった。フリーのスピンはすべてレベル4で、優雅さを醸し出した。3回転の連続ジャンプを回避するなど難易度は少し落としていたものの、ジャンプもすべて着氷していた。

 しかしながら、7本中6本のジャンプが回転不足やエッジエラーと判定されてしまったのだ。

「ケガ明けから、ジャンプは回転不足になってしまうことが多くなって。大会が近づき、全体的に戻ってきていたし、しっかり回り切って降りるということは心がけてきましたが......。回転不足になると、せっかくジャンプを跳んでもマイナスがついて、失敗したのと同じようになってしまうので。次に向けての課題ですね」

 本田は憔悴した様子で語っている。口元にもどかしさがにじんだ。

「この会場に来てからも、(公式)練習から不安でいっぱいで。その不安がジャンプに影響し、調子が上がらないのかもしれません。だから、一番大事なのは、自信を取り戻すっていうところで。そのためにも、とにかく笑顔で、って思っています。不安な顔をしていては、お客さんを元気にさせられないですし、滑っていて楽しくないので」

 彼女はどうにか笑顔をこしらえて言った。無念さに沈めば、そこで終わる。打ちひしがれたことは一度ではないだろう。

「姉(本田真凜)が結果だけを見て、試合の内容を決めつけられているのを何度も目にしてきました」

 それは先日のインタビューで、本田望結が姉について語っていた言葉である。姉妹だけが知る歯がゆさがあるのだろう。作っては壊れてきたはずだ。

 昨年の夏のインタビューで訊ねた。

ーー理想のスケーティングがパズルのピースだとしたら、完成までどこまではまっていますか?

 本田は凛とした表情になって、こう答えていた。

「ちょっとずつ組み立ててあるのが、バラバラにいるって感じです。考えてスケートをすることが今までなかったので。小さい時の感覚で、なんでもできたのに、それがなくなって。普段の生活から、何でも考えて行動するようになりました。一つ一つの行動に対し、考えるようになって。おかげで少しはピースがそろってきているかな、と。粘り強く、頑張っていきたいです」

 悪戦苦闘なのかもしれない。しかし諦めず、挑み続けているのは間違いないだろう。違うピースをはめたなら、やり直すだけだ。

「不安や怖さを克服し、楽しんで滑れるように」

 本田は言う。苦難を切り抜けられるか。あるいは、その出口にいるのかもしれない。12月、自らの格闘で出場権を勝ち取った全日本選手権に挑む。